第一章6 『癖のない入学式』
「着いたな。」
「...ついた...」
俺と四都葉は順に呟いた。
ここは高校の前。
墨の字で『東亜国立高等学校』と書かれた立派な校門の奥には、大きなレンガ造りの校舎が悠然と佇んでいる。
周りがコンクリートの高層ビルばかりということもあり、ここだけ昔にタイムスリップしたような光景だ。
少し遅く来てしまったからか、生徒は少ない。
「少し急ぐか。」
「...うん...」
案内板を見て、急ぎ足で入学式会場へと向かう―――――
「機嫌は良くなったか?」
「...少しは...」
少々間を開けた後、出会った時から変わらない淡々とした声で四都葉は答えた。
そして同時に少しうつむき、神妙な顔つきになった。
「―――――い、いやじゃないの?...」
いきなりの彼女からの質問だった。
「何がだ?」
「―――――その... 心を読まれて...」
少し戸惑っているようだった。
彼女自身、自分の能力を気にしているようだ。
今までに、辛いことがあったのか―――――
「少なくとも俺は気にしていないぞ。」
俺は一度立ち止まり、四津葉の目をしっかり見据えながら言った。
(今までも色々な能力を見てきたからな。)
少し口... ではなく「心」を滑らせてしまったが、まあいいとするか。
迂闊に色々回想すると四津葉に情報がだだ漏れになる。
とっさに俺は頭の中の電気信号を暗号化させた。
こうすればほとんど読まれることはないだろう。
(俺の推測からするとこいつは俺の正体を知ってるようだから、心を読まれても別にいいんだが)
「...怖くない?... 気にしない?... ほんとに?...」
「ああ、本当だ。」
「...うれしい...」
そういうと彼女は、ふふっと軽く声をもらし、少しばかり微笑んだのだった―――――
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「えー、以上を持ちまして入学式を閉式いたします。」
司会の女子生徒が言った。
場所は大きな講堂、入学式は俺が思っていたものとさほど変わりはなかった。
いくら長い間戦場にいたとはいえ、学園ものの本の一冊や二冊くらい読んだことがあるからだ。
生徒会長の「新入生の皆さん、入学おめでとう。」から始まる挨拶―――――
校長の長い話―――――
参列者の人たちのほぼほぼ同じような文の式辞―――――
そんなものが続き、入学式は普通に幕を閉じた。
そして、俺の席の隣に座った四都葉は、終始うとうとしていた。
髪がぽわぽわになっている。
「四都葉、終わったぞ。」
式が終わっても彼女は寝ぼけまなこであった。
ほかの生徒は、もうとっくに出口に向かっている。
「...ん...」
目をこすりながら、きょろきょろと周りを見渡していた。
「...いく...」
彼女はようやく立ち上がった。
出口では、在校生が何やら生徒一人一人に札を配っている。
「はーい! そこの黒髪のイケメン君と、キュートで可愛いお姫様は二人ともF組ねー!」
話しているのは出口にいた在校生らしき女子生徒だ。
周りに他の生徒はいない。
俺らのことをいってるのか。
それと、「キュート」と「可愛い」は意味がダブっている。
「入学そうそう、お付き合いなんてぇー! もうっ! ラブラブなんだからー!」
ちょっと言ってることがよく分からないが、とりあえず「F」と書かれた札を受け取る。
「どうも」
「あぁーん! 言葉遣いが、冷酷ぅー! こんな彼氏さん持って幸せねー!」
女子生徒は、目をハートにしながら今度は四都葉の方を向いて言った。
これは恋に恋しているといった感じだろうか...
「...付き合ってなんかない...」
そう言うと、四都葉はあきれたのかスタスタと教室の方へと歩いて行った。
「すまない、あいつはそういう...からかいとかが苦手みたいでな。」
「そっか――――― ごめんね... あの子にも謝っておいてくれないかな。」
先ほどとは変わり、女生徒は少々申し訳なさそうな顔をした。
「分かった。言っておく。 さて... 俺も行くか。」
「ありがとう。 引き留めて悪かったね。 じゃ、頑張って!」
「頑張って」の意味することがよく分からなかったが... ああ、返事をすると彼女を背にし、急ぎ足で四都葉に追いかけた。
まあ、追いかける必要もないか。
同じクラスだしな。
そして...
(四都葉、どうせ聞こえているのだろう。 これから同じクラスだ。 よろしく頼む。)
心の中でそう呟いた。
勿論暗号化せずに。
同時に、校舎の柱の陰で、やられたといわんばかりの顔をして、こちらを向いている四都葉を見つけたのだった―――――
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