人じゃない、動物に。
「ウザイ。以上」
「えぇ~そ、そんな……時葉に見放されたら俺は誰に助けを求めればいいんだよ」
「あたしじゃなくて、いるだろ? 正式な彼女が。言っとくけど、人として優しくしたわけじゃないからそこを勘違いされても困る」
「人? いやいや、俺は人間よ? 優しくされたいんだよ俺は! 時葉に!」
面倒くさい。その一言に尽きる。別に人としてそれも、男として相手をしたわけでもないのに、どうして無駄に心を寄せてくるのだろうか。それもきちんとした相手がいる男から。癒しを求めるのはあたしにじゃなくて、彼女が普通のことのはず。
喧嘩別れとかしたならともかく、喧嘩もしていないのにどういうわけかあたしを頼ってくる。世の男どもは、彼女じゃない女から頭を撫でられることに抵抗力も無ければ、免疫力も無いというのだろうか。そもそもあたしはそんな癒し系じゃないのに。
「こころは自分が分かってない! わたしももし撫でられたらキューンって鳴くかも」
「じゃあ、撫でるから鳴いてみせて」
「遠慮します」
「からかうのはやめてよマジで」
「いやぁ、そうじゃなくてね。同性から撫でられても……というか、枝毛がやばいので許してください」
かなでは、正直言ってくることと思ってることが全然的外れなだけにムカつくことが多い。まぁでも、同性相手には確かに動物愛は感じられないことが多い。じゃあ、何故男相手だと動物愛が芽生えるのか? それは自分でもよく分からない。
結局のところ、やはり男子としてではなく動物として見てしまうからだと思う。それくらいどうしてか知らないけれど男からの憐みの瞳が、あたしにはツボってる。
「動物には優しくする。だから撫でる。それだけ」
「人間は動物。それくらい知ってるし。でもさぁ、なーんか何かから逃げてる気がするんだよね、こころって。それか、求めてるからこそとりあえず動物愛って言葉に逃げてる。そんな気がする」
かなでというおバカな女子は、時々ハッとするようなことを口走る。計算しているようでしてないのだろうけれど、そういうことを言うのはずるい。あたしの動物愛はまさしく相手に求めている行為と行動なのだから。
実の兄から得ることのできない愛情を他の誰か、あたしだけを見てくれる男から貰えるなら、あたしは変わりたい。そんなのがいればの話。所詮、声をかけてくるのはどれもが相手持ちなのだから。
動物は一途だし、愛でると懐く。でも人は、男はそうとも限らない。そんな奴がいたらいいなって思う。