『優しい場所』は、あなたの手の中に
『タイッツー』というSNSのタグ企画にて、リクエストをいただいたので書いてみました。
どうぞ。
「……ふえっ、また入れなくなった!?うそぉ」
学校の休み時間、スマホを見ていた乃亜はそう言った。
▪▪▪
櫻野乃亜は、休みの日などにイラスト描いてSNS上に投稿する事が趣味である普通の高校生。
……しかし、いつも投稿をしているSNSが最近不具合続きで何回か入れなくなるのがネックだった。
(うーん。前にフォロワーと言い争っちゃった事もあるし、あそこを続けるのもな……)
頭を抱えながら、そう思っていた。
「のあちーん。暗いお顔して、どうしたん?」
そこに、同級生の真代が目の前に座って話しかける。
「あ、真代ちゃん。あのね……」
いつも使っているSNSの話をした。
不具合続きで困っている事や、フォロワーと喧嘩をしてしまった事を。
「あーあー。分かるよ、それ」
苦笑いしつつ、真代は頷く。
「でもね、どうしてもSNSは続けたくて。成長記録にもなるだろうし、誰かの批評を貰いたくて」
「……あっ、それならね」
真代は自身のスマホを取り出す。
「ねえ、『タイッツー』って知ってる?」
「タイッツー……?」
初めて聞く名前だ。
真代はスマホの画面を見せる。
至って普通のSNSだ。
「タイッツーってね、制作者さんが『寄り添える場所』を目指して作ったらしいの。私もフォロワーさんから教えてもらって、最近始めたの」
「へ、へえ。そうなんだ」
真代は、スマホの画面を自身の目線に合わせる。
「やってみてさ、案外面白くてね。他のSNSと違った機能とかあって、楽しいよ。……まあ、無理強いはしないから、やってみようって思ったら歓迎するよ!」
そう言って、真代は席を立った。
(……『タイッツー』、か)
その時、授業のチャイムが鳴った。
(帰ったら、調べてみよう)
乃亜はそう思いつつ、教科書とノートを取り出した。
▪▪▪
夕方、乃亜は自室のベッドで、タイッツーの事を調べた。
タイッツーの公式ページを開く。
そこには、『「寄り添えるSNS」を作りたい』と一番最初に書かれていた。
「真代ちゃんが言っていたの、こう言うことだったのね」
トップページに書かれていた事を、すべて読んだ。
―――乃亜の心には、『ここで活動したい』という感情が芽生えていた。
そう感じた途端、行動が早かった。
すぐさま、登録を完了させたのだ。
「とりあえず、『始めてみました』とでも書き込もうかな」
そう書き込んだ時だ。
下の階から、「ご飯が出来たわよ」と母の声が聞こえた。
「はぁーい」
スマホを閉じ、乃亜は部屋を出た。
▫▫▫
「はあ」
ご飯を食べ、お風呂まで済ませ部屋に戻る。
ふと、自分が投稿したコメントを見る。
「……えっ?」
乃亜は驚いた。
『いいね』が、思いの外付いたからだ。
(い、いやいや……たまたまよねぇ?そう、よね……)
少し驚きつつ、軽い自己紹介と自作の絵を投稿させた。
「さてと、宿題でも終わらせようかな」
そう呟きつつ、乃亜は机に座って宿題に手を付け始めた。
▫▫▫
置時計のアラームで、乃亜は起きた。
スマホを見ようと思ったら、そのまま寝ていたみたいだ。
朝ごはんを食べる前に、タイッツーを開く。
「……あっ」
フォロワーが何人か増えているのを見つけた。
それに自己紹介のコメントに、沢山のいいねや『リタイーツ』という拡散もされているみたいだ。
「フォロー、返そうかな」
フォロワーのページに飛ぶ。
どうやら、同じ絵描きさんのようだ。
(……興味、示してくれたのかな)
そう思いつつ、フォローを返す。
「あれっ?」
フォロワーの一人が、かつて他のSNSでお世話になった方だったのだ。
(そう言えば、前に繋がってた時はSNSは不具合で辞めるって言ってたな)
まさか、また逢えるなんて……思いがけない繋がりだ、と乃亜は思った。
「……と、いけない。ご飯を食べないと」
そう呟き、部屋を出た。
▪▪▪
その日の授業前。
乃亜は真代に、話しかけた。
「タイッツー、始めてみたの」
「ほんと!アカウント教えてもらってもいいかなっ?」
乃亜は、真代に今朝の事を話す。
「へえ、また逢えて良かったんじゃない?」
「……うん、嬉しくてさ」
「皆、席つけー」
その時、先生がやって来た。
「そんじゃ、のあちん。また後でね」
「うん」
▫▫▫
お昼になった。
乃亜は、真代と一緒に中庭に出てお昼を食べる。
「そう言えば、真代ちゃんってどうして『タイッツー』を選んだの?」
乃亜は気になっていた事を聞く。
「そうだね……ほら最近さ、SNSの誹謗中傷が酷いじゃん。加害者でも被害者でもないんだけど、その光景をリアルタイムで見ちゃった事があってさ。それで、SNSを見るのが怖くなったの」
確かに、真代の言う通りかもしれない。
―――かつて、自分自身がそれに似通った事になりかけた事があったからだ。
「でも、どうしても『自作小説の宣伝』を外部でしたいって思っていて。そうしたらさ、フォロワーさんに教えてもらったって話よ」
真代はWEB小説を書いている。
彼女も、宣伝にSNSは切っても切れない関係であったのだろう。
「悪い話題が殆んど無くてね、みんなが造り上げる世界で……これなら、私も飛び込んでみようって思った。のあちんも、飛び込んでくれて嬉しいよ」
▪▪▪
タイッツーを始めてから、何ヵ月経ったのだろう。
思ったことは、皆が思い思いの事をして騒いでいる姿が『ネットの世界なのに身近だな』と感じた。
すっかり、乃亜も住人の一人になっていた。
辞める不安は、今のところはない。
―――適度な距離で活動出来る場所があるのは、乃亜にとって支えになっている。