転生者か確かめたい(マリアンヌSide)
マリアンヌはいらいらしていた。
ロザモンドと2人きりになって転生者かどうか確かめようとしているのに、その機会が全く無かったから。
昼休みはいつもウィリアムと一緒か、ウィリアムが居なければ高位の貴族令嬢複数人に囲まれて近づけない。
朝、授業前に声を掛けることも考えたけれど、実家に馬車が無い貧乏貴族としては、学院が朝夕出してくれる送迎用の乗合馬車で通学するしかなく、王都の外れに屋敷があるマリアンヌは一番最後に乗合馬車が立ち寄る都合上、授業の15分前に学院へ到着する。
もっと早く到着したかったらかなり早起きして1時間くらい歩く必要がある。
歩くのはまっぴらだった。
では放課後、と意気込むも、カイルから「君の光の属性に興味があるんだ。」と魔術庁に連れていかれてこの1か月ほど毎日のようにいろいろな検査を受けさせられ、検査が終わればもう夜で自分のための時間さえ取れなかった。
唯一良かったのは、カイルと毎日会えたことくらいだけれど、カイルの好感度を上げようと話しかけたりプレゼントしたりしてみたけれど、あまり好感度が上がっていないようなのが理解できない。
そもそも、この魔力検査自体、ゲームでシナリオに無かったし…。
でも、ようやく検査が昨日で終わった。
今日こそは放課後、ロザモンドを捕まえて問いたださないと。
「あ、いた!ロザモンド様っ!」
授業が終わって帰るために教室から出て来たロザモンドを引き留める。
「すみません。ちょっと相談したいことがあって。あの、ほんと5分でもいいので、聞いてもらえませんか?」
初め、ロザモンドは眉間に皺を寄せて警戒していたようだったけれど、玄関横の大ホールでいいから。と言えば、うなずいてくれた。
大ホールの一番隅っこのテーブルで彼女の隣にくっつくように座る。
嫌そうに身をよじられたけれど、逃げないようにその手首を掴んで、顔を近づける。
「あんたも転生者でしょう?」
「はい?」
「とぼけないで。わたしは灰谷真理。転生前は日本の女子高生だったわ。あんたも日本人なんでしょう?」
「ニホン…?ジョシコウセイ…?なんですの。それ。」
「隠さないでよ!この世界が『聖パラ』…聖女の恋愛パラダイスの世界だって知ってて断罪されないために勝手にシナリオと違う行動してるんでしょ?」
「セイパラ…?」
心底わかっていないようだ。
「あ、もしかしてゲームはしたことないタイプ?ゲームの世界とは知らないで勝手に動いてるのかな?だったら困るよ。シナリオ教えるからその通り動いてくれないと?」
「あ、あの!げーむのせかい、って何ですの?」
「だからあ!この世界は、『聖パラ』って世界なの!で、その世界でわたしがヒロインなの!王太子妃になるのはこのわたし!」
その途端、音もたてずにロザモンドがすっと立ち上がり、冷ややかにマリアンヌを見下ろしてきた。
「…王太子殿下の婚約者はわたくしです。仮に何らかの理由で王家が破棄しない限り。そしてありえませんが仮に破棄されたとしても、グローさんが王太子殿下の婚約者になることはもっとありえません。」
「は?何、断言してくれてんの?」
「…学院で学んでいないのですか?王家に嫁ぐことができるのは伯爵家以上の令嬢だと。」
「わたしは特別。なんて言ったって、聖女になるんだから。」
「…聖女に?…仮に聖女になられたとしても男爵家からは王家に嫁ぐことはできませんわ。」
「聖女は王家が絶対に娶るべき存在でしょう?」
「いいえ。それは聞いたことがございませんわ。聖女様と言ったら、神殿で神に生涯を捧げると聞いておりますし。」
「…え?…嘘…。シナリオと違う?」
「ともかく。何をおっしゃりたかったのかさっぱりわかりませんが、王太子殿下に邪な想いで近づかないようにお願いします。」
ロザモンドが去って行ってから、マリアンヌは髪を掻きむしる。
「…どういうこと?聖女は神殿に入るって?ゲームと違うじゃん!…そういえば、あいつは転生者じゃないの?…いや。ゲームを知らないだけでそうじゃないとは言い切れない。でなかったら、なんで、ウィリアムと仲が良いのかわからないしっ。」
きっと、彼女は日本でアラフォーかアラフィフだったに違いない。
あの落ち着きはそうとしか思えない。全然、10代っぽくないもの。変に老成して。
大学も出て社会でバリバリ働いて過労死でもしたんじゃないかな。
そうなら頭が良いのも態度が高慢なのも理解できる。
うん。そうだ。きっとそうだ。
で、仕事中毒で男もいないし、ゲームもやれなかったタイプね。うん。
問題は……。
ゲームも悪役令嬢も知らないオバサンがシナリオ通りに動いていないから、この世界、バグっているっぽいこと。
「シナリオ教えてもその通り動いてくれそうにないなあ。こっちでシナリオ補正するしかないってことか。うわ。このゲーム、ハードル高っ…!」




