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大バルコニー2

 王太子の呼びかけで静かに大バルコニーまで歩を進めてきたのは、ロザモンド。

驚愕に満ちたマリアンヌが彼女を凝視する。

ロザモンドは白地に銀糸でアラベスク模様の刺繍がされたシンプルな飾り気のない清楚なドレスを着ていた。

襟は首元まで詰まり、袖も手の甲を半分ほど覆い、Aラインのスカートは歩くときに銀色の靴のつま先が微かに見えるか見えないかの長さで、肌を全く見せない清楚な姿。

長い髪は櫛けずられ髪飾り一つついていない。

彼女の後ろから彼女より年上の数人の令嬢が付き従っていたけれど、彼女たちも似たような姿だった。歩き方から明らかに高位の貴族とわかる。

彼女たちが身にまとっている衣装は高位貴族の令嬢と夫人なら誰でも持っている神殿での儀式用ドレス。

もちろん、マリアンヌはそんなことは知らない。


「皆さん、参りましょう。」

ロザモンドの澄んだ鈴をころがすような柔らかい声に、数人の令嬢がうなずく。


「間もなく大聖堂の鐘が鳴ります。それを合図に全土で水の魔力を持つ者が浄化の力を使います。ロザモンド様達も同時にお願いします。」

カイルの説明にロザモンド達がうなずく。



カイルが頭上高く赤い火花を打ち上げた。

それを合図に、大聖堂の鐘がゴーーーン、ゴーーーーーンと厳かに鳴り始める。


すると、ロザモンドと数人の令嬢が一斉に両手を天に高く差し伸べ、水の魔力を放出する。

「清浄なる水よ!悪しきものを清めよ!」


まばゆい白い光がロザモンドを中心にバルコニー全体に拡がり、マリアンヌは驚愕する。

『聖パラ』のムービーと同じような光が!?


…ムービーと違うのは、その白い光と同時に、キラキラ輝く雨が降ったことだろうか。

雨はバルコニーだけでなく王都全体に…、また王国の広い範囲で降った。

水属性を持つ貴族が全員、鐘の音と同時に浄化の力を籠めて天に向けて放ったがゆえに。


学院ではロザモンドを非難している生徒が多いとはいえ学院から離れれば、我が国筆頭のオルレアン公爵家の令嬢かつ王太子の婚約者であるロザモンドを崇拝している者はとても多い。

彼らは今回、王家の命令だから仕方なく協力したのではない。ロザモンド直筆の手紙で協力を依頼されたことに感激して、彼女の役に立ちたいと思ったから協力した。

その多くの想いが集まって、王国全土に浄化の雨が降る。


ざーざーと激しく降る雨は普通の土砂降りと違って、身体にやわらかく当たった。

キラキラと光る雨粒を見て、子供達が目を輝かせて手に雨を受け止める。

手に溜まった雨水はキラキラ光り輝き、そのまま見つめていれば数刻後、ただの水と同じように輝きを失う。そのしばしの間の輝きに子供達が夢中で何度も雨を手に受ける。

雨に濡れたら風邪をひく、と注意することも忘れて、大人達も雨の中立ち尽くし、光る雨を不思議そうに見つめていた。

やがて、手に受けた雨水を飲む者が一人二人と現れ、雨水を飲んだ途端、身体の奥がすーっとすることに気付いて、もしや?と疫病患者に雨水を飲ませ始める。

疫病患者達は直ちに回復することは無かったけれど、雨水をもっと欲しいとベッドから這い出し、外で雨を全身に浴びだす者が続出した。

誰もそれを止めなった。

いや、なぜか止められなかった…。



「こんなの…。『聖パラ』のムービーには無かったはずっ…。」

マリアンヌがギリギリと歯噛みしながら小声でつぶやく。

目の前の大バルコニーでは、雨がようやくやみ、魔力が枯渇しかけてぐったりしているロザモンドをウィリアムが倒れないように後ろから支えながら何か話しかけている。

その横で、国王夫妻もロザモンドとやはり披露で顔色が悪い数人の令嬢に笑顔を向けつつ労わっている。


「聖パラ」のムービーと似たような光景がマリアンヌの前で繰り広げられているのを、マリアンヌは憎しみの籠ったまなざしで睨み続けていた。



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