天女を愛したもう一人の男
急いで書いたので、色々読みづらいと思いますが
よろしくお願いします!
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「まだ、待っているのかい?」
中性的な顔立ちに、長い白髪の髪。
ゆったりと薄紫の衣を身にまとった人物は気品に溢れ、見るものを魅了する神々しささえあった。
その正体は神仙
その白く美しい髪色から、仲間達からは白仙人と言われている。
人のみでありながら、最も神に近づき、神に使える資格を得たものだ。
「……ああ」
答えた男はやせ細り、ヒョロりと高い背い。
顔の大半を無造作に伸ばした髪で隠し、背の高さもあいまってか、不気味さを醸し出していた。
そこには、白仙人と並び立つほどの美しさを誇り、数多の天女達を虜にした面影は一切ない。
「彼女が地上に降り、何年経つ?此処と地上では時間の流れが違う。最悪彼女は……」
「それ以上は言うな!幾らお前だからとお以上言うのは許さないぞ」
髪の奥、僅かに覗く鋭い視線に射貫かれ、白仙人は言葉の続きを飲み込む。
「白、お前の言いたいことくらい分かっているさ。それでも俺はアイツを待つと決めた」
簡単に諦めれる想いじゃない。
人間の頃、初めて出会った時から惹かれていた。
彼女のために厳しい修行にも耐え、神仙にまで上り詰めた。
そして、少しづつ心を開き想いを遂げることができた。
全ては、これから始まるはずだった……。
彼女が地上から戻ってこなかった日は今でも鮮明に思い出せた。
『友達が綺麗な湖を見つけたと言うの。水浴びをしたらすぐ帰ってくるわ』
いつもと変わらない笑顔を浮かべ、彼女は地上へと降り立った。
俺はその間、彼女のためにと婚式ようの衣を用意していた。
全て1から用意し、腕の確かな者に頼み込み何度も納得いくまで作り直した。
そしてやっと完成した。
それを水浴びから帰ってきた彼女に渡そう。
彼女が満面の笑みを返してくれることを期待しながら、少し落ち着かない様子で待っていた。
それから彼女と共に水浴びへ行った天女達が帰って来た中、彼女だけがいなかった。
「おい、彼女はどうした?」
問えば、天女達は困惑した様子で首を傾げる。
「……まだ、来ておりませんの?」
「もう帰ってきたとばかり……」
その言葉に嫌な予感が募る。
そのあと、必死になり彼女を探し回った。
しかし、彼女は見つからずある日"あの方"から俺に告げられたのは「探すな」という言葉。
「あの者はもう、天女としての資格を失った。二度と此処へ戻ることは出来ないだろう」
"あの方"の言葉は、絶対。
それでも、俺は諦めきれなかった。
「なら、待つことだけはお許し下さい」
必死に言い募り、それからずっと彼女を待ち続けた。
きっと、彼女は何らかの理由で地上に留まっているだけ。
すぐ、帰ってくる。
何度も自分へと言い聞かせるようにして、待ち続けた。
そして、待ち続けた日がやってきた。
「おい!彼女が戻ってきたぞ!!」
普段おっとりとした白仙人には珍しく、酷く慌てた様子で駆け込んでくる。
その事を疑問に思うまでもなく、白仙人が口にした言葉に思考が染まる。
「ほ、本当なのか?」
らしくもなく、息を切らす白仙人へ詰めよる。
「ああ。ただ……」
「彼女は!彼女はどこに!!」
言葉を遮るように聞けば、僅かに逡巡するように視線を反らされた。
「いいか。彼女は長い時を地上で生きた。もうお前の知っている彼女とは違う。それを受け入れる覚悟はあるか?」
真っ直ぐに問いかけられ、白仙人が本気で俺の覚悟を確かめようとしているのが分かる。
「当たり前だろ。俺は彼女がどんな姿になろうと愛するよ」
白仙人が言いたいことは分かる。
地上との時の差から、彼女は俺よりも老い当時の美しさは見る影もないだろう。
それでも俺は彼女を愛するだろう。
それは確信だった。
初めて彼女を目にした時、最初に目に入ったのが美しい容姿ではなく、瞳だった。
キラキラと星の瞬きのように美しく輝く瞳に強く惹かれた。
それは俺が神仙になり、彼女と再開した時も同じ。
初めてあった時より大人びた美しさを纏いながらも、その瞳の輝きは変わらない。
白仙人から場所を聞き出し、彼女がいる元へと走り出す。
――白仙人は旧き友を憐れみともとれる眼差で見つめていた。
やっと見つけた彼女は、以前とは違い美しき髪は色褪せ、白く艶やかな肌は荒れ果てていた。
そして、多くのものを虜にした美貌は年老い、既に失われている。
それでも男は構わなかった。
久しく彼女の名を呼ぶ。
「ずっと待っていたよ」
優しく包み込むように腕の中へと入れれば、ゆっくりと顔を上げた彼女と目が合う。
そして、思わず息を飲んだ。
その瞳は、過去男が愛した光は無く、ただ虚空を映すだけだった。
「おい、どうした?」
軽く揺さぶれば、僅かに光が宿る。
「あ、ああ、私は!!」
それと同時に、絶叫するようにして彼女は叫び始めた。
「これは………。白!説明してくれ」
静かに隣に佇む白仙人へと男は戸惑いの声を上げた。
「言っただろ?彼女は変わってしまった。……どうやら地上界にて、人間と交わり子を成したらしい」
「子を?まさか……!!」
沸き上がる怒りを堪えるように告げれば、白仙人は緩く首を振った。
「いや、羽衣を無くし助けてくれた男と結ばれたのだ」
「そ、んな……」
受け入れることが出来なかった。
だって、あの日は
彼女が消えた日は俺達が婚式を上げる日だったのだ。
ずっと2人で、楽しみにしていた。
それなのに……。
俺が彼女を待ち続けた間、彼女は他の男と……?
取り乱しそうになる思考は白仙人によって止められた。
「落ち着け。地上には彼女の知り合いは一人もいない。そんな中、手を差し出してくれたものへと縋りたくなるのは仕方ないんじゃないか?それに、その男が彼女の羽衣を隠した犯人だったそうだ」
中性的な美しい顔を歪め、白仙人は語った。
その間も腕の中の彼女は何かを喚き、泣き続けた。
「彼女は、俺の元で暮らしてもらう」
ぽつり、と呟いた言葉に白仙人がため息を吐く。
「そうだな……。ただし、彼女の心の傷は深い。何かあれば言ってくれ。私はいつでもお前の見方だ。」
「ああ、ありがとう」
それから、彼女と共に暮らし数年が経った。
彼女の瞳に光は宿ることなく、「ごめんなさいごめんなさい」と誰ともなしに謝り続ける。
その度、俺は彼女を慰め続けた。
そして、更に時がたった日の事だ。
「………ぇ……たい」
「どうした?」
小さく呟く声に耳を近づける。
「か…ぇ…た……ぃ」
もう一度話すように促せば、彼女はゆっくりとしかしハッキリと言葉を話した。
「か、えり……た、い」
「どこに?」
嫌な予感がして、震える声が出た。
「あの子、とあの人が、い、る場所に」
そのあとはずっと、帰りたいと繰り返し泣き続けた。
その時、俺の中の何かが壊れた。
俺は地上へと出向き、彼女の言う男と子を探した。
しかし、地上では数千年の時が流れ、2人の子孫のみ探し当てることができた。
そして、俺は神仙としての掟を破り、彼女を若返らせ、今までの記憶を全て消し去り、地上へ放つ。
その時、神仙として多くの力を使い果たす結果となってしまった。
俺が探し当てた子孫は、永い時の中で竹取の家と結ばれ、子をなし竹取として暮らしていた。
その子孫へ見つかるよう彼女を竹の中へと隠す。
そして、導かれるようにして運命は交差した。
力を使い果たした俺は、ただの人と変わらない。
だから彼女が暮らしに困ることのないよう、白仙人に頼んでおいた。
白仙人は怒ることもせず、静かに頷いた。
「そんな予感はしてたよ」
「悪いな、白」
「いいさ、そんなことよりお前はどうなる?」
白仙人の問いかけに、答えることは出来なかった。
俺自身、掟を破りどんな目に遭うか分からなかったからだ。
その後、俺も地上へと降り、彼女を陰ながら見守った。
そして神仙の力を失った事の他にもう一つ気づいた事がある。
彼女が人の子として驚くべきスピードで成長するのに比例し、俺の老いも進行していったのだ。
そして彼女が成人の儀を終えた日、俺の寿命は尽きた。
田舎の山で土に塗れながら楽しそうに笑う彼女。
その笑顔を久しく見れただけで、なんの悔いもなかった。
全てがしわがれた、醜い老人のもとに白仙人が現れた。
「馬鹿なやつだ」
小さく呟かれた声に反応するものはいない。
「彼女は都にて、辛いめにあうだろう。でもお前が苦しんだ時の何倍も軽いんだ。これくらい、許してくれよな」
軽口を言うように話し、白仙人はそっと老人へと触れる。
「最後にひとつ、お前の力で白く染った彼女を"あの方"は許して下さったよ。全ての罪を忘れさせ、もう一度あの美しい姿を与えることにしたようだ。良かったな」
白仙人は老人を抱き、立ち上がった。
「せめて、お前が来世では幸せになるよう祈っているよ」
老人の体は淡い光に包まれ、少しづつ消えていった。