三ヶ星照輝の異世界転移
真っ白な部屋空間の中、貴女は目の前の少女と二人っきりとなっていた。
「陽月アカリさん、貴女は選ばれました。どうか、私達の世界を救ってください。」
学校終わりの帰り道。明日から夏休みという期待を胸に帰路へとついていたはずなのに訳の分からない事を言われている。
「突然この様な酷い問題事に巻き込んでしまって誠に申し訳ございません。…ですが私達にはもう時間が無い。貴女に頼るしか他に方法はないのです。」
ピンク色の髪を持つ少女が頭を下げる。その姿は必死で、心の底から嘘偽りなく罪障感を漂わせていた。
「200年前、その世界はまだ平和でした。自然と、動物と、人間と、そして魔法と共存しあう平和な世界。それは未来永劫、変わることはないと思われていた。…ですが。」
しかし。
「突如、魔界と呼ばれる異世界から魔族の軍が侵攻してきたのです。理由は分かりません。領土侵略か、唯の気まぐれか。ですが私達の世界が魔族によって侵され、衰退に迎えているのは確かです。」
何処からか紙片を摘み上げ、少女は貴女に差し出す。
酷くよれたそれはゴミ同然の有様だが、何故か、それから目を離せなかった。
「私達はずっと貴女を探していた。何年も、何年も何年も何年も。それしか、私達に残された道はなかったから。」
紙片を受け取る。
見慣れない言語で書かれたはずなのに、貴女は読むことが出来た。理解することが、出来た。
「此方の世界への片道切符です。本来なら、貴女を元の世界に返すまでが私達の使命なのですが…。今はこの空間を維持するのに力を使ってしまっています。」
少女はバツの悪そうな笑を浮かべる。
自ら他人を頼っていながら、恩に報いることさえできない。
交渉としては論外問題外、なにせ貴女には何の得もない。不利益そのものしかないのだから。
しかし少女は目を逸らさない。
「この空間には私と貴女しか呼んでいません。いえ、呼べないのです。世界を渡る適合者なんて数多の星の中から目的の星を見つける様なもの。」
少女は言う。
「言うなれば此処は異世界への入口。ですがまだ貴女は引き返すことができる。私の後ろに赤い扉があるでしょう。そこを潜れば元の世界に帰れるでしょう。」
赤い扉。
え、赤い扉?
そんなものはない。というか本当にここにいるのは少女と貴女だけなのか。
それならば。
「私達の世界を渡るならば、貴女に祝福をさずけましょう。
ちっぽけなものですが、必ず貴女を救ってくださるはずです。」
いやいやいや!
まず少女の後ろには扉なんて無い。というか見えない。
これは透明だから見えないというのではない。恐らく扉があるだろうその眼前に、置いてあるのだ、それが。
「私の名はアルビレオ。女神見習いの、世界管理者です。」
そこには椅子があった。
巨大な背の金色に輝く椅子だ。まるで成金趣味満載、ギャグ漫画かよってくらい輝いている。神々しいから目が離せないのではない。
部屋のインテリアに、この空間に適さ無さすぎるのだ。
というか何処にも適さないだろあの椅子。
「救ってほしい世界の名は、〈クルアーン〉。貴女の世界の科学の代わりに、魔法が一般化した世界。」
その椅子に堂々と座る謎の男。
金髪ブロンド。まるで乙女ゲームの世界からやってきた王子系イケメンは最初からそこ座っていた。
てっきりこの空間の主人かこの少女の上司か神かと思ったが、少女の言い分を信用すると全くの無関係だろう。
いや本当にお前誰だよ。
「アカリさん。どうかもう一度お願いします。私達の世界を、クルアーンを、救ってください!」
少女が貴女の手をとる。
イケメンがワインを手に取る。
シリアスとギャグが交差する、混ぜるな危険の空間で貴女が口を開けたのはまさに奇跡だろう。思えばここが貴女の物語としての第1歩だったのかもしれない。
貴女は少女に後ろの人物のことを尋ねた。
「え、後ろの人?ここには誰もいませ…」
少女が振り向き固まる。
イケメンがウインクをする。
貴女は思考を放棄した。
「え、ほんとだれ????」
前途多難、まだ異世界に転移していないのにも関わらず。貴女は元の世界が恋しくなってた。
椅子に座った謎のイケメンのポーズはアルジュナ最終再臨を参考にしてください。