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気がつけば週の半分以上が過ぎ去っているのは、何歳の頃からだろうか。



歳をとると時間が経つのが早いのよ


というあの有名すぎる言葉を都市伝説だと片付けられなくなったのは、いつからだろう。





金曜日に社内での飲み会が開催されることに決まり、少しげんなりとしたムードが職場に漂う昼休み。


今日は珍しく外食をとる時間が設けられ、香坂と春田と三人で連れ立って近くの洋食屋へ出向くことになった。




ハンバーグにがっつきながら、浮かない顔の香坂の話を親身に聞く後輩春田。


もったいないことに、視界の右横に入る石のプレートの油の跳ねが引いてきてしまっている。




「こないだ食事に遅刻したらさ、まあ当たり前だけどすげー怒ってて。逆に結婚しちゃった方が気が楽なのか?とか思うわけよ。」



わりかしテンション高めに仕事を帰っていった月曜、彼女とひと騒動があったらしい。



「お前んちとか奥さん大丈夫なのか?」



キラン、と指輪が光って見えたような気がするのは気のせいだろうか。


この数ヶ月を過ごしてきたけれど、驚くほどに妻の話を春田は職場に持ち出すことはなかった。




聞きたいような、聞きたくないような。


一瞬、ハンバーグを食べる手が止まってしまって。それをまた、春田に気づかれているような気がして、

心臓の裏がヒヤリとた。




「あー、うちは俺に興味ないんで。どんな遅くなってもなんも言われないっすねぇ」



「うわー、それはもう羨ましいに値するな。。平日に彼女との予定入れるのトラウマになるわぁ、はあ。」




【俺に興味ない】

そんなセリフをさらっと言ってのけるこの男に、目に見えない恐ろしさと寒さを感じる。そしてまた、ひどく寂しそうで。





「冬野はどうなの。同棲?」



「えっ」



思わず最後の一口のマッシュポテトがぽろっと一欠片、石のプレートに落ちていく。


まさか自分のターンがやってくるとは。



しかも、恋愛ネタ。





「あ、あぁ。うちももう付き合い長いし、基本フリーダムですね。ははは。」



棒読みにもほどがある乾いた笑いがこみ上げる。




なんで私は




恋愛の話を、春田の前でしたくないと考えているのだろうか。


この4ヶ月、同棲していることさえ、むしろプライベートなどほぼなにも春田に私は伝えていない。



つたえたくないし

私の情報など、持たないでほしい。




「そういうもんかぁ、てあれ?そういや同棲してなかったか?毎晩帰り遅くて喧嘩にならないのがもう俺には未知の領域だよ、、」




香坂のことがこのランチタイムだけで、社内3位に入賞できるのではないかというくらい嫌いになりそうだ。




たしかに入社時から公私ともに仲良くさせていただいたけれど、

親しき仲にも礼儀あり

ではないだろうか。





「へぇ。同棲してたんすね。」




いつもよりも、心なしか低い声で春田が相槌を打つ。




「香坂さん、口軽いなーまったく。」



必死に取り繕うようなコメントをするけれど、すでに私は動揺を隠しきれていないのではないか。



チリチリと胸の奥が痛む。




「あーわりぃ。なんだそういうのまで全部知り合ってる仲かと思っててつい、さ。」



本当に悪いと思う表情で、頭をぽりぽりと掻く香坂さん。




「こうやって噂って広がっていくんだなあ。」




先輩への態度とは思えないけれど、強気な言葉を口に出さなければ、手も、口も、足も、すべてが震え出してしまいそうで。








隣に座る

春田の左手が


私の膝の上にある私の手のひらを


震えながらも強く掴んでいることを

香坂に悟られないようにすることに必死だった。






この繋いだ手には


一体、なんの意味があるの。





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