国王と魔術庁長官
その後、マリアンヌは魔術庁に所属する闇の魔術師によって記憶を読まれた。
専門の闇の魔術師に対しては何の抵抗もできずに。
「よその世界から転生してきた記憶がある?そしてこの世界のことをそこで知っていたと?しかもそれは彼女が主人公の聖女で王太子妃になる、だと?」
調査結果を報告された国王が頭を抱える。
「アードレー魔法長官。今まで他の世界から転生してきたという話を聞いたことがあるか?」
「ございません。王。」
「彼女の妄想ではないのかね?」
「妄想とも言い切れません。我々でさえ見たことも聞いたことも無い知識を持っているので。」
「ふうむ。であれば、マリアンヌは貴重な記憶を持つ人材として保護すべきなのか?」
「わたくしも最初はそう思いましたが、あの娘は保護すべきメリットが全くありません。」
「ほう?」
「他の世界の記憶があるのであれば、その世界の情報を得たいものです。わたくし自身が彼女の頭の中を覗き込みましたが……。」
アードレー魔法長官が顔を歪めた。
「何も有意義な情報をもっていない頭の悪い、ふしだらな小娘でございましたよ。…むしろ、我が国に害をもたらす知識ばかりでございました。」
「ほう?例えば?」
「あの娘のいた世界は王や貴族がおらず、平民が自ら政治を行う者を選ぶようです。」
「何だと。そんなことが可能か?」
「この世界の民にそんなことができるはずがありません。政治をさせたいならまず彼らを教育することから始めなければ。でも我らはそれを良しとはしていません。したがって、そんな思想を持ち込ませるわけには参りません。」
「確かにの。」
「それから貞操観念が緩い世界のようです。婚約者でもない男に平気で抱かれており、それを咎める者もいない。あの娘だけの話かと思いましたが、彼女の周りはそういう者ばかりのようで。…彼女のいた世界は我々とは全く違う価値観をもっているようです。」
「なるほど…。それであの娘は誰彼おかまいなしで異性に声をかけまくっていたわけか…。下級貴族の中にはそれが原因で婚約が破談になった者もいると聞いている。」
「まあ政治や道徳には目をつぶるとしても。何か我が国の発展に役立つ情報が無いかといろいろ調べたのですが。結果、おもしろいものはありましたよ。どの家でも取っ手をひねればお湯や水が出てくるし火も付く。夜も昼間のように明るい。…便利だったのでその仕組みが知りたかったのにあの小娘は全く知らなくて役立たずでした。…どうせ転生者が我が国に来るなら、そういう仕組みを知っている者を寄こしてくれればよいものを。」
「…そうか…。」
「ええ。ともかく、そんなわけで、あの娘は他の者から絶対隔離が必要です。…この国に害を為しそうなので殺すべきかもしれませんが、今まで他の世界の知識を持った者を聞いたことが無いので…。魔術庁としては生かしていろいろ調査したいですな。」
「ふうむ。絶対に彼女が生きて出てこられず、誰かが脱獄させようとしても不可能と断言できるような場所があるかね?」
「ございます。魔術庁が入っている建物の地下の最深部に一度投獄したら2度と出られない牢があります。厳密には『牢にとらわれる』が正しいか。牢の前にある魔法陣に囚人を入れて陣を発動させると、囚人の全身に刺青が刻まれます。その刺青が牢から50メートル離れると即座に囚人を牢の中に引き戻すのです。この刺青を全て消さない限り、囚人は牢から出られません。」
「その刺青を消すことができる者が侵入したら?」
「侵入自体が不可能です。あの地下の存在自体を知っているのが魔術庁でもほんの数人。さらに入るためには魔力登録が必要だし1人では入れない。必ず魔術庁長官と一緒でないと入れないのです。それから、刺青を消す魔術自体がどこにも伝わっておりません。残念ながら、魔法長官であるわたくしも消すことができません。」
「なるほど…。彼女の調査は、そなたが直々に行うということだな?」
「ええ。その通りです。他の者に任せられませんから。」
「わかった。許可しよう。対外的にはマリアンヌ・グローは王家への反逆を企てた罪により死罪とする。グロー男爵家は気の毒だが爵位を返還させ平民に落とす。」
「気の毒ではないですな。どのような者であれ、自分の子供だ。きちんと厳しく躾けていれば、よその世界から来たとしてもこの国のルールに則って生きていくことがあの娘にもできたかもしれませんから。」




