第一章15 『いつから』
俺は朝来た道をたどって、大学まで帰ってきた。
大学の校舎内はすでに薄暗く、殆ど人のいる気配はない。
最奥が、楓のいる研究室だ。
扉の前まで来て、軽いため息をつく。
というのも俺は、とあることを考えていたからだ。
思考を練りつつ、扉を開けた。
「ただいま。」
向こうから、足音が聞こえ、楓が顔を出す。
「あ、帝一くん。 お帰り! 遅いから心配したよ。」
「少し、友人と道草しててな。 すまなかった。」
「え、もう友達ができたの!? あの、てっ.. 帝一くんが。」
(そんなに俺に友達ができるのがおかしいのか。 まぁ、俺の性格からそう判断したのだろう。 楓は昔の俺も良く知ってるからな。)
「あ、それより、ごはん出来てるよ。 とりあえず上がって。」
「なぁ、双葉 楓。」
俺は玄関先で、彼女を引き留めた。
「ん、どうしたの? いきなりかしこまって。」
「――――――――いや... もう『小鳥遊 楓』と呼んだ方がいいか。」
「っ!...」
楓の顔が一気に青ざめる。
「い、いや、なに?小鳥遊って... 誰のこと言って」
「もう演技は終わりだ、小鳥遊。」
彼女の言葉を遮るように言い放つ。
俺は純粋に500年前の楓に会いたかった。
たとえ彼女を一時的に傷付けてしまう結果になったとしても―――――――
しばらくの沈黙...
俺も小鳥遊も、何も発しない。
うつむいている彼女の目には涙が浮かんでいた。
「――――――いつから... いつから気づいてたの...」
いつもの楓からは想像できない、暗くて重い声だ。
「一目見た時には気づいていた。」
「―――――――確信はあったの...」
「勿論だ。幼馴染を忘れることなんてない。」
「...」
あれから長い年月が流れた。
楓はたった一人で足掻いて、足掻いて。
俺を助けるために必死になって。
楓の研究室の壁には隠し扉があり、中には大量のノートが保管してされていた。
すべて日記だった―――――
500年の間欠かさず、毎日の記録が手書きで綴ってあった。
『今日もうまくいかなかった。 けど、明日にはきっと必ず...』
『何度やっても駄目だった。 どうすればいいの... 教えてよ。 てー君... 教えてよ...』
『もう全ての配列を試した... どうすればいい... いつになったら... いつになったら... いつに...』
半分病みかけたその日記は俺が目覚めた日の前日に終わっていた。
「...」
楓は俯いて黙ったままだった。
俺も口を開かなかった―――――――
こういう時俺が言葉をかけるべきなのだろう。
―――――ただ、俺は楓自身に『今の俺』と『偽りの彼女』の関係に結論を出してほしかったのだ。
重く鉛のような時間がどれほど続いただろうか。
沈黙を破ったのは楓の方だった。
「――――――――さよなら。」
そう彼女は言い残すと、駆け足で俺の横を通り過ぎ、真っ暗になった廊下へと消えていった――――――――――
投稿が大幅に遅れてすみませんでした。
マイペースauthorですがこれからもよろしくお願いします。




