貴重な光の属性
「おおっ!」
新入生たちの魔力判定会場でどよめきが起こった。
「…光属性。です。」
それを告げる魔力庁所属の魔術師の声も驚きで上ずっている。
「間違いないんだな?」
生徒達の後ろで見守っていた王太子ウィリアムとその親友のカイルの男性が速足で魔力判定の水晶に近づいてきて覗き込む。
「確かに。光属性を表す白色の輝きだ。ほお。驚いた。して、魔力量は?」
「…えっと、中の下くらいです……。」
「そんなはず無いわ!」
突然、甲高い声が響く。
「ちゃんと判定して!わたしの魔力は膨大なはずなんだからっ。」
ほんの少し訛りが残る大声に思わず周囲が沈黙する。
声の主は光属性と判断された女生徒。
「君の名前は?」
カイルが耳に残る不快な声にこめかみをぐりぐり中指で押しながらその女生徒に声を掛けた。
「え?きゃー!!カイル様っ!実物はやっぱり素敵!あ!わたしはマリアンヌ・グローと言います!マリと呼んでくださいっ!」
いきなり近くに寄ってきて上目がちで自分の顔を覗き込まれたカイルは悲鳴を上げそうになったのをとっさに抑えて後ずさる。
「グロー…。グロー?えっと、どこの貴族だっけ…?」
珍しく狼狽を隠そうとせず、カイルがウィリアムを振り返る。
「グロー男爵。確か、西の外れの領主だ。」
ウィリアムは即答した。小さな領地であっても王太子は全ての領主を覚えていなければならない。
「きゃあああああ!ウィリアム様!やっぱりすてきっ!」
ところが何を勘違いしたか、いきなりマリアンヌがウィリアムの腕にしがみつく。
「実家を知っていてくださったのですね!やっぱり私の運命ですっ。」
「は!?」
王太子の自分はいきなり腕にしがみつかれたことはない。
思わず反射的に反撃し、マリアンヌを魔力で吹き飛ばしてしまった。
「きゃあっ!」
後方に吹っ飛んで他の生徒に背中からぶつかり床に尻餅をつくマリアンヌ。
「いたあい。」
周囲の生徒も唖然としている。
仮にも相手は王太子殿下。
王太子殿下に触れるなど不敬以外の何物でもない。腕にしがみつくなぞ、逮捕されてもおかしくない。
「ちょっと!わたしを助け起こしなさいよ!」
たまたま彼女の近くにいた女生徒が思わず反射的に手を差し伸べたけれど、マリアンヌはその手をぴしゃりと撥ね退ける。
「ウィリアム様?」
ずうずうしく王太子殿下に手を差し伸べる彼女に対して、周囲の生徒達が次第に侮蔑や嫌悪を浮かべ始めた。
ウィリアムは得体のしれない者を見たショックで固まっている。
カイルの方が立ち直るのに早かった。
「殿下の名を呼ぶな。無礼者!あと、自分で立て!」
どん!とウィリアムの背中をカイルが小突く。
「王太子殿下。行きましょう。とりあえず、光属性の新入生がいたことを王宮に報告しないといけないのでしょう?」
「あ、ああ。そうだったな。」
はっと我に返ったウィリアムは、マリアンヌから背を向けて立ち去っていく。
「ウィリアム様、待って!」
マリアンヌが呼び止めようと跳ね起きざま足を踏み出したけれど、それ以上進めないよう、カイルが足止めの魔術をかけた。
そして、ウィリアムの後を追ってカイルも立ち去る。
「な、なんだったんだ。アレは…。」
廊下を歩きながら、茫然とウィリアムがつぶやく。
「躾が全然できてない馬鹿な小娘。貴重な光属性だけど、魔力量はそれほど多くない。…小さい頃からちゃんと魔力を練る訓練をしていたら増えただろうに、今からやってもほとんど増えないだろうね。…もったいない。」
カイルがため息をつく。
学院に入学するまで、魔力属性の検査は行われない。
その代わり、魔力量を増やすために小さい頃から魔力を練る訓練をすることを推奨している。
どの属性であってもその威力は魔力量に左右されるから。
その訓練は地味で根気が必要なため、子供にとっては苦行だけれど、だいたい12歳を過ぎると魔力量がほとんど増えなくなるから教育熱心な親であれば家庭教師を付けてでも子供に訓練を強制的にさせる。
王族や高位の貴族家ほどそれが顕著。
従って王太子も王太子の婚約者も魔力量は膨大だ。当然、カイルも。
「あああ。貴重な光属性の子が見つかって研究材料にできると思ったのに、あんな馬鹿娘だなんて。興味がそがれたなあ。」
「研究材料ってお前。令嬢相手に言うセリフじゃないだろう?」