逮捕劇
王太子とのお茶会から数日後、早朝突然、バーリー侯爵家は騎士団に囲まれた。
バーリー侯爵家から蟻一匹出られないように包囲された中を、第一騎士団団長が数人の騎士を連れて訪問を告げ、執事によって開けられた扉から入室の許可を得ずに突入し、まだ起きたばかりで着替えも終わっていないバーリー侯爵を捕縛した。
「な、なぜ、わしを捕縛するのだ!わしは陛下の覚えめでたいバーリー侯爵だぞ!無礼者!」
「バーリー侯爵。あなたに陛下から逮捕状が出ている。」
「な、何?」
「罪状を読み上げる。領地において王家に申告済みの金額より3割増しの税金を徴収した国税法違反。隣国スパード王国の商社グロイドに孤児を奴隷として人身売買した国際奴隷廃止法違反。私兵を使って魔獣を討伐した際に得た魔石を本来は我が国の商会またはギルドに販売しなければならないのに、隣国商社グロイドに横流しした魔石輸出関税法違反。」
「な…!濡れ衣だ!証拠があるのか!?」
「証拠があるからこそ陛下が逮捕状を出された。申し開きは王宮裁判所でするがよい。」
バーリー侯爵家からは侯爵だけでなく、10人以上の従僕や私兵達が連行された。
何の前触れもなくいきなり早朝に包囲されたため逃げられなかったのだ。
逮捕の翌日には王宮裁判所で裁判が開かれ、バーリー侯爵は、自分の書斎の隠し部屋に隠しておいた裏帳簿が証拠として提供され、また、隣国スパード王国の商社グロイドの番頭らが自分を裏切って侯爵との取引があったことを認める証言をしたことに愕然とする。
「申し開きがあるか?」
裁判長にそう問われたとき、バーリー侯爵には反論する余地が何も残っていなかった。
バーリー侯爵は爵位を剥奪の上、罪を犯した貴族が収監される北の修道院に30年の刑を宣告された。
また領民から不当に搾取していた税金をバーリー侯爵の私有財産から利子をつけて返還するようにと命令が出る。
さらに残された家族は貴族位が2段階下の子爵に降格となり、領地は王家が没収。
領地を持たない貴族となった。
跡を継ぐのはイザベラただ一人だったけれど、彼女は未成年のため成人するまでのつなぎとして親類から後見人兼仮の当主が王家から選定された。
バーリー侯爵夫人は罪人となった夫との婚姻継続を望まず離婚して実家の伯爵家に逃げ、イザベラ一人が残された。
北の修道院へ送られる日、バーリー元侯爵は第一騎士団長を見かけて、声をかける。
「騎士団長。一つだけ教えてほしいのだが。」
「わたしに答えられることであれば。」
「裏帳簿をどうやって見つけた?あれはわたしの書斎の隠し部屋にあって、しかもわたしは書斎から滅多に離れない。離れるときは執事になりすました私兵を待機させたほど用心していたのだが。当然、夜の方が守りが厚かった。」
「ああ。それか…。貴殿は一度だけ書斎から離れたことがある。しかも急だったので私兵に詰めるように命じる暇もなく。」
「はて。そんなことがあったかな?」
「王太子殿下がイザベラ嬢の茶会に招かれた時だ。」
「!!……、ははは。そういえば、そういうことがあったな…。」
バーリー元侯爵は肩をすくめた。
そうだ、あの日は王太子に誘われて舞い上がっていたのだった。
イザベラから王太子と親しくさせてもらっている、王太子はどうもロザモンドより私の方が好きみたいとも聞いていて、もしかしたら王太子と自分の娘の婚姻もありうるかもしれない…と夢を見ていた時だった。
2人のお茶会には自分が参加することは無いと思っていたので書斎を空けることを予定に入れていなかった。
「そうか…。わたしの負けだ。」
何かが吹っ切れたかのように口元を緩めるとバーリー元侯爵は自ら護送用の馬車に乗り込んだ。




