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大バルコニー1

 ロザモンドは大バルコニーのある広間の王族控室で座っていた。

マリアンヌが間もなく到着し、大バルコニーから聖女の癒しを使うと言う。

王家の者はもちろん、魔術庁の全員がそんなことを信じていなかったけれど、一応試すだけ試してみようと言うことになったのだ。

大バルコニーには、ウィリアムとカイル、そして魔術庁から派遣されてきた闇の魔術を扱える数人の魔術師が控えていて、マリアンヌ到着と同時に彼女に気付かれないよう、結界を張るそうだ。


大バルコニーの左右と、バルコニーに続く大広間には多くの兵士が詰めている。

何かあった場合、マリアンヌを取り押さえることができるように。


「ウィリアム様あ!あ、カイル様もいるっ!」


舌足らずな甲高い声が響き、マリアンヌが来たことがすぐにわかる。

ロザモンドの隣に座っていた王妃が眉をひそめた。

「あの娘は本当に貴族令嬢なの?わたくしの知っているどの平民よりも見苦しい。…それに聖女を名乗る割には何なの?あの衣装は。どう見ても平民が着飾っているようにしか見えないわ。」

「王妃様…。」


きゃぴきゃぴとはしゃぎながら入ってきて、ウィリアムに飛びつこうとしたマリアンヌだったけれど、そこは案内してきた女騎士がそうはさせなかった。

不満そうにマリアンヌはその騎士を睨みつけ、自分の腕を拘束した彼女の手を乱暴に叩き落とす。

女騎士は表情を変えず、黙ってマリアンヌの後ろに控えたのが見えた。







 マリアンヌが大バルコニーを見渡す。

「ムービーと同じようにしないと。余計な者が居たら、『聖パラ』のゲームの強制力がなくなっちゃうかもしれないもん。」

密かにつぶやく。


「あの、ウィリアム様あ。お願いが。」


マリアンヌは、大バルコニーには自分が一人で手すり近くに立ち、その後ろにウィリアムが。国王と王妃がバルコニーの後方の端に。それ以外の人間はバルコニーには立ち入らずに広間で待機してほしい、と頼んだ。


「なぜそうしなければならない?」

「…えっと、神が啓示した光景がそうだったからです!」

「…神の啓示?」

「そうです!」


眉をひそめたウィリアムだったけれど、言う通りにしようと頷く。

「カイル。」

「大丈夫だ。すでに結界は張り終わっているし、バルコニーに続く広間からバルコニーは丸見えだ。後ろから彼女を監視する。」

「頼んだ。」



 マリアンヌは自分の意図通りに大バルコニーに人が配置されるのを見て笑う。

今日の彼女は「聖パラ」のムービーで見たとおり、ピンク色の可愛らしいワンピース姿。

マリアンヌの好みからはかけ離れていたけれど、ムービー通りにしないといけないと思って、仕立て屋に全く同じデザインで仕立ててもらった。

襟と袖先に白いレースで縁取られたフリルがあって腰には幅広の同色のリボン。ふわっと広がるフレアースカートのワンピースは足首が見える長さ。肩まである髪はサイドのみすくって後ろで軽く縛り、ピンクのサテン生地にレースを縫い付けた幅広のリボンが頭の上に乗っている。

…大丈夫。

完璧に「聖パラ」のムービーと同じ姿。

これなら、ゲームの強制力が働いて、聖女の力が溢れるはず。


自信満々でマリアンヌは大バルコニーの手すりの近くまで歩み寄った。

ゲームでヒロインが祈った言葉は覚えている。


「天にまします我らが神よ。このハーティ王国の民を苦しめる疫病を癒す力を我に与えたまえ。」


両手を組んで目をつぶり天を仰ぎ、ヒロインのセリフ通りに祈りの言葉を発した後、ゆっくりと顔を表面に向けて目を開けながら両手を180度広げる。

自分の中の魔力を放出しながら。

…ここで、わたしの全身から聖女の癒しの白い光があふれるはず!


…?

……?

………あれ?


マリアンヌは慌てた。

「聖パラ」のムービーでは、バルコニーから全土に真っ白い光が拡がり、まばゆい光で目の前が覆い尽くされた…はずなのに、目の前は祈る前と何も変わらない光景が広がっている。

冷や汗が脇の下を伝い、青くなってバルコニーの周囲をきょろきょろ見回すと、不機嫌そうな王太子、国王と王妃の侮蔑のまなざしが突き刺さる。


こんなはずは、無い!


「天にますます我らが神よ!……」

マリアンヌは必死でヒロインの祈りの言葉を繰り返し、何度も両手を広げて魔力を放出しようと努力する。


「…もう良い。何も起こらぬようだな。」

冷たい言葉がウィリアムから発せられる。

「衛兵。グロー男爵令嬢を広間に下がらせよ。」


女騎士が数人近づいてきてマリアンヌの腕を取る。


「ちょ!待って、待って!まだ終わっていないの!これからなの!」

「すでに君の魔力は枯渇しかけているし。これ以上やっても無駄だと思うよ?」

「か、カイル様っ!」


マリアンヌが広間までひきずられるように退出させられる。

ぎりぎりと悔しさに歯噛みしてうつむいていた彼女が、ウィリアムの声ではじかれるように顔を上げる。


「ロザモンド、頼めるかい?」

「承知しました。王太子殿下。」


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