学院祭のダンスパーティ4
パラディン侯爵令嬢と呼ばれた女性が流れるような所作で壇に近づいてきて、マリアンヌを無視したまま、ウィリアムの前でカーテシーを取る。
「突然割り込みまして、申し訳ございません。王太子殿下。ロザモンド様。せっかくの楽しいこの場を台無しにした茶番を終わらせませんと、時間がもったいのうございますから、しゃりしゃり出てまいりました。」
「パラディン嬢。構わないよ。」
ウィリアムが険しい顔を緩め笑顔を向ければ、パラディン侯爵令嬢は柔らかい微笑みを返し、再度会釈をした後でくるりとマリアンヌや苛められたと訴えた令嬢達の方を向いて、軽蔑の眼で見回す。
「あなた達が受けたのは苛めではなく、指導ですわ?怒るのではなくむしろ指導してもらったことに感謝すべきではなくて?」
「なんですってえ!本を頭の上に乗せるとか、苛めじゃないの!」
「…これだから下級貴族だと言われるのですわ。…上級貴族の令嬢は皆、通ってきた道ですことよ?」
「え?」
「上級貴族に生まれたからといって美しい所作が簡単にできるわけはないでしょう。上級貴族としての所作を厳しく…本当に厳しく幼いころから教え込まれるからこそ、美しい所作を身につけているのです。本を数冊乗せて歩かされるなんて上級貴族なら初歩中の初歩でしてよ?」
マリアンヌの周りの令嬢の顔が青ざめていく。
「ちなみにロザモンド様は頭の上に書物を10冊載せてホールの端から端まで歩いた記録をお持ちです。わたくしは7冊でしたけれど。…ふふ。それを競うのは上級貴族の娯楽の一つですわね。」
マリアンヌの周りに集まっていた令嬢達が恥ずかしそうにこそこそとマリアンヌから離れて大講堂から逃げるように居なくなる。
「ねえ、マリアンヌさん。おわかりですかしら?決して、ロザモンド様は苛めてなぞいなかったと。ね?…無知って恐ろしいですわよねえ?」
パラディン侯爵令嬢が扇子で口元を隠しマリアンヌを見据える。
口元は隠しているけれど、哄笑しているのが明らかな様子に、マリアンヌの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
何か反論する言葉を探しているのか、口をパクパクさせているが声になっていない。
「グロー嬢。これでもまだロザモンドが王太子妃にふさわしくないと言い張るつもりか?」
そんなマリアンヌの耳に、ウィリアムの冷たい声が届いた。
「…くっ…。」
「何も無いようだね?証拠も無いのに王太子の婚約者を貶めようとした罪は重い。王家への反逆罪疑いにより君を拘束させてもらう。」
「…!なっ!」
ウィリアムの合図で王太子付きの騎士がホールに入って来るが早く、マリアンヌを拘束して講堂から連れ出す。
マリアンヌは必死で抵抗したけれど、鍛え上げられた騎士2名が左右から腕を掴んでいるため、為すすべもなく大講堂から姿を消した。
「グロー嬢のことは王家が預かる。…さて、皆。騒がせて申し訳なかった。ダンスパーティを再開しよう。…演奏を始めてくれるか?」
ウィリアムの声に、王立楽団の演奏家たちがはっとしたように楽器を持ち直し、明るく軽快な演奏を再開した。




