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悪い噂


「まあっ!マリアンヌ様、どうなさったのですか?」


翌日、左頬の腫れが引かなかったマリアンヌが頬にガーゼを当てて登校すると、同じクラス、つまり2年D組の生徒達が口々に心配する声をかけてくる。

マリアンヌはにっこりと微笑みながら、


「大丈夫…です。わたしが悪いのですから…。」

としおらしく目を伏せて見せた。


「マリアンヌ様?マリアンヌ様が悪いなんってことありえまえんわ?ねえ。どうされましたの?」

彼女の登校を待っていたらしいイザベラ・バーリー侯爵令嬢が近づいてきて、そっとマリアンヌの腕に手をかけてきた。扇子で隠した口元から、ささやき声が聞こえる。

「ロザモンド様から暴力を振るわれましたか?」


思わず、こくっと頷く。

…父に打たれたと言うより、悪役令嬢に打たれたと言った方が都合が良い。


「でも、誰にも言わないでくださいませね?…わたしが悪かったんですから。ウィリアム様と仲良くしているのが気に入らなかったみたいで。」

「まあ…。」


その時、教師が入ってきたのでイザベラは慌てて自分のクラスに戻って行ったけれど、マリアンヌはニタリと口元に笑みを浮かべる。

イザベラは絶対に周りに言いふらす。





 わたくしロザモンドは廊下を歩いている最中に周囲から咎めるような視線を感じて困惑した。

「あの!ロザモンド様、よろしくて?」

「イザベラ様?何でしょうか。」


後ろからイザベラに呼び止められて、足を止める。


「この学院の生徒は身分による差別が認められておらず、誰とでも友達になれる。その原則はロザモンド様であれば、ご存じですわよね?」

「ええ。その通りですわ。イザベラ様。」

「それなら、なぜ、マリアンヌ様が殿下と話をしたというそれだけで、マリアンヌ様に酷い傷を負わせますの?しかも女性にとって大事な顔に。」

「え?」

「とぼけられても無駄ですわ。マリアンヌ様に聞きましたの。マリアンヌ様の頬を昨日、扇子で打ったと。腫れが1日経っても引かず、今日はガーゼで隠しておられますわ。そんな酷い怪我をさせるなんて、将来の国母として恥ずかしくございませんの?」


何を言われているのか、さっぱりわからず、首をかしげる。


「わたくしがマリアンヌさんをケガさせた、とおっしゃっているのかしら?」

「ええ。放課後、呼びつけて。」

「…。昨日、わたくしは午後、早退して王宮に行ってましたけど?」


そう。王妃直々の教育を受けるため、わたくしは午後の最後の授業を欠席していたから、放課後にマリアンヌを呼び出すことは絶対にできない。


イザベラの顔がゆがみ、絶句している。

「う、嘘…、嘘よ。」

「そんなことに嘘をついてどうしますの?王宮に問い合わせていただければすぐわかりますのに。」

「ほ、放課後じゃなかったのかも?わたくしが思い込んでいただけで…。とにかく、マリアンヌ様が怪我していることだけは事実で、あなたが怪我させたんですわ!そんな酷いことを今後もされるのであれば、父を通じて王妃様に直訴させていただきますから!」


真っ赤な顔をしたイザベラがものすごい勢いで去っていく。


「…王妃様に直訴、ね…。」

小さくため息をつく。

イザベラはマリアンヌの魅了の力に取り込まれているらしいので、彼女のこととなると見境が付かなくなるのだろう。

普通に考えれば、マリアンヌが嘘をついているのでは?と疑うのが当たり前なのに。




 でも、人の悪意のある噂が広まるのは早い。

マリアンヌが頬を腫らしてガーゼを数日当てていた怪我をさせたのはロザモンドだという噂はあっという間に広がり、「権力を盾に気に入らない者に容赦ない冷酷な令嬢」という囁き声がわたくしの耳にも届くようになった。


そして、1年前まで、わたくしが登校すれば校庭は挨拶の声で煩いほどだったけれど、今はひそひそ声で迎えられ、目を合わせようとする生徒が激減した。

全く気にかけていないという態度で堂々と登校しているけれど、本当は逃げたいくらい辛かった…。



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