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「しゅにーーーんーーーーー」
と店を出てからもふらつく春田を後輩に任せ、タクシーに乗り込む。
頭を冷やしたい。
その一言に尽きるのに、
どうしても
どうしようもなく、アイツが気になって。
思考を遮るように目を瞑る。
あと5分で家に着くところでスマホの着信音が響く。
着信
春田
その文字に半分眠っていた脳みそがふわふわと舞い上がる。
ーーーー はい。
なぜ、この電話に応えてしまうのだろう。
答えなんて明白なのに。
まだ私は、気づかないふりを続ける。
「すんません。きてもらっちゃって。」
その男は、近くもないうちの近くまでタクシーでやってきていて。
まんまと私はその近くまでタクシーで折り返して。
「生きてる?」
また、こいつの前でクールな先輩で振る舞うのだ。
「ねえ、主任。好きっすよ。何で今日ずっと香坂さんといちゃついてるんすか?ほんとに嫌だった。
ほんとに。ほんと、なんなんすか?」
とてつもないエネルギーで、
酔いは冷めているはずなのに。
そう、酔が冷めていると
私はわかっていた。
だから、置いてきた。
酒には強いこいつだから。
二次会ではほぼ酒を口にしていないこいつなら。
一次会で、ヘロヘロになっている風を装えるこいつなら。
それさえもわかっていて、
近づきたくなかったのに。
そんな動向一つ一つを、
一言も喋らなくてもわかっているほどに、分かってしまうほどに、この数ヶ月毎日君を見ていたから。
「生きてますよ。余裕ですよ?」
そう、口角を上げれるほどの君を私はわかっていて。
わかっていて、今、ここに、自分の意思で来てしまったのだ。
「春田ってさ、Mなの?」
「は?何言ってんすか」
「私にいじめられたいの?」
「どうしたんすか。冬野さん酔ってんの?」
'クール'とゆう今日まで何度か言われた言葉が頭を駆け巡る。
私がこいつに好かれるのは、
今までこいつの近くにいないタイプの人間だったからで。
「めーーっちゃよってる。
もんのすごく、ね。
飲みすぎな先輩の介抱しすぎでさ。
そのくせ
しっかりなんてしてないし。
ルーズだし。だらだらしてたい人間なのに。
そんなんもうどうやっても、
クールでも何でもないし。
仕事の顔なんて
全部仮面だし。
ほんとそれをいいって言ってるあんた、なんな」
の?
と言い切る前に、
大きな両手で抱きしめられて。
どうしようもなく、動かなくて。
「なに」
「なに、じゃないでしょ。」
わかってる。
わかっていた。
だけど、
それでも君は
「ふざけないで」
これは、
普通の恋愛じゃないから。
この温もりが、
しあわせ
だなんて感じてはいけなくて。
絶対に、君のことを思ってはいけなくて。
だけれど、
少しだけ。あと少しだけ。
春田のこの温もりを
感じていたいと
心の底から思う私をもう押さえつけることはできなかった。