カイルへの依頼
昼休み、わたくしは教室からすぐ出ようとしたカイルを呼び止める。
今日もウィリアム様は公務でお休みなので、自分で伝えないと。
「王妃様から伝言があるのですが。」
「王妃様から…?ふうん。じゃこっちで聞くよ。」
カイルが学院の玄関前の大ホールに移動する。
大ホールは円形でいくつもの掃き出し窓がある明るい空間。
窓の側には生徒が談笑できるようにテーブルと椅子が数脚置かれているけれど、他のテーブルとはかなり離れているので誰かに聞かれずに話が可能。
その上、玄関に続くホールだから人の出入りが多い開放的な空間のため、人目があるところで誰にも聞かれずに話すにはぴったり。
…さすが、公爵令息ですわ。配慮がすばらしいこと。
「で、王妃様はなんて?」
「グロー男爵令嬢の魔力を調べてほしいそうです。」
「は?」
カイルに光属性の訓練授業でうまくいかなかったことと、魔力の色が王妃様とマリアンヌでは違ったことを説明すれば、カイルが興味深そうに瞳を光らせる。
「なるほど。同じ光属性でも王妃様とあの女では種類が違うんじゃないかっていう着眼点は面白い。いいよ。王妃様に承知したって伝えて。魔術庁が光属性を調べたがっているという名目で呼び出していろいろ検査してみるよ。」
「ありがとう存じます。助かりますわ。」
「結果は君に報告するから。」
「あら…。王妃様に直接報告されたほうが?」
「勘弁してよ。王妃様とはなるべく会いたくない。…君が報告。それじゃなきゃ引き受けない。」
「仕方ありませんわね。」
なぜか、カイルは王妃様が苦手だ。あんなにやさしい王妃様なのに不思議。
それから1カ月経たないうちに、カイルに玄関横の大ホールに呼び出され、報告書を渡された。
封筒に入ったそれは厚さが3センチくらいあってずっしりと重い。
「結論から言うと、治癒の才能がほぼ無い光属性だった。ちょっと驚きなんだけれど、本当にただの"光"。"照明"としての"光"と同じようなものと思ってくれてよい。」
「はい?…あの、意味がわからないのですけど。」
「俺もわからない。ただね、あまり良くない未知の波動を検出した。…直接害を為すようなものとは言い切れないんだけれど、それが何かが掴めていない。」
「闇と同じく、精神干渉みたいなものでしょうか。」
「精神干渉できるかのテストも相手にそれとわからせずに実施したけれど、それはできなかった。だからそれとも違うと思う。」
「そう、なのですね。」
「いったん直接の検査は終わらせるけど、気になるのでこれからもちょっと調べてみるよ。何かわかったら教える。とりあえず、現時点の報告を王妃様に頼む。」
「承知しました。ご調査ありがとうございます。」
席から立ち上がろうとしたら、後ろから誰かに抱きすくめられた。
「ローズ。カイルと2人きりなんて悪い子だね?」
「え…?きゃ。殿下!…あの、お放しくださいませ!」
「嫌だね。」
ウィリアムが後ろから耳元に顔を埋めてくる。
大ホールにたまたま居合わせた生徒達がざわついているのがわかる。
「お離し…くださいませ。見られていますわ。」
「離してやれよ。ウィリアム様。砂糖を吐きそうだ。べたべたするなら誰もいないところでやってくれ。」
「カイル。」
「俺は王妃様の命令で調査した結果を報告してただけだ。お前の婚約者に手を出すつもりなんかないよ。」
「わかっていても、嫉妬は止められなくてね。」
「…ロザモンド様?こんな嫉妬深い殿下と婚約破棄したいなら協力するよ?」
「そんな協力は要らん!」
その日の放課後、ウィリアムと一緒に王宮に行き、王妃様への面会伺いを立てれば、偶然、ちょうど休憩時間だったそうで、今すぐどうぞ。と通される。
「王妃様、ごきげんよう。急にお時間をいただき申し訳ございません。」
カーテシーを深々と取る。
「とんでもない。ロザモンドならいつでも大歓迎よ。…なんでウィリアム。あなたまでいるのよ。」
実の息子を邪魔もの扱いするも、ウィリアムは苦笑しつつ今日の夕方は公務が無いので、ロザモンドから離れないと言い張る。
「まあ良いわ。で、ロザモンド、急にどうしたの?」
「カイル様から報告書を預かってまいりました。」
ずしっと重い報告書の入った封筒を侍女長にお渡しする。
…王族に直接何か物を渡すのはご法度。
侍女長が別室で検めます、と言ったけれど、カイルからの報告なら大丈夫でしょ。と王妃がその場で渡すよう指示をし、封筒から取り出してうんざりしたように顔をしかめた。
「あらゆるパターンの検査報告なのね。こんなの全部読む暇ありゃしない。魔術庁から誰か寄こすように言って?」
侍女長がうなずいて退室していく。
「結論は…、ああ、この紙。……ふうん。治癒力が無い光属性。聞いたことが無いわ。得体のしれない波動が気になるけれど…。魔力量が中の下としたら国に影響を及ぼす危険は少ないのかしら?でも油断はできない?…うーん。ウィリアム、どう思います?」
「…彼女は貴族としての矜持も何も持っていないように見えます。学院を卒業したら何らかの理由をつけて貴族界から追放したいですよ。一応、監視は付けて。」
「そうねえ。わたくしもそうしたいけれど。光の属性を持つ者を無碍にはできないでしょう?」
「それはそうですが……。」
「国王陛下や魔術長官とも話をしてみるわ。…とりあえず、彼女からは目を離さないで?でも気を付けてね。特にロザモンド。」
「あ、はい。ご心配ありがとうございます。」
「一番良いのはグローがちゃんとまともな令嬢になってくれることなんだけれど。」
王妃の言葉に、つい深く2人でうなずいてしまった。




