第一章7 『教室さがし』
「...あった...」
ようやく「F」の看板がぶら下がっているクラスを見つけた。
それにしてもこの校舎はよく入り組んでいる。
先ほどの女生徒と別れてすでに20分が経ってしまった。
「初日から遅刻だな。」
「...ん...」
俺はガラガラと教室の扉を勢いよく開けた。
誰もいない―――――
いや、教壇の前の机に脚を組みながら座っている女性が一人いた。
少しの沈黙の後...
「おめでとう。 君たちが一番乗りだ。」
俺と四都葉はゆっくりと教室に入る。
「...ほかの生徒は?...」
四津葉が口を開いた。
「彼らならまだその辺をほっつき歩いてるだろうよ。 迷路みたいな校舎だからな。」
くつくつと不敵な笑みを浮かべながらその女性は言った。
「おっと、自己紹介がまだだったねぇ。 このクラス、「F」組の担任になった、堀北 香奈だ。 よろしくな、帝一くん、四都葉くん。」
「...くん?」
四津葉は『くん付け』に若干戸惑っているらしいが、ここはスルーする。
「もう生徒の名前を覚えたんですか。」
俺は淡々と話を進める。
「ああ、教師としてな。 それはそうと、ここへはどうやって来たんだ?」
堀北と名乗ったその女性は、興味深そうにこちらを見つめている。
「案内板どおり来ただけです。」
「その看板とおりに行ったら、行き止まりで、壁にぶち当たるはずだが。」
「壁が立体映像になっていて、すり抜けられるなんて普通は思わない。 まったく、くだらないないトリックですね。」
事実、廊下にはいくつも立体映像があった。
時間がかかったのは、校舎が入り組んでいるというのもあったが、念のため立体映像を一か所ずつ確認していたからだ。
(まぁ、風の流れで校舎の大体の構造は分かったが。)
「あーぁ、あの人が推薦しただけある。 だが、そういうことだ、この高校で重要なのは常識じゃない。 常識にとらわれない力だ。 かの英雄『皇 帝一』のようにな。」
(かの英雄...か。)
そして、『あの人』とはおそらく楓のことだろう。彼女はいったい何者なんだろうか。
堀北香奈は、ため息をついた。
そして言った。
「『立体映像』解除。」
このトリックは、どうやら彼女の能力らしい。
しばらく間をあけ、教室の外が何やら騒がしくなってきた。
「おー! やっと見っけた!」
「えー、教室こんなとこにあったんだ!」
「マジめんじだわぁ~。」
騒ぎ声と同時に、大勢の生徒が教室になだれ込んできた。
そして、教室ににあったすべての椅子が埋まった。
俺の席は窓側の後ろから二番目、運がいいのか悪いのか、隣はまたしても四津葉である。
「皆、席に着いたな。 では、ホームルームを始める。 私は、担任の堀北だ。 まず、先ほど君たちが教室を見つけられなかった理由は各々じっくり考えるがいい。」
生徒たちはポカンとしているが、彼女は早々と話を進める。
「ここでは、強者はのし上がり、敗者は転落する。 言ってみれば戦場の縮小版みたいなものだ。 一週間後にはテストがある。 通常の5科目と科学魔法実技の計6科目だ。 詳しいことは後日話すが、せいぜい頑張ることだ。以上。」
それは生徒たちを見下すような、ひどく冷たい声だった。
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