光属性の訓練授業
今日は王妃様が半日予定を空けられて、マリアンヌへ光属性魔法を教える日。
マリアンヌは朝からわくわくしてお気に入りのドレスを着こんだ。
制服で良いと言われているけれど、未来の義母になる人に初めて会うんだから、おしゃれしていかないと。
それに王宮に入るから、もしかしたらウィリアムに会えるかもしれないし。と彼女は浮き浮きしていた。
王宮に到着したマリアンヌは王妃付きの侍女長に王妃の客間まで案内された。
その侍女長は一目マリアンヌを見た後、一瞬目を瞠ったけれど、すぐ目を逸らし、案内中、マリアンヌを一度も振り返りはせず、何も話さなかった。
…マリアンヌのドレスは胸元が大きく開き肩も露出している。首元にはギラギラ光る大きな安物の宝石が付いたネックレス。
今はまだお昼を過ぎたばかり。
このようなドレスは夜会に着ていくドレスで、昼間着るドレスではない。
侍女長はこんな恥知らずの令嬢を案内することになるなんて…!とため息をつきたいのをぐっとこらえ、早くお役目を終わらせることだけを考え、少しだけ速足で進む。
王宮の煌びやかな調度品に夢中になっていたマリアンヌはそんなことに気づきもしなかったけれど。
「こちらでございます。…王妃様、お連れしました。」
「お入りなさい。」
威厳のある声に、さすがのマリアンヌも少し緊張しながら開けられた扉から入ると、正面に王妃とロザモンドが立っているのが見えた。
「ちょっと!なんであんたが居るのよ!あんたは光属性持ってないでしょう。」
王妃の前なのに取り繕うことも忘れ、かっとなってロザモンドを指さす。
「…なるほど。聞きしに勝る方のようね。」
王妃の低い声に、学院ではなかったと今更ながら気付いたマリアンヌは王妃に愛想笑いをしながら訴える。
「王妃様あ。ロザモンド様は光属性を持っていらっしゃらないのに、なぜここに居るのでしょう?…もしかしたら、ロザモンド様はわたしに嫉妬してらっしゃるから、王妃様と仲良くなったら困るって思って無理やりいらしたんですよね?王妃様も我儘に困っていらっしゃいません?」
「…ロザモンドは将来の王妃です。王妃として光属性の訓練をどのようにするのか知っている必要があるので勉強のために王妃たるわたくしが参加を命じました。」
マリアンヌが視線で人を殺せるのではと思えるほどキツイ目でロザモンドを睨みつける。それでも、口元だけはにっこり微笑みながら
「あら。そうだったんですか。…じゃ、ロザモンド様は離れてください。見学だけなんでしょ?」
「グロー。口を慎みなさい。ロザモンドは公爵令嬢。男爵令嬢のあなたが命じられる立場ではありません。この部屋でロザモンドに命令できるのは王妃のわたくしだけ。それを忘れないように。」
「う……。」
「それができないのであれば、光属性の授業は中止にいたします。どうします?」
「…わ、わかりました!」
悔しそうに唇を噛んでマリアンヌは下を向く。
心の中で、このクソババア、とののしりながら。
将来の義母?ふんだ。姑なんかと仲良くする必要ないんじゃない?
王妃の訓練は癒しの力を引き出す訓練だった。
「最初から人を癒すのは難しいです。まずはこちらから練習しましょう。」
テーブルの上に花瓶があり、萎れた花が生けられていた。
その萎れた花に王妃が治癒の力を使う。
王妃が右手をかざすと手の平からやわらかな真っ白い光が溢れ、萎れた花々が息を吹き返してピンと茎がまっすぐ立ち、花びらが艶めいて再び美しい姿を取り戻す。
驚嘆のため息が微かにロザモンドからこぼれた。
でも、見学の彼女は何も言葉を発せず、静かに目を瞠りながら立っている。
その立っている姿も美しく、マリアンヌはなんだかむしゃくしゃした。
「やってごらんなさい。」
王妃に促され、マリアンヌは自信満々で枯れた花が生けられた花瓶に近づく。
ゲームの中では、手をかざすだけで王妃より美しく蘇らせ、感心した王妃が授業の後で「王太子を呼ぶから一緒にお茶をしましょう」というイベントが発生する。
ゲームの通りになるはず、よね?
枯れた花々にマリアンヌは右手をかざす。
弱弱しいアイボリーホワイトの光が少し出たけれど、枯れた花々には何も変化がない。
…そんなはず、無いっ。
マリアンヌは右手に力をこめた。力づくで魔力を流そうと汗を流す。
「グロー。力を入れる必要はありません。治癒の力は癒したいと言う祈りの力です。花々が生き返るようにと祈れば良いのです。」
マリアンヌは祈ってみた。
「早く生き返れ、王妃より綺麗に咲けよ。」と。
けれど、枯れた花々には変化が無い。
「……今日は初めてですし。いきなりは難しいかもしれませんわね。」
冷ややかな王妃の声がマリアンヌに届く。
「普段からこの訓練をしてくださる?最初は1輪で構いませんので。1輪生き返らせることができたらロザモンドに報告を。次の授業はその後でまたセットしましょう。」
「ま、待ってください。なぜ、ロザモンド様に報告しなくちゃいけないんですか。直接、王妃様に報告すれば…。」
王妃の手の扇子がパチリ!と高い音を立てて閉じられると同時にじろりと睨まれ、マリアンヌも思わず冷や汗が出る。
「わたくしにいきなり面会依頼をされても困ります。王妃のわたくしのスケジュールは分刻みで決まっておりますもの。ロザモンドに頼むのは、グローが学院で声をかけやすく、かつ、わたくしにすぐ連絡できる生徒はロザモンドだけだからです。彼女は王太子妃としての授業を受けに王宮に定期的に通っている上に、わたくしの侍女とも親しい。わたくしへの言伝がしやすいのですよ。」
「そ、それでしたら、ウィリア…違った、王太子様でもいいじゃないですか?」
王妃の目がすっと細められる。
「…なぜ王太子に?たかが男爵令嬢のお前がなぜ王太子と親しいと言い張れるのです?」
「が…学院では身分関係ないでしょう?王太子様とはお友達ですし!」
「仮に友達の一人だとしても、男爵令嬢が王太子に使い走りをさせるというの?」
ぐっとマリアンヌの言葉が詰まる。
王妃が近くの小テーブルの上から金色のベルを手に取り、ちりん、と鳴らす。
とたんに扉が開かれ、王妃の侍女が現れた。
「グロー男爵令嬢が帰ります。馬車までお送りして。」
「かしこまりました。」




