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金曜の飲み会のせいで
終わらすことができなかったタスクを
土曜の昼過ぎに出勤して
自主的にこなす私は
もはや社畜そのもので。
だけど、家にいても
心が落ち着くことはなくて。
久々の夏樹とのセックスは
温かくて優しいものだった。
穏やかで、
夏樹の存在に癒されていることを
意識せざるを得ない。
だからと言ってそれは、
結婚しよう、などという
意思とは結びつかなくて。
お互いきっと、
ぬるま湯に浸かる心地よさなことを自覚している。
このままぬるま湯に浸かり続けて、
感覚を麻痺させていくべきなのか。
それとも、、。
あー、だめだだめだ。
たったの一瞬なのに
熱く、鋭く胸を突き刺した
春田との口づけがフラッシュバックし
ぶんぶんと頭を振る。
だめだ、こりゃ。
いつからこんなにも、
最低な人間になったんだろう。
モラルとか、
常識とか
節度とか。
そんな当たり前のこと
当たり前に自覚していると思っていたのに。
なぜそれでも、
君を欲しいという心が
強くなってしまうのだろう。
「あれ?冬野?」
「あ、香坂さん。お疲れ様です。」
「なんだ出勤するなら言えよなー。」
「いや言ったら香坂さん来ちゃうじゃないですか。」
「まあそうだけど。てかまあ、どっちみちだ来ちゃったけど。」
「たしかに!」
こんな風に話しやすくて
近くにいて違和感のない香坂。
今までも散々お世話になってきたけど
彼に恋愛感情を抱いたことはなくて。
近くにいれば
好きになるという話でもないことは、
自分が一番よくわかっている。
それだけ、「好き」
という感情が
特別なことは知っているのに。
「昨日ちゃんと帰れたか?」
「こっちのセリフですよ。」
「わりいわりい。今日も全然二日酔いだわ。」
「でしょうね。ご愁傷様です。」
挨拶程度の話を終えると、休日のオフィスにはキーボードの音と書類をめくる音が響く。
「どうだ?終わりそうか?」
気づけばそろそろ夕方と呼ばれる時間に突入していて、窓から見える太陽は夕焼けの色をし始めている。
「はい、あともう15分もあれば。」
「今日、どうだ?夕飯。」
「あー、大丈夫ですよ。」
夏樹は友達と飲みに行くと言っていたし。
特に予定はない。
「よし、じゃあすぐ片付けるぞー」
「へーい」
結局それから30分ほど仕事をし、
職場の近くにある
中華居酒屋の看板の
16-18 ハッピーアワー
という言葉に惹かれ
「ま、ここだよな。」
との香坂の言葉に従い店に入る。
さっきまで二日酔いと
言っていたくせに
ビール2杯と大声で頼む姿は
何故か清々しい。
「じゃ、おつかれー!」
「おつかれさまでーす」
ぐびっと一口。
やっぱり、仕事終わりのビールは
何よりも美味しい。
「2日連続香坂さんと飲むと
新人の頃思い出します。」
「確かに。むしろあの頃、
2日連続どころじゃなかったな。」
香坂の部下として配属され
右も左もわからず
むしろ今思えば香坂も
まだまだ下っ端として
動いていたあの頃。
「そこから6年ですよ。」
「はえーなぁ。
30過ぎてる頃には
土日は子供の面倒でも見てる
そこらへんの父親になってんのが
俺の未来像だったんだけどなー。」
「、、、似合わない」
思わず笑ってしまったが、
たしかに今年31歳になった香坂が
小さい子供の父親でも
おかしくない年なんだよなぁ。
きゅうりの辛い浅漬けと
チャンジャが席に届く。
「食べてるものは
変わんねーのになぁ、」
「ほんとですね。
てか今日やけに感傷的ですね」
「わかる?わかるか?
さすがだなー。冬野は。」
「6年の付き合いですよ、当たり前です。」
香坂からの誘いがあるなんて
十中八九、彼女と何かあっただろうと
お店に入る前からわかっていたけど
1人で聞いてあげるのも
なんだかめんどうくさい。
むしろ自分の恋愛事情が
ドタバタし過ぎていて
まともな返答なんて
できるのだろうか。