卒業式後のダンスパーティ2
大ホールの正面はフロアより少し高い壇があり、玉座から立ち上がった国王夫妻、その両隣には宰相と外務大臣、魔法庁長官などの偉い人達が並び、拍手をしながら迎えてくれた。
全員が玉座の前に集まると、学院長の合図で一斉に国王陛下に向かってお辞儀をする。
男生徒はボウ・アンド・スクレープを。女生徒はカーテシーを。
3年間毎週学んだマナーの集大成だ。
「楽にせよ。」
国王陛下の声で一斉に姿勢を正す。
「諸君らの卒業を寿ごう。新たにわがハーティ王国に若き仲間が増えたことを祝うため、この場を設けた。ぜひ、皆で楽しんでいってもらいたい。」
国王の挨拶が短く切り上げられると同時に、楽団が音楽を奏でる。
ここからは自由にパーティを楽しむ時間となり、卒業生たちが一斉にダンスを始めたり、めったに会えなくなる友人とホールの端に行っておしゃべりを楽しみ始める。
「おいで。ローズ。」
わたくしはウィリアムに連れられ、壇上に上がって、国王夫妻に挨拶だ。
「このたびはわたくし達のために…」
「いやいや、ロザモンド。固い挨拶は結構。それより、2人とも卒業おめでとう。最後の試験では1位と3位という輝かしい総合成績を修めたそうだな?」
「2位を取れず、申し訳ございません。」
「はっはっはっ。カイルが居る以上、それは無理というもの。魔術の試験で彼に勝つことは不可能じゃろう?ウィリアムでさえ無理なのだから。」
「そうだよ。ローズ。それに君に負けなくて良かった。っていうのがわたしの本音。」
「ウィリアム様ったら。」
「うむうむ。この国の将来もこれで安泰というもの。国王と王妃は仲が良いのが一番じゃからなあ!」
国王に冷やかされた思わず、赤面する。
「さ。挨拶はここまで。明日以後、儂らとはゆっくり話す時間が増えよう。今は、最後の学生生活を楽しんできなさい。…特に、ロザモンド。そなたは明日からは王太子妃としての振る舞いが求められる。伯爵以下の友人とは会えなくなると思って良い。今のうちにきちんと別れを告げておくように。」
「ご配慮、痛み入ります。陛下。」
正直に言えば、わたくしには伯爵以下の友人はいない。
Aクラスに在席できるような生徒はやはり小さい頃から家庭教師が付いていた伯爵以上の家柄の者ばかりだったから。
それでも、クラスの枠を取り払った「お茶会」と「ダンス」の授業で知り合った下級貴族の令嬢は何人もいる。
マリアンヌの取り巻きになってわたくしの陰口を吹聴した令嬢ばかりではないのだ。
取り巻きにならず、密かにわたくしを慕ってくれた令嬢もいる。
わたくしはそういう令嬢達に挨拶して回った。
本来はわたくしに挨拶に来るべきかもしれないけれど、彼女たちは近づくのさえ遠慮していたから…。
厳しいことを言ったけれど、それに腐らず頑張ってくれた令嬢は、このダンスパーティで下級貴族とは思えないほど、とても綺麗な所作を披露していた。
その中の何人かはまだ結婚相手が決まっていない。
数人の伯爵家の次男や三男が熱心に彼女たちを見ているので、もしかしたら上級貴族に嫁ぐ可能性があるかもしれない……。
子爵家であれば伯爵家に嫁ぐのはそれほど難しくないから。
わたくしは、なんだかそれが少しだけ嬉しかった。
彼らと会話を楽しむ傍ら、外国の大使達が挨拶に訪れれば応対する。
ダンスパーティとはいえ、ウィリアムと踊る時間は取れそうになかった。
…ウィリアムと踊りたかったけれど。今後嫌というほど機会はあるでしょう…。
そんな時に、パーティの終了時間間近、国王陛下の声がホールに響く。
「卒業生諸君。学生最後の夜を愉しんでもらえただろうか?しかし、この楽しい時間もそろそろ終わる。最後に卒業生全員。中央で最後のダンスを!そのダンスを持ってこのパーティをお開きとしよう!」
ウィリアムがニコリと笑ってわたくしに手を差し伸べる。
「踊っていただけますか?美しい方。」
「喜んで。」
楽団がパーティの最後に相応しい重厚な音楽をゆったりと奏で始め、わたくしはウィリアムと静かに踊り始めた。
周りでも同級生たちが皆、思い思いのパートナーと一緒に踊っている。
「ありがとう、ローズ。」
「え?」
「君と一緒に過ごした学院での生活はとても楽しかった。とんでもない事件に巻き込まれたけれど。」
「ふふ…。本当ですわね…。わたくしもウィルのお陰で楽しかったですわ。」
「明日からは今までより大変なこともあると思うけれど、君を絶対に離さない。その代わり、きっと君を守ると誓うよ。…愛している。わたしのローズ。」
ウィリアムの顔が近づいてきて、わたくしは公共の場で初めて唇を奪われていた。




