王宮にて報告
「あの…、何かございましたか?」
「え?」
王宮に向かう王家の馬車の中で、ウィリアムの前に座っていたわたくしは疲れた顔をして窓の外を見ているようで見ていない彼に思い切って声をかけた。
「え?…ああ、すまない。君と一緒なのに無視してしまったね。」
「いいえ。それはお気になさらず。でも、お顔色が少しすぐれないようでしたので。」
「心配してくれるの?君はやさしいなあ。」
ウィリアムが手を伸ばして来てそっとわたくしの頬に触れ、微笑まれ。
思わず顔が赤くなるのを感じて、ついと目をそらしてしまう。
「お、王太子殿下の御身は大事ですもの…!」
「王太子だから?わたしのことが心配じゃないの?」
「うっ…。殿下が王太子でなくっても、心配ですわ。」
「ウィル。」
「はい?」
「2人きりの時は愛称で呼んで?何度言えばわかるのかなあ?」
「…ごめんなさい。」
やがて、馬車が王宮に到着すれば、国王陛下の執務室まで一緒に連れてこられた。
「父上、失礼します。」
「おお。ウィリアム。…と、ロザモンド。」
「国王陛下におかれましてはご機嫌うるわしゅう。」
わたくしがウィリアムの後ろでカーテシーを取れば
「そんな堅苦しいのは無しだ。ロザモンドは娘同然なのだからな。こっちにおいで、二人とも。」
明るい声が響いて、少し緊張がほぐれる。
ありがたいことに、国王陛下も王妃様もわたくしを可愛がってくださっている。
「父上。今日の魔力判定で光属性が1人居ました。マリアンヌ・グロー男爵令嬢です。ただし、魔力量は中の下。カイル・アードレー公爵令息も共に確認しました。」
「ほお。光属性とは。良い知らせだが、魔力量が少ないのが惜しまれるな。」
「カイルも残念がっていました。」
「であろうなあ。…ともあれ、光属性であれば王妃に会わせねばならぬか。光の使い方を教えられるのは同じ属性の持ち主しかおらぬ故。」
「そうですね…。」
「うん?何か気がかりでも?」
「いえ…。なんでもございません。取り急ぎ報告させていただきました。」
「ああ。わかった。…どうかな、ロザモンド。これから休憩を取るから一緒にお茶を…。」
わたくしが返事する前にウィリアムが早々に遮る。
「父上。ロザモンドと2人でお茶を飲む予定なので。今日はこれで失礼しますね?」
「全くお前は…。ロザモンド、狭量な愚息ですまんね。近日中にわたしたちのお茶会にも来ておくれ。王妃が会いたがっている。」
「もったいないお言葉。ありがとう存じます。」
「うん。」
「君との時間はなかなか取れないからね。父上にも邪魔されたくないんだ。」
ウィリアムが廊下を歩く途中、髪をかき上げ軽く乱される。その色気に当てられて頬が熱くなるのを感じて、少しだけうつむく。
公の場所では前髪を上げて額を見せるようセットされているけれど、私的な場所では前髪をクシャっと下ろすのがお好きな方。
前髪を下ろすと少し顔立ちが幼くなるけれど。
…そんな彼を知っているのは…、わたくしだけ…ですわよね?
「バラ園が今見事だと母上が言っていた。そこでお茶を飲もう?」
「ありがとうございます。楽しみですわ。」