マリアンヌの手紙
「カイル。マリアンヌから手紙をもらった。この疫病を一気に終息できると書いてある。」
「はあ?なんだそれは…。見せろ。」
ウィリアムの手から手紙をひったくって、カイルは目を通す。
「お前、よく読めたな?この悪筆を。全然読めん。」
「わたしも読めなかったから、読める人間を探した。…平民からの陳情書を扱う部署に以前勤めていた役人がこういう平民が書く文字に慣れていると言って読んでくれた。平民は読み書きできない人間が多いので書く機会がほとんどなく陳情書の文字が下手で読み取るのに苦労するのですと彼は言っている。それと似た文字だから慣れているそうだ。ということで、彼に判読してもらって書いてくれたのがこっちの紙だ。」
「…なるほど。平民の文字…ねえ。マリアンヌは本当に男爵令嬢か?いったいグロー男爵はどんな教育をしてきたんだ?」
「それは後回しにしよう。今は、マリアンヌが疫病を終息できると言ってきたことだ。なぜそんなことを言ってきたのか知りたい。」
「…できるわけないと俺は断言するけどね。…治癒の力が無い、魔力量もちんけな彼女に。」
「そうなんだが、ここまで断言されるとね。何かあるのかと…。」
マリアンヌの手紙には、こう書かれていた(と思われる)。
ウィリアム王太子殿下に申し上げます。
今この国に蔓延している疫病はこのままだと国を滅ぼしてしまいます。
わたしならこの疫病を一気に終息させることができます。
なぜなら、わたしは神に選ばれた聖女だから。
聖女の力をもってすれば全土に癒しの光を届けることができます。
だから、わたしを王宮の大バルコニーに立たせてください。
そこでわたしは癒しの力を使うでしょう。
「…なるほどねえ。断言してるのか。あの女が神に選ばれた聖女????…すまん。殿下。俺には全く理解できない。」
「わたしも理解できないよ。でも、彼女が要求してるのは、大バルコニーに立つことだけだ。試してもらってもこちらは何の損得もない。国民達も今はバルコニーの前に集まれないしね。彼女が言うように本当に疫病が終息するなら助かるだけだ。…ただ、君に相談したのは、大バルコニーに立つ目的が別にあったら困るからだ。」
「魅了、か。」
「そうだ。全国民を魅了し彼女の元に支配しようという…そういう力を恐れている。」
「…それは無理だと思うが…。彼女の魔力量は本当に中の下だ。あらゆる計測をしてきたんだから、それを隠すのは難しいはず。」
「魅了の力を使われた場合、闇の魔術で打ち消すことは可能か?」
「…俺たち二人が最初から闇の魔術を展開し、バルコニーの周囲に精神干渉を跳ね返す結界を張っておくことはできると思う。対象がマリアンヌ一人だから、彼女の周囲だけなら…。結界が破られたら魅了の力を使っているということになるので、即時捕縛…かな?」
「では、試してみるか…。父上に相談してくる。お前も来てくれ、カイル。」
「やれやれ…。」
「父上、今よろしいですか?…あれ?母上とロザモンド?」
「おお、なんだ。ウィリアムと、カイル?」
王の執務室に入っていくと、父だけでなく、母の王妃とロザモンドが立っていた。
「珍しいですね、母上とロザモンドがここにいるなんて。」
「うむ、提案しに来てくれたのだよ。この疫病について。」
「提案?」
「ああ。ロザモンドが水の属性を持つ者を集めて浄化をしたらどうかという提案をしてくれたと王妃がな。」
「…なるほど、浄化か。今、疫病にかかっている者を治癒することは無くても、浄化で新しい患者を減らすことはできるかもしれないね。疫病は見えない悪しきものが人から人にうつっていくと言われているから。」
「カイルもそう思うか?」
「はい、陛下。試してみる価値はあるかと。」
「そうか。ロザモンド、有意義な提案をしてくれたことに感謝しよう。」
「とんでもございません。…この国の貴族として民のために何かできることがあれば…と思っただけでございます。」
「いやいや、なかなかできることではない。…カイル。魔術庁に水の属性を持つ者で力の強い者のリストアップと彼らに浄化をするよう命じる。」
「承知しました。でもその前に、王太子殿下から話があるようですよ?」
「おお、ウィリアム、なんだね?」
ウィリアムは肩を少しすくめたけれど、マリアンヌからの手紙について話始めた。




