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懲りない令嬢

「ウィリアム様あ!」


…また来た。

昼休みになるとどこからともなく現れ、ウィリアムとわたくしの食事に割り込もうとする。

この学院の食堂の席はどこにだれが座っても問題ないオープンカフェ。

でも、王太子とその婚約者が座って昼食を取っている席に声をかけてくるようなつわものはほとんどいない。

王太子の親友のカイルでさえ。

もっともカイルは昼食を早くかきこむために会話を惜しんでいる節がある。さっと食べてどこかに消えてしまうのだ。


「グロー嬢。わたしの名を呼ぶ許可を出した覚えはない。いい加減覚えられないのか?」


イラっとした声を出しながら、ウィリアムは彼女の方を見ようともしない。

「ロザモンド。それで週末の件だが…。」

「週末?どこか行かれるんですか?わたしも一緒に行ってもいいですか?」

ウィリアムが無視しているのに、彼の隣に許しも無く座ってウィリアムに笑いかけているマリアンヌに、わたくしは思わずきっと睨みつけてしまった。


「きゃっ!嫌だあ、怖いですぅ。ウィリアム様!」

わたくしの視線に耐え切れないと言わんばかりに大げさに悲鳴をあげてマリアンヌはウィリアムにまたしがみつこうとして避けられた。


「グロー嬢。王族にむやみに触れるな。暗殺を企てた疑いで逮捕もありうるのだぞ?」

「ええ?暗殺?そんなこと、マリはしないもん。あ、グロー嬢なんて硬い呼び方は無しでお願いしまーす。マリって呼んでくださいな。ね?」


首をこてんと片方にかしげ、上目遣いでウィリアムを見上げるマリアンヌを見て、なんだかイラっとした。


「グローさんのご実家は男爵でしたっけ?」

フォークとナイフで音を立てないようにヒラメのムニエルを切る手を休めないまま問いかける。

「あー!出た!身分が低いんだから仲間外れにするってイジメ!」


思わず、ナイフが手からすべり落ちてかちゃんとお皿を鳴らす。

「はい?」

「ねえー、酷いと思いません?この学院に居る限り、学生は皆平等にお付き合いできるはずですよねえ?」


ウィリアムにうるうるの目で訴えるマリアンヌ。


「建前はそうだが…。しかし…。」

「王太子殿下と学院内で話をしちゃいけないって決まりはないですよね?」

「決まりはないが…。」

「いい加減になさいまし。決まりは無くてもマナーというものがございますでしょう。」「きゃっ。怖い!」


まるで、わたくしにぶたれるのを恐れるかのように顔の前を両手で覆う。

…手を上げる価値なぞ無いのに打つもんですか。


「グロー嬢。いい加減にしてくれないか。わたしは今、オルレアン公爵令嬢と週末の打ち合わせをしている。貴重な時間を邪魔しないでくれ。」

たまりかねたようにウィリアムが言う。


「週末どこかに行くんでしょう?わたしも混ぜて?」

「私的な予定ではない。」

「ええ?お仕事?」

「そうだ。」

「ダメだよ。週末は休まなくちゃ!ウィル…、睨まないでよ…、殿下も休まないと身体壊しちゃうもん。…ロザモンド様?」


きっとマリアンヌがわたくしを睨む。


「婚約者のくせに殿下を週末働かせるなんて信じられない!週末、殿下が休めるように気遣うのが婚約者の仕事じゃないの?」


…この子は何を言ってるのかしら?

話が通じなくて頭が痛くなってきた。


 週末、王太子が休みをなかなか取れないのは平日に学院に来ているから。

成人前の王族の公務は少ないけれど、全く無いわけではないの。

成人したとたんいきなり王太子の仕事を全振りされたら本人も周りも戸惑いが大きい。

だから成人後にスムーズな仕事ができるよう、少しずつ振り分けてもらって経験を積んでいく。

その時間が週末に充てられるのよ。

そしてそれは王太子妃になるわたくしも同様。

王太子と一緒に学ぶこともあるし、一人で王妃様から学ぶこともある。

たまたま今週末は王太子と共に隣国の大使をもてなすようにと命じられていた。

大使夫妻が小さなお子様も同行されていたので、王立動物園に立ち寄るのはどうかと今、相談中だったのに。


「ロザモンド。ここでは話ができないね。行こうか。食事の途中で申し訳ないけれど。」

「承知しました。問題ございませんわ。」

食事の途中だけれど、食欲が完全に失せてしまったので問題ないわ。




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