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転生者マリアンヌ1

「やっぱり、ここにいた!」


頭に突き刺さるような甲高い不愉快な声に、ぎょっとして跳ね起きると自分を覗き込んでいるマリアンヌに驚き、反射的に彼女から距離を取る。


「なんで君がここに…。」


カイルは半身を起こし気だるげに額に片手を当て、疲れた目をマリアンヌに向けた。

ここは校舎の裏庭にあるベンチ。

この裏庭は花壇などがなく殺風景だから生徒がほとんど来ない。静かだし昼食後の昼寝の場所として最適だからほぼ毎日、ここで寝ている。

そのことは親友のウィリアムも知らないはずだ。


「ここでカイル様が寝てるって知ってたんですぅ。うふ。居て良かった。」


カイルの隣に断りもなくマリアンヌは座る。

貴族令嬢らしからぬドスンという感じの座り方に、カイルの眉間の皺が深く刻まれる。

それには気付かないようで、マリアンヌが手にもっていたバスケットからナプキンでくるんだものを差し出してきた。


「…なんだ?」

「マリの手作りクッキーです!」

「は?」

「カイル様はご両親にほっておかれてお育ちだから、手作りのクッキーなんて食べたことないですよね?マリ(・・)が、カイル様のために焼いてきたんです。ぜひ召し上がってくださいな?」

こてんと首を片側にかしげ、上目遣いでうるうると見上げてくる。


…確か、殿下にも同じようなしぐさをしていたが。

これが可愛いと本気で思っているんだろうか?

カイルはイラっとした。


「要らん。」

「そんな悲しいこと言わないでくださいなっ。マリがせっかく焼いたんですから!」


ナプキンごとぐいぐい押しつけられ、

「あ、そろそろ昼休みも終わりですね!また!」

と校舎の方に走っていってしまう。


「いったい何なんだ…。もしかして毒入りか?」


毒入りなら退学どころか犯罪者として貴族から追放できる。

そうであってほしいとため息をつきながら、後で調べてみようと包みをポケットにねじ込み、あくびをしながらカイルも校舎に戻っていった。




 マリアンヌは「うふふふふ」と笑いながらスキップする。

「よし!カイル様にクッキーを渡すイベントは突破!これで好意が10上がったはず!」

転生前に没頭したゲームの通り、裏庭のベンチでカイルはお昼寝をしていた。

いろいろゲームと違う部分があるのは気になるけれど、ここは間違いなく、『聖パラ』、『聖女の恋愛パラダイス』の世界だ。

自分、つまり、マリアンヌはその主人公。

主人公は光の属性を持ち、この国トップの魔力を誇る。

マリアンヌが学院に入学して1年後、この国に疫病が流行するのだけれど、それを癒しの力で終息させ、その功績でもって聖女と呼ばれるようになる。

そして当然、結婚相手もよりどりみどりで、好きな攻略対象と結婚するのがノーマルエンド。

それ以外に、全員と好感度を最大に上げていた場合、逆ハーレムエンドも可能だ。

学院入学から1年の間に全員との好感度を最大に上げるのは非常に難しく、課金しまくらないと実現できないけれど、1人に絞れば攻略は難しくない。

マリアンヌが一番夢中になったのは王太子ウィリアム。次が次期魔術師団長になると言われる公爵令息カイルだった。


お約束の悪役令嬢も出てくる。ロザモンド・オルレアンだ。

マリアンヌが王太子ルートを攻略していた場合、卒業式の後に開かれるダンスパーティで婚約破棄を告げられ、それに逆上して近くのテーブルにあった果物ナイフを使ってマリアンヌを殺そうと突進、周囲の者に止められて捕縛された後は、未来の王太子妃を殺害しようとした罪で修道院送りになる。


「死刑とかだと夢見が悪いけど。修道院で祈りの生活だもん。気にしないで断罪しちゃっていいよね?」


ふと見上げると、今思い出していた悪役令嬢のロザモンドが王太子と並んで2階の渡り廊下を歩いているのが見えた。


「おかしいなあ。ロザモンドは高慢ちきだから王太子は嫌っているはずなのに。大勢が見ているからそれを隠しているだけかな?」


きっとそうだろうと、マリアンヌはうなずく。


「うん。きっとそうだよ。わたしは光の属性持ちで聖女様になれるんだもの。ウィルのお嫁さんになりたいなあ。ゲームでも一押しだったし。でも、現実のカイルも影があって捨てがたいなあ。それとも、逆ハーレムエンド、目指しちゃう?」


くすっとマリアンヌは笑う。




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