マリアンヌの混乱2(マリアンヌSide)
部屋の中で暴れまわればさすがに疲れて、マリアンヌはへたりと床に座り込む。
これだけ大騒ぎしても誰も入ってこないのはきっとこの部屋は防音の魔術がかかっているんだろう。
「…わたし、どうなるんだろう?…日本だと名誉棄損罪?罰金?」
「罰金で済むはずがないだろう。」
「誰!?」
誰もいないはずの部屋に声が聞こえて思わず振り返れば、先日会った黒いローブを頭からすっぽり羽織った男が立っていた。
「…あんた…。どうやってここに?…いえ、どうやってでもいいわ。わたしをここから連れ出してよ!」
彼にすがりつこうとした途端、目の前から彼が消え、ぎょっとして周囲を見渡せば、背後に立っている。
「思ったよりも使えなかったな…。」
「え?」
「お前の魅了の力が思ったより弱かった。計算違いだ。」
「…え?…どういう…こと?」
「魅了の力がもう少し強ければ、お前の言いなりになった者は誰に何を言われようと、例え殺されようと恐怖を感じずに、ただただお前が命じたとおりに動く。操り人形のように。だが、そこまでの力をお前は持っていなかった。」
「うそ!わたしはあなたが教えてくれた通り、意識して魅了の魔術を使ったわ!」
「その力が弱かったと言っている。もう少し使えると思ったわたしが馬鹿だった。」
「…そんな!」
「魔術庁の誰かがお前の頭の中を覗き込むだろう。お前の罪を明らかにするために。そうしたら、わたしのことがわかってしまう。だから。お前には消えてもらう。」
「な…何を言って…。…というか、ここはゲームの世界じゃないの?」
「ゲーム?」
「『聖パラ』!ここは、『聖女の恋愛パラダイス』ってゲームの世界でしょう?」
「何を言っている?」
「う、嘘でしょう!?…ここは、じゃあ、どこなの?」
「…精神錯乱…か?」
憐れむように黒いローブを羽織った男がつぶやく。
「せめて、一息に殺してやる。」
男の手に禍々しい黒いもやのようなものがあふれ出した…と同時に、
「捕らえた!」
と大きな声がどこからか聞こえ、男の周りに銀色に光る檻が出現して彼を閉じ込めた。
「な!?」
慌てた声が男から漏れ、檻を破壊しようと魔力を放つも、彼が放った魔力は全て檻に吸収される。
「無駄だ。この檻は魔力を吸えば吸うほど硬化する。」
「き、貴様!アードレー魔法長官!?」
「ほう、儂を知っているか。お前は?」
その瞬間、魔法長官が放った魔力で男のローブがぽわっと燃え、慌てた男がローブを脱ぎ捨てる。
「ほほぅ。指名手配中のユーゴか。不法な人体実験を繰り返して逮捕されるも脱獄したヴィクトル・ユーゴ。」
「なぜ、貴様がここに居る?」
「マリアンヌ・グローを監視しておった。そこにいきなり侵入者が現れてびっくりしたのはこっちだ。…でも好都合だよ。マリアンヌが魅了の力をどうして使いだしたのか気になっていたんだ。お前がそそのかしたのか。…ふむ。しかし、ここではゆっくり話ができんな。」
アードレー魔法長官が指を鳴らすと銀色の檻ごと男は消えた。
空間転移をつかったらしい。
そして、マリアンヌの方はちらりとも見ずに魔法長官も姿を消した。
「な、何なの?いったい、何なのよぉ!そして、ここはどこなのよぉ!!!」
誰もいなくなった部屋でひとり、マリアンヌの絶叫が響き渡る。




