疫病の流行
最終学年になって数か月経った頃、地方で疫病が流行し致死率が高いという報告が王宮に上がってきたと、父の公爵が眉を曇らせてわたくし達にも教えてくれた。
「王都の出入りを一時的に制限しているが、もしかしたらこちらにも疫病が入って来るかもしれぬ。くれぐれも用心を。ロザモンド。お前は月に1度、孤児院と養老院に慰労に行っているがそれは当分中止だ。王妃様からそう命じられた。」
「陛下のご命令には謹んで従います。…でも、わたくしにも何かできることはございませんか?」
「今のところは無い。王都に全ての光属性を持つ者が集められた。光の癒しで終息すると良いのだが…。」
王都の出入りが厳しく制限されていたのにもかかわらず、疫病が王都に拡がり始めるまで思ったよりも早かった。
症状は高熱が出て顔が真っ赤になり、激しい咳が出るというもの。熱が下がらない場合、1週間から10日で亡くなることが多い。
光属性が持つ治癒魔術を使えば熱が下がり助かるけれど、王妃以外に光属性の治癒魔術を使える者が4人しかおらず、患者全員を一人ずつ治癒することは現実的でない。
彼らは王族や国の中枢に居る貴族達、あるいは軍に感染者が出た時のために待機させられた。
国民に向けては、当面の間、解熱剤や咳止めなどの投薬で自然治癒に任せるしかないという判断をし、魔術庁をはじめ医療関係者はこの疫病を治すための魔法薬の作成に全力を注ぐことになった。
学院も家族に罹患者が現れた生徒が出たため休校となり、わたくしは王宮に滞在を命じられた。王太子妃教育をこの休校期間に一気に進めるため、そして、もっとも安全な場所が光属性の魔術師が詰めている王宮であると言う理由で。
「うわ、本当に疫病が流行したよ。やっぱりこの世界は『聖パラ』の世界じゃん。」
マリアンヌは自分の部屋で笑いが止まらない。
「問題は…。ゲームの中ではウィリアムと親しくなってたから、ウィリアムに君の光の力を貸してほしい。って頼まれるんだけどぉ。」
マリアンヌは唇を噛む。
王立貴族学院は休校になり、生徒は自宅待機を命じられている。
また王宮への出入りも厳しく制限されている以上、王太子に会える可能性は限りなく低い。いや、全く無い。
結局、王妃から出された宿題もとうとう実行できなくてそのまま王宮に行く機会を得られることは無かったし。
「うーん。どうしよう?イザベラ様に頼めば王宮に入れるかな?彼女は侯爵令嬢だし。」
マリアンヌはうっとりとゲームのムービーを思い出す。
王宮の入り口にある国民に王家が姿を見せる時に使われる白い大バルコニー。
そこにマリアンヌが立って天に向かって祈り、両手を左右に大きく広げると、真っ白い光が彼女を起点にぶわーっと王都全体に拡がり、その光が王都も超えて全土に満ちると同時に疫病は終息するのだ。
その光を見て「聖女様だ」と国民が跪き、マリアンヌを崇拝しだす。
そのマリアンヌを王太子が優しく抱きしめ「愛するわたしの聖女」と愛を囁き、国王と王妃が「聖女よ。我が国を救ってくれてありがとう。」と頭を下げてくる。
自分が、そのヒロインなのだ。
「わたしのこと馬鹿にした王妃が頭を下げてくるんだよねー。聖女らしく優しく許します。って言う?それとも、断罪しちゃう?国王陛下に聖女のわたしを苛めたんですって。で、ウィリアムがわたしを抱きしめて…きゃっ。キスされちゃうかも?」
くすくす笑うマリアンヌの妄想が止まらない。
「ともかく!王宮に何とか行って。あの大バルコニーに立たないと!」
バルコニーに立てば必ず、光の力が覚醒するはずだ。
だって、ここは『聖パラ』の世界なんだもん!
イザベラに王宮に行きたいと手紙を出したけれど、彼女からは限られた貴族しか立ち入れなくなっているので自分も行かれないから無理だと断られた。
そこで、せめて王太子か王妃に手紙を渡せないか?と聞いたところ、叔母が王太子付きの女官なので彼女に託すことはできるけれど、確実に王太子の手に渡るかどうかはわからない。と答えてきた。
「…うーん。何もしないよりはマシか。『聖パラ』の世界ならヒロインが大バルコニーに立つように強制力が働くはず。うん。」
マリアンヌは、「わたしならこの疫病を一気に終息させることができます。」と書いた手紙をイザベラに託した。




