第一章8 『老人先生の授業』
7話の続きです。
ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。
生徒たちは一斉に立ち上がる
「1時間目は... 『魔法科学』。」
俺は教室の後ろの方に貼ってあった予定表を見ながら呟いた。
この学校は一日目からいきなり授業があるらしい。
教科書は入学前に俺のところに届いていて、今日も持ってきたから不備はないはずだ。
再びチャイムが鳴り、授業が始まった。
教壇に立っているのは、かなり年老いた老人である。
「諸君、にゅうゴホッ、ゴホッ、入学おめでとう。 科学魔ゴホッ...法の授業を担当する、御手洗だ。お手洗いとは呼ばないでぐれたまえゴフッ。」
せき込みながら、ガラガラ声で話している。
この人は大丈夫なのだろうかと思っていたら、隣にいた四都葉がなにやら俺に目で訴えかけてきた。
彼女の机の上には筆箱以外何もない。
(教科書を忘れたのか?)
四都葉は頷く。
(一緒に見せてほしいということか。)
俺は彼女に教科書を手渡した。
(持っていていいぞ。俺はもう事前に覚えてきた。)
四都葉目を丸くして、きょとんとしている。
授業の方はというと、『入学おめでとう』の話の下りが終わり、教科書の内容に入ろうとしているところだ。
「えぇ~、でば、教科書の19ページ、国連のゴホッ...魔法規定28条の二項を読んでぐれ。 え~、今は10時30分... 30番のぉ~、双葉 帝一ぐん。」
時計と出席番号の表を交互に見ながら老人先生は言った。
「俺か。」
四都葉は焦り気味に、俺に教科書を返そうとしてくるが、「大丈夫だ」と手で合図した。
俺は席を立った。
「『魔法行使及びそれに準ずるものは、人民の幸福追求の為にのみ適用することが可能であり、先の魔法大戦のような残虐非道な事例が再発しないよう、国家は魔法師の統制を行う義務を負う。』」
この部分は楓の研究室に居候している間、何回も読み直した部分だ。
俺が死んだ後に規定された条文である。
「うむ、ありがとう。 ところで... 君の机の上にはゴフッ...筆箱しかないようだが、教科書はどうしたのかね?」
「入学早々家に忘れてきてしまったようで。まあ、内容は全て覚えているから支障はないと思います。」
教室中がざわめく。
内心目立ってしまったと思ったが、ここは国で一番ランクの高い学校だ。
教科書を覚えている生徒などざらにいるだろう... と俺は思っていた。
「忘れ物は感心しないが、君は頭がゴホッ...いいのだなぁ、流石じゃ。 では、この条文について簡単に説明していくどしよう。 ここでいう、『魔法行使』とは皆がゴホッ...知っての通り...
老人先生は、再び話し始めた。
「...すごい...」
席に座ると、隣にいる四都葉がこちらを見て言った。
「俺が誇れるのは暗記くらいだからな、たまたまだ。」
適当にごまかしておく。
「...あ...教科書...ありがとう...」
「ああ、またなんかあったら気軽に言ってくれていい。」
「...ん...」
彼女はどことなく嬉しそうだった―――――
(さて、授業に集中するとするか。)
「次はゴホッ... 23世紀に発見ざれた『魔力量方程式』についでじゃ... えぇ、今は10時40分... 40番は欠席か... では40引く10で、30番... 双葉 帝一くん、一行目を読んでぐれ。」
老人先生はまたもや俺を指名してきた。
しかも二回目だと気づいている気配がない。
周りでは「あれ?また?」、「不運だなー」などと言葉が飛び交っていて、生徒は皆笑いをこらえている。
あの先生はボケているのか、いや新手のいじめか?
まぁ仕方ない、読むとするか...
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