第一章1 『寝起きからキスはしない』
「ねぇ、皇...くん。 起きて。」
遠くから人の声がする。
「いつまでも起きないと... キスしちゃうよ...」
まだ意識がはっきりしないが、すぐに体を起こした。
広い部屋の中にベッドがぽつんと置かれていて、今までそこに寝ていたようだ。
そして傍らには中学生くらいの短い桃髪の少女が立っている。
「やっと起きたね。 私とのキスはそんなに嫌だった?」
その少女は頬を膨らませながら、少々起こり気味に顔を近づけてきた。
整った顔にまんまるとした目の可愛らしい子だ。
「別に俺は嫌ではないぞ。 したいならするか?」
俺、「皇 帝一」は冷静に答えた。
「じょ、冗談冗談... 流石にキスはしないよ...」
少女は顔を真っ赤にしながら言った。
「ところで、俺を助けてくれたのか?」
「うん、そういうこと...かな。」
「そうか、ありがとう。」
「あ、えーっと、どういたしまして... 体に異変とかはない?」
少女は少しばかり困惑しているように見えた。
桃色の髪を指で弄びながら、俺のことを心配そうに見つめている。
「ああ、見ての通り大丈夫だ。」
「それなら良かった... それと―――――」
それから彼女は、さっきまでの笑顔とは裏肌に、真面目な顔になって言ったのだった―――――
「少し言いずらいんだけど... 君はね、『東西分割戦争』で死んだんだよ...」
短い沈黙が流れる―――――
死んだか...
否定はしない。確かにあの出来事の後の、体中が血まみれになって深い苦しみの中に沈んでいく感触は生まれてこの方、味わったことがないものだった。
あの状態なら死んでいたっておかしくないだろう。
だが、死んだのにどうして今生きているのか―――――
俺は黙ったまま、少女の顔を見据えた。
「私は今『遺伝子編集蘇生』を研究してるんだ。皇くんを、助けたっていうよりは...」
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