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壊れたブローチ


 「どうして!どうして、わたしの大事なブローチを壊してくれたんですか?おばあちゃんの形見だったのに!」

ある日、昼食をウィリアムと一緒に食べていたところに、マリアンヌが乱入してきた。

両目から涙をぽとぽと落とし、突き出された両手の上には壊れたブローチが乗っている。

踏まれたのだろうか、石が砕けてブローチ自体もぐにゃりと変形している。


「…わたくし、覚えがございませんけれど?」

「嘘つき!さっき、廊下で突き飛ばして転ばせた時に、嫌な音がしたじゃない!あの時、ブローチが落ちてそれをロザモンド様が踏んづけたんです!」


頭痛がしてきた。

少なくとも廊下で突き飛ばしていない。

確かに彼女は目の前で転んだ。それはいつもと同じで自分で勝手に転んでいた。

わたくしは何もしていない。

あと何かを廊下で踏んづけた覚えもない。

小さな物であっても踏めばわかる。ブローチのような固いものを踏んだら尚のこと、わからないほど鈍感じゃない。

でも、マリアンヌにそれを言っても通じない。

…いい加減にしてほしいわ。何をしたいのかさっぱりわからないし。


「ウィリアム様あ、ロザモンド様がひどいんですぅ!おばあちゃんの形見を…。」

「いい加減にしてくれないか。グロー嬢!何度言えばわかる?わたしの名を呼ぶな!」


ウィリアムにキツイ目で睨まれ、マリアンヌがひっと息を呑む。


「でも、でも、…ウィ…王太子殿下…。ロザモンド様が大事なブローチを壊したのは事実で…。」

「ロザモンドがどうしてそんなことをしなければならない?」

「きっと、わたしが嫌いなんです!」

「…なぜそう思う?」

「わたしが、ウィ…王太子殿下を好きだから目の敵にしているんです!いつかわたしに殿下を取られると思って嫉妬を…。」

「ありえない。」

「へ?」

「ロザモンドはそれほど愚かな女性ではないし、未来の王太子妃として自分を律することができる令嬢だ。」

「嘘です!ロザモンド様はわたしのこと、身分が低いからと苛めるような人なんです!殿下にふさわしくありませんわ!こんなおん、な……ひっ!」

「公爵令嬢への、いや、王家の婚約者への侮辱罪としてこの場で切り殺そうか?」


いつの間に引き抜いたのか、常に帯剣しているレイピアの切っ先がマリアンヌの喉元に突き付けられている。


「おやめくださいませ。王太子殿下。」

「ロザモンド。しかし、この女は君を侮辱したではないか。」

「わたくしのことはよろしゅうございます。殿下がお手を煩わせる相手ではございません。」

「君は寛大すぎる。…グロー嬢。命拾いしたことを公爵令嬢に感謝するんだな。…ロザモンド、行くぞ。」

ウィリアムが舌打ちし、レイピアを鞘に戻してから、わたくしに手を差し伸べてくれる。

彼に手を取られて立ち上がりながら、わたくしはマリアンヌに声をかけた。


「グローさん。貴族についてもっと学んだ方がよろしくてよ?」


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