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学院祭のダンスパーティ5(パラディン侯爵令嬢Side)

 わたくしは、ジョシュア・パラディン。

代々、王家専属のマナー教師を務める家柄であるパラディン侯爵家の長女で、将来は王太子殿下のお子様方のマナー教師になるべく育てられてきましたの。


両親ともに王家や高位貴族の令息令嬢相手のマナー教師なので、わたくしは生まれた時から厳しく、…本当に厳しく躾けられました。

だから、同年代の令息令嬢に比べれば、はるかに洗練されたマナーを身につけているというプライドがございました。

ございました、と過去形なのは、学院入学と同時にそのプライドが粉々に砕け散ってしまったからですわ。


忘れもしません。

入学式の後、教室で出会ったロザモンド・オルレアン公爵令嬢を見た時、その美しい立ち居振る舞いに一目で魂を奪われましたのよ。

でも、その時は、まだ自分の方が優れていると、王家の子供を教えるほどのレベルに自分が到達しているのだから、とただ思っていたのですけれど。


上級貴族令嬢といえど淑やかに座っておしゃべりするだけでなく、いろいろとゲームもいたします。まだ遊びたい年頃ですもの。

わたくしはロザモンド様に勝ちたくて、いろいろとゲームにお誘いしました。

どのようなゲームかって?

本を頭に載せてホールの端から端まで歩くときの冊数や時間を競ってみたり、お茶を淹れる際の芸術性や味の違いを審査したり、即興で詩を作るといったことですわ。

これらは全て淑女としての訓練の一環ですけれど、どうせやるなら楽しんだ方が良いですからね。

そして、わたくしは全てのゲームでロザモンド様に完敗いたしました。


ええ。完敗でしたわ。

負けたことが悔しくなかったとは言いませんが、これほどの差をつけられると悔しさを通り越して憧れにまで昇華するものです。

わたくしは、ロザモンド様が王太子妃になられてお子を授かり、そのお子にマナーをお教えする未来がとても待ち遠しかった。

ロザモンド様もわたくしをお認めくださり、友人として、王太子妃のアドバイザーとして自分の側に付いてほしいとおっしゃってくださいまして、それがどれほど嬉しかったことか!


 そんな楽しくも充実した日が続いていたのにやがて、学院内でロザモンド様を陥れようとする不穏な空気が漂い始めた時は、その首謀者であるマリアンヌ・グロー男爵令嬢を本気で潰そうと思いました。

両親に訴えれば、我が家は王家の覚えがめでたいこともあり…、マリアンヌを学院から追放する罪の一つや二つ簡単に作り出すことができたでしょう。

でも、動けませんでした。

カイル・アードレー公爵令息から「何もするな。」と釘とさされたからです。

理由は聞かせていただけませんでしたが、王家がすでに動いていると聞けば、わたくしの出る幕ではございません。


ロザモンド様が時々、表情を曇らせるのを見るのがとても辛かったのですけれど、そのような時でもあの方は毅然と美しい姿勢を崩すことはございませんでした。

さすが、わたくしが主と仰ぐ方ですわ。


こほん。

わたくしの話が長くて申し訳ございません。

さて、本題に入りましょう。


 今日は学院祭が盛況のうちに開催され、夕方からのダンスパーティも始まりました。

わたくしにも幼いころからの婚約者…第一近衛騎士団長をされているガーディア侯爵のご長男であられるロベルタ様…と一緒に参加しておりました。

そうそう、このロベルタ様も以前、マリアンヌに親し気に言い寄られて不愉快な思いをされたのだそうですよ。

婚約者がいると断ったのに、まだ結婚したわけじゃないから大丈夫、とか訳の分からないことを言われて交際を迫られたのだとか。信じられませんわよね。


ロベルタ様に手を取られてダンスを始めた直後いきなり、わたくしは突き飛ばされ、ロベルタ様がとっさに支えてくださらなかったら転んで恥ずかしい思いをするところでした。


「申し訳ございません。わたくしとしたことが…。」

「いや、ジョシュアは悪くない。それにしてもなんだ、あの失礼な女は。」

「…マリアンヌ・グローですわね。何事でしょう…。」


どたどたと下品に歩いていく姿を見て、わたくしは声を失いました。


…何ですの?あの格好は?


目が痛くなる派手なピンク色のドレスは、フリルがこれでもかと言わんばかりに付けられ、そのフリルの中から白いバラの造花がごてごてと見えます。

その造花の真ん中がキラキラ輝いていますけれど、その輝きは宝石ではなく…たぶん、ガラス玉でしょう。

それになんですの?あの胸元。開きすぎですわ。

未成年ですのに、はしたな過ぎますし、フリルの可愛らしさと全然雰囲気が合わないじゃありませんか。

首元と手首の宝飾品も全くドレスと似合っていません。

センスが無いドレスであることを置いておいて、可愛らしさを前面に出したドレスに、あんな大粒な宝石がついたネックレスや腕輪はありえないでしょう。


「ロベルタ様…。本当にマリアンヌは貴族令嬢なのですか?」


ついぽろりと本音がこぼれ、慌てて口をつぐみましたけれど、ロベルタも呆れきっていたのでしょうね、辛辣な言葉を出されていました。

「養子とは聞いていないが…。平民の方がまだ振る舞いがマシかもしれない。」

と。



 とにかく、マリアンヌは生まれて初めてドレスを着たのでしょうか?と突っ込みたくなる情けない歩き方で、何度も裾を踏んづけて転びかけ、とうとうスカートをまくり上げて異性には見せてはならない足首を露わに歩いて行き…。


そして。


「ロザモンド様は王太子殿下の婚約者としてふさわしくありません!婚約を破棄すべきです!!」


…わたくしは、卒倒しかけましたわ!

ロベルタ様がわたくしを後ろから抱きしめてくださいましたので何とか意識を保っていることができましたけれど。

その後のマリアンヌの出まかせに、ふつふつと怒りが湧いてきて、卒倒しているどころではないと自分を鼓舞いたしました。


そして、とうとう堪忍袋の緒が切れたわたくしは、ロザモンド様の代わりにマリアンヌを糾弾すべく、王太子殿下の前に歩み出たのでした。


「指導と苛めの違いがわからないなんて、これだから下級貴族は下級貴族なのですわ。」





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