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弘法筆を選ばずは、クソことわざである!

作者: 明日盛

 みなさん、ことわざは好きですか? 私は好きです。

 千里の道も一歩から。二兎を追う者は一兎をも得ず。

 ことわざはこの世を上手く生きるための名言が短くまとめられています。


 そんな偉大なことわざにも、なぜかクソがあります。

 それは、弘法筆(こうぼうふで)(えら)ばず、です。

 これは、弘法大師のように書に優れているなら筆の良し悪しは関係ない。また、自分の能力不足を道具のせいにしてはいけない、という意味でも使われます。


 ……いやいや。

 そんなわけないでしょう。

 百均で買った筆より、五百円の筆のほうが良い結果が出るに決まっています。

 ボロボロになった道具はそのまま使わず、買い換えたほうがいいです。


 そんな小学生が身に着けるべき常識をぶっ壊すのが、『弘法筆を選ばず』というクソことわざです。

 これは悪用されることが多いです。

 道具を買いたくないケチな親や会社が、弘法筆を選ばず、と言って質の悪いものを使わせ続けます。

 そして、結果が出ないことは実力が無いからだと認識させ、罪悪感を植え付けます。


 そもそも、弘法筆を選ばず、と言っている人は弘法さんの何を知っているのでしょう? 私は何も知りませんが、このことわざがおかしいのはわかります。


 理由を説明します。

 まず、弘法さんは空海という有名な僧侶で、筆の達人です。

 歴史に名を刻んでいるので、現代でいうと総理大臣や宮崎駿ぐらいすごい人です。

 そんな弘法さんを招待するのは身分の高い人、仮に領主としておきましょう。


 そして、現代でも昔でも礼儀というのは重視されます。

 汚れた服を着てはいけない、相手に敬意を払い侮辱してはいけない。

 つまり、弘法さんが領主の前で質の悪い筆を使うはずは無いのです。


 仮に弘法さんが粗末な筆を使った場合、こう言われる可能性があります。

「えらい立派な筆使ってはりますなあ、弘法さん。こりゃあ達筆な弘法さんのこと大事にしとる良いお寺どすえ。どーすどすどすどす」


 悪評を言われないために、上司や弟子は弘法さんに言うでしょう。

「弘法はん、質が悪い筆を使うのはかんにんしてな。うちの寺ごっつ悪口言われんねん。このええ筆使ってや。使ってくれる? おおきに! 助かるわ。弘法はん優しいな、まるで僧侶みたいや……って弘法はんは僧やねん。そりゃ僧や!」

 みたいなことを言われて、質のいい筆を使うように説得されるでしょう。


 百歩譲りましょう。弘法さんが弟子や上司のいうことを全く聞かなかったとします。それでも粗末な筆は使えません。

 なぜなら弘法さん程の筆の達人となれば多くの贈り物をされるからです。筆職人や筆の名産地の領主は、最上質の筆を弘法さんに送り、弘法さんが使っていると自慢して宣伝するでしょう。


 つまり、弘法さんが筆箱から適当に選んだとしても、その手がつかむのは、どえりゃあええ筆になるのです。

 適当に選んでも上質な筆を使ってしまう偉人に対して、筆を選ばず、なんて言ってはいけません。


 さらに百歩譲りましょう。弘法さんが数々の困難を潜り抜けて粗末な筆を使いました。どうなりますか?


 弘法さんを招いた領主はびっくりするでしょう。食事でもてなし、敬意を払ったのに粗末な筆を使われた。弘法さんが不機嫌か、良い筆が欲しいのをアピールをしているかのどちらかです。


 偉人に侮辱されているこの状況を無視すれば領主は舐められてバカにされます。この時代の誇りは命懸けなので、最悪の場合領主は反乱されて殺されます。


 とりあえず、領主は時間稼ぎをします。見せたい美術品がある、説法を聞かせてほしいなどといいます。そして部下に命令します。最上級の筆をすぐに持ってこい、と。

 時間稼ぎをして筆が届いたら、弘法さんに渡します。我が国が誇る素晴らしい筆です、差し上げますのでぜひこれで書いてください、と。

 これで領主の誇りは保たれ、反乱されません。

 やはり、弘法さんは粗末な筆を使うことはできませんでした。


 さらに百歩譲りましょう。私はこのことわざのために三百歩も譲っています。

 弘法さんは民衆にも教えを説いていた。民衆の前では粗末な筆を使って素晴らしい字を書き、物を大切にすることを説いていたのではないか、と。


 素晴らしい説ですね。

 物を大切にするのはとてもいいことです。

 民衆の前では、領主の前と違って粗末な筆を選んでいた……つまり弘法さん筆選んどるやんけ!


 では最後になります。

 弘法さんは性霊集においてこう記しています。

「良工先利其刀、能書必用好筆。刻鏤随用改刀、臨池逐字変筆。」


 翻訳するとこうなります。

 名工はまずその刀を研ぎ、()()()()()()()()()()()()()。刻む物によって刀をかえ、字によって筆をかえる。


『能書家は必ず良い筆を用いる』

 良い筆を使えと言っています。

 なんと、「弘法筆を選ばず」は当事者の弘法さんの意見すら無視しているのです。


 以上のことから、弘法筆を選ばずはクソことわざです。

 多くの人間に悪用される悪いことわざです。

 意見があれば可能な限り答えようと思います。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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