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週末の飲みの席では、本部長の隣の席を指名され、香坂にも春田にも近づくことなく終盤に近づいていた。



会社ってこういうものだ。


常に頭を働かせて、


顔を取り繕って


体裁を固めて


グータラした自分の素の状態なんて微塵も出さない。




たまーに、冗談を言って。


上司にいい顔して。



同期や良くしてくれる先輩と仲良くして。




こんなもの。


そう。



一つも心を揺らがせるものなんて、平常心を揺るがすものなんて、


いらない。








「二次会行くぞー!」


香坂に肩を組まれ、香坂以下の若者たちが8人二次会へ向かう。




「ふゆのさーん」


若干酔っ払いの春田が後ろで叫んでいるけれど、周りに勝手に冷やかされている。





「お前らほんと仲いいなー。」



ほろ酔いの香坂をどうはぐらかすか、それだけが問題で。



こっちも軽く酔っているのにほんとうに困った上司だ。






「懐いてくれてありがたいですけどね。面倒ですね。」


「クールだよなぁ。ほんと。

そこがまた春田に好かれてるのかねー」







この人は酔っ払い。


この人は酔っ払い。


この人は酔っ払い。





そう、自分の心に言い聞かせないと、



香坂のなにげない一言が


心にズキズキと



突き刺さる。






"そうゆうところが好かれてる"


というさりげない言葉が心に突き刺さってしょうがなくて。





私はどんなに好意を見せつけられても



クールで


動じない


からかい甲斐のある





人でなければ。









そうでなければ、


アイツには好かれない。







それはどうしようもなく、どうしようもない


真実であって。





自分が一番わかっているのに。


ほろ酔いのこの頭では、涙が出そうになるのだ。






「そんなクールに見えますか?私?」



自嘲気味に呟くと





「まあそこが可愛いとこじゃん?」




と、一ミリも褒め言葉にならない返答をくれる先輩。



今週だけで何度殴りたくなっただろうか。








結局、飲み会は終電近く段々と体育会系男子たちから潰されていくとゆう壮絶な終盤を迎えようとしている。



その中にはもれなく春田も含まれていて。




半分眠りながら宴会席の隅っこで「もーむりー。」とブツブツ呟いている。







「かわいかったですね、さっきの。」




一つ後輩の神宮寺が、残飯処理のごとく残った瓶ビールを自分のグラスに注ぎながらこちらに話を振ってくる。




見た目は可愛い女子校上がりを漂わせるくせに、本物のサバサバ女子なこの子を私は好いているけれどこの発言だけはどうにも流してしまいたい。




「さっきのって??」


知らんぷりをしながら、ハイボールを飲み干し瓶ビールの消費隊に私も加入する。




「酔っ払いな春田さん発言聞いてませんでした?」


ニヤリ、とゆう表現がぴったりな笑顔でこちらに向く神宮寺の顔は私が男だったら魅力的にしか映らないのであろうな。



と考えつつ、この場をどう切り抜けようか半分やっている脳みそをフル稼働する。





「このヘロヘロ香坂さんの介護でそっち側の話なんか聞いてないよ。」



8人席のちょうど真ん中にいた。

4人ずつで話題は二つに分裂していたけれど、春田のあの発言が聞こえなかったわけではない。





ただ、タイミングよく香坂が「やべえ」とトイレに立ってくれたおかげで私もそこに付き添う形で席を離れられたのだ。





「えー!そうなんですか?春田さんの愛の告白が!」




「なにそれ。神宮寺今すごい小悪魔フェイスだよ。」



「先輩のクールビューティには敵いませんよ」




「それよりどうなのよあの人と」



社内にいる神宮寺の彼の話をすれば「やめてください!」と、小悪魔も自分の恋愛話へとすんなり流れてくれた。








"さっきの春田さんの愛の告白"




その言葉に


どうしようもなく心が揺れる自分はお酒の飲み過ぎなのだ。




そう言い聞かせることに全神経を使う。










"職場恋愛もいいなーって、初めて思っちゃいました"






酔っ払っているからいつも以上に

ヘロヘロニヤニヤしながら、


恋愛についての質問に答えるアイツの声が脳内から離れない。





ムカついて仕方がないのに



どうしようもなく、いらついて、もどかしくて、








泣きたくなるのだ。






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