イザベラ・バーリー侯爵令嬢
イザベラ・バーリー侯爵令嬢はいつもよりも数時間早く起床し、入浴、マッサージにたっぷり時間をかけ、化粧とドレスの着付けもいつもより念入りに支度してもらった。
今日は王太子ウィリアムが我が家に来る日。
あの厄介な疫病の流行がすっかり終息して王都もいつもの賑わいを取り戻している。
そのため、王太子も王宮から自由に動けるようになったと聞いたので、我が家がいつもお世話になっているのでお礼にお茶を差し上げたいと申し出たら、快く受け入れてくれて、イザベラは天にも昇る心地だった。
父のバーリー侯爵も「もしかしたら婚約者の変更がありうるかもしれないな?」と期待しているらしい。
そうであってくれれば良いとイザベラは思う。
もちろん、その可能性は限りなく低いとわかっているけれど。
王家と貴族院が認めた婚約を覆すのは難しい。覆すほどの瑕疵がどちらかに無ければ絶対にありえない。
だから、王太子の心がイザベラに向いていることが明確になった暁にはロザモンドを暗殺すると父が密かに決めていることをイザベラは知っていた。
招待した時間に予定通り遅れることなく、王太子ウィリアムがバーリー侯爵の屋敷玄関に降り立つ。
「今日は招待してくれてありがとう。いつもお世話になっているのに却って申し訳なかったね?」
自分を労わってくれる優しい声に、イザベラは舞い上がりそうだった。
出迎えのカーテシーもそこそこについ、王太子に見惚れてしまう。
「ああ。バーリー侯爵。ご令嬢の招待、とてもうれしかったです。でも、よろしければ、侯爵もご令嬢と一緒に同席していただけませんか?ご令嬢と2人きりになることができないので侯爵が同席していただけないと、わたしの部下が後ろに立たないといけなくなります。それはあまりにも無粋ですので。」
バーリー侯爵が嬉しそうに頷く。
「確かに、殿下と未婚の令嬢を2人にするわけには参りませんな。…邪魔者かもしれませんが、わたくしが同席させていただきましょう。でもお二人の会話を邪魔しないとお約束いたしますので、どうぞおくつろぎくださいませ。」
「ありがとう。侯爵。では、従僕達は馬車で待っていてもらおう。」
「いえいえ、殿下。従僕様方には控室をご用意させていただいております。そちらをお使いくだされば。」
「重ね重ね、お気遣いに感謝する。」
「とんでもございません。…こちらへどうぞ…。」
侯爵家の最上級の客間で和やかにバーリー侯爵とイザベラ、ウィリアムの歓談が進む。
ウィリアムが終始にこやかな上、学院でのイザベラを褒める話題が多く、バーリー父子は頬が緩みっぱなしだ。
予定よりも長く続いたお茶会も、王太子の従僕が申し訳なさそうに「そろそろ王宮の戻らないと…。」と声をかけてきてようやくお開きになった。
ウィリアムを見送ったイザベラは笑顔が一層深まる。
隣に立っている父も「どうやら王太子殿下はイザベラに好意を持っているようだな。」とご満悦だ。
「イザベラ。卒業まであと半年も無い。その間にもっと王太子殿下と親しくなっておくように。」
「もちろんですわ。お父様。…ロザモンドよりわたくしの方が王太子妃にふさわしいと…認めさせて見せますわ。」
「そうだな。期待しておるぞ。イザベラ。」




