疫病の終息
キラキラ光る浄化の雨が降った翌日から、疫病に罹る国民が激減し、雨水を飲んだか身体に浴びた患者は命を取り留めて快方に向かった。
残念ながらすべての国土に浄化の雨が降ったわけではなく、降らなかった地域も多かったのだけれど、それらの地域は疫病患者の隔離がしっかりとなされたため、他の地域に再度疫病が拡がることは無く、数か月経つとハーティ王国から疫病は完全に消えた。
魔術庁と王宮医師団は、「疫病は何か見えない悪しきものが人から人にうつって流行するもの。その悪しきものが水の浄化で押し流され消えたのだろう。」と結論付け、「今後再び疫病が流行した場合は、速やかに水属性の魔術師が浄化の力を使うべし。」と報告書の最後にまとめ上げ、国王と貴族院はそれに向けて法の制定を急ぎ始めた。
「水属性が浄化の力を持つことは存じていましたが、まさか疫病の元を洗い流せるとは思いませんでしたわ。皆さん、本当にお疲れ様でございました。」
浄化の雨を降らせた関係者を慰労する目的で開かれた茶会で、王妃が和やかに微笑む。
もちろん、その関係者の中にはマリアンヌは含まれない。
魔術庁から招聘された水属性を持ち魔力を天に捧げた貴族達とロザモンド。そして王太子とカイルが、王妃の挨拶に微笑んでグラスを掲げる。
「我々もまさか、光属性以外がこのような使い方をできるとは知らず。まだまだ研究が必要と痛感いたしました。」
ひとりの魔術師の言葉にカイルもうなずく。
「そうだねえ。俺も全然思いつかなかったから、今後は水の持つ浄化についていろいろ試してみたいなあと思ってて。ロザモンド様、協力していただけませんか?」
「ダメだよ。」
ロザモンドが答える前に王太子ウィリアムが断る。
「ロザモンドは今すごく多忙なんだから、おまえの協力をしている暇はない。他の水属性を持つ魔術師に協力してもらえ。」
「えええ…。ロザモンド様の魔力は強いから一番良い研究対象…、おっと。」
うっかり口が滑ってじろりとウィリアムだけでなく王妃からも睨まれる。
「ロザモンドは王太子妃教育が優先ですから、カイル。あなたの要望はわたくしが許しません。」
王妃からもきっぱりと断られ、あああ…とため息をついてがっくりうなだれるカイルの周りで明るい笑い声がはじける。
ハーティ王国全土で疫病の終息を喜んでいる中、一人だけ暗い顔をして自室に閉じ籠っているのはマリアンヌ。
「『聖パラ』のゲームと全然違うじゃん!絶対にバグってる!そうよ。あの悪役令嬢がシナリオ通りに動かないから!それにロザモンドはやっぱり絶対に転生者でしょぉ!疫病はたぶんウィルスによるものだよね。ウィルスなんてこの世界では知られてないし!浄化の力ってきっと消毒?消毒でウィルスが死滅するかは知らないけど、でも、でも、でなければこんなことあり得ないっ!」




