第三話 美都研究所
スマホのナビで、送られて来た場所まで向う。
いつもの見慣れた通学路を通り、高校より少しはなれた場所に【美都研究所】はあるみたいだ。
しかしさっきの体験がいまだに信じられない、動物と会話ができるなんて…
『ニャー』
鳴き声が聞こえた脇道に目をやると、トラネコがいることに気付く。
「オマエ、俺の言葉がわかるか?」
思わず話しかけてしまった。
しばらく待ったが、トラネコからは、何も返ってこない。
「だよな…わかるわけないよな…」
あきらめて、振り向いたその時
『もちろん、聞こえてますよ』
あわてて、向き直る。
「やっぱり俺の言葉がわかるのか?」
『はい、わかります、あなたが竹虎さんですね?』
なんか、さっきより、よりハッキリと聞こえるような…なんというかさっきのトラは、もっとカタコトのような感じに聞こえてたような。
「気のせいか、さっきのトラより、オマエの言葉の方が聞き取りやすいんだけど、なんでかな?」
『【トラ】の事ですね?私の方が人間と接している時間が長いので、人間の言葉の発音も達者なんです』
「そんなものなんだな。 そう言えば、俺の事を知っているみたいだけど、どうしてだ?」
『はい、竹虎さんの風体を、【聖】さんから連絡を受けていたので、もうすぐここを通るはずだから案内してあげてと』
聞けば、このトラネコによると、【聖】さんとは、美都さんの事らしい、俺が迷うからと、案内をしてほしいと頼まれてここにいたのだと言う。
いやまって欲しい。「という事は、美都さんもオマエと話せるのか?」
『はい、もちもちろんです、聖さんも能力者なので。それより竹虎さん、先を急ぎましょう』
能力者? まぁいい会って直接聞いた方が早い。
「わかった、急ごう」
『すみません申し遅れました、わたくし、【カツヨリ】と申します、よろしくお願いします』
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
このトラネコとの会話も自分でも不思議なくらい
自然な感じになっていた。
しばらく歩くと、白く無機質な建物が見えてきた。『こちらが美都研究所になります』とカツヨリが言う。
広さはコンビニくらいの、3階建ての建物だ、入口に大きく【美都研究所】と看板が、かかげられている。
『さあ、入りましょう、聖さんがお待ちです』
「うん」
美都さんとあえると思うと、ちょっと緊張してきた。
俺は、インターホンを鳴らす。
『お待ちしておりました、どうぞお入り下さい』美都さんの声だ。
オートロックの厳重な扉が開く、中に入ると、研究所というより、何かの工場のようだ、いくつもの機械が並んでいる。
奥の方から、スラリとした女性、いや、俺と同い年くらいの女の子が歩いてくる。
『お待ちしていました、はじめまして、【美都聖】と申します』
まじまじと顔をみてしまう、身長は、160cmよりちょい上くらい、肩より伸びたストレートの髪に、メガネが似合う、俺の予想通りとてもカワイイ女の子だ。
「はじめまして相原竹虎です」
『立ち話ではなんですから、こちらへどうぞ、カツヨリもおいで』
『ニャーン』とカツヨリが鳴く。
そこは、鳴き声なのか。
通されたのは、10人ほどで、いっぱいになるような会議室のような部屋だった。
美都さんに『なにか飲み物はどうですか?』と聞かれ、思わず「水でお願いします!」と答えてしまった事を後悔してるうちに、美都さんが、水を注いだグラスを持って戻ってくる。
さっきは顔ばかり見ていて気付きもしなかったが、美都さんは、制服を着ていた、しかも県内屈指の進学校の【舞鶴女子高校】の制服じゃないか、「お姫様高校」と俺たち【江府工業高校】の生徒から言われている、男子高校生憧れのその高校だ。
『どうかされました?』美都さんの声で我にかえる、どうやら無意識に美都さんをガン見していたようだ。
「いや、なんでもないっす」ごまかすように言う。
『まずは、いろいろありがとうございます、適性検査もそうですが、ここまでお越しいただいてくださり、本当にありがとうごさいます』
「いや、ぜんぜん大丈夫ですよ、俺も聞きたい事がたくさんあったので」
何よりこの動物と話せるという事も、もちもちだが、この能力がこれからのバイトにどう必要なのかも気にかかる。
バーン!!
後ろで扉が乱暴に開く。
『いや〜君がその、相原君だね、サンキューサンキュー』男の声だ
その声に俺はとっさに振り向く
「あっ」嘘だろ…
そこには毎朝、駅前で意味不明な事を叫ぶ、ジャージに白衣の男が、立っていた。