マリアンヌの混乱1(マリアンヌSide)
マリアンヌは騎士団に併設されている貴族牢に監禁されて頭を掻きむしっていた。
彼女が今居るのは罪が確定しない貴族が監禁されるところなので、見た目はごくごく普通の客室。
自宅のベッドよりも寝心地が良さそうなベッドとティーテーブルに椅子もある。
テーブルの上には火傷をしない温度のお茶が入った銀色のポットも置かれているし、時間をつぶせるようにと壁には十冊程度の書物が収められた小棚もある。
普通の客室との違いは、窓に鉄格子が嵌まっていて扉には外から鍵をかけられて出られないことだ。
「…なんで、なんでよ。」
『聖パラ』のゲームの中では、教科書を破かれたり転ばされたりの被害が苛めとして認定されていた。
「ご覧。この破かれたマリの教科書を。君がこんな愚かな真似をするとは思わなかった。」
と引き裂かれた教科書をウィリアムがロザモンドに突き付けるムービーもあったのだ。
普段座っている机の中にあった教科書を自分でこっそり破いて屑籠に放り込んだ後、クラスメートの前で「ひどい…。」と泣いても翌日には机の抽斗の中にちゃんと新しい教科書があったことを不思議に思うべきだった。
ゲームの中だから教科書も小道具の一つで自動的に現れているとばかり信じていて。
もちろん、自宅に教科書なんて無い。
学院入学前、両親に教科書を買ってとねだった時に、学院が用意するから買う必要は無いのだよ、と言われてそれきりだ。
学院が用意するイコール自分の物になる、だと思い込んでいたけれど、そうでなく、誰でも使える公共物だったわけか。
つまり、「破かれてひどい」と泣いても、クラスメート達には「マリアンヌの教科書が破かれた、つまり、マリアンヌが苛めにあっている」という認識はなく、「マリアンヌは優しいから学校の教科書が破れているのを悲しんでいる」と思われていたらしい。
突き飛ばされたことも、証言してくれる生徒がいなければ証拠が無い。
魅了によって自分の言いなりになっていたはずなのに、王宮裁判所で宣言が必要と聞いたとたんに皆が尻込みして証言してくれなくなった。
「なんでよ!魅了の力をいっぱい使ったのに!なんで完璧に言いなりになってくれないのよ!」
ベッドの上にあったクッションを腹立ちまぎれに壁に投げつけたつもりが手元が狂ってテーブルの上のポットとカップに当たり、床に茶器とお茶が散乱する。
大きな物音がたったのに、誰も部屋に入ってこない。
「貴族に違いがあるぅ?そんなの『聖パラ』の公式設定集には書いてなかったじゃん!どうなっているのよぉ!」
むちゃくちゃにクッションを振り回し、投げつけ、部屋の中を荒らしまわった。
「ちくしょう!悪役令嬢が動かないからってバグが多すぎ!わたしはヒロインなんだからっ!早く働けよ!ゲームの強制力!!」




