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私ではない私  作者: 竹下舞
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エピローグ

 奈菜は喫茶店を出たあと、図書館に向かいました。『エイプリル・マーチ』を読んでみようと思い立ったのです。それを手にとったのは六日前なので、場所は覚えています。しかし、その場所には『エイプリル・マーチ』はありませんでした。それどころか、ハーバート・クエインの作品は一冊もありませんでした。先週の土曜日には四冊ありましたが、この日には一冊もありませんでした。

 家に帰り、パソコンで〈ハーバート・クエイン エイプリル・マーチ〉と検索しました。レビューを読もうと思ったのです。しかしそれはなく、それどころか、ハーバート・クエインという作家はホルヘ・ルイス・ボルヘスの小説の中に登場する架空の作家であることがわかりました。

 奈菜はパソコンの前でしばらく考えました。

 六日前にはハーバート・クエインの本は図書館にありました。また、一ヵ月前に〈ハーバート・クエイン〉と検索したときには、ハーバート・クエインのおおまなか経歴が書かれているページがありましたし、大手販売サイトにはハーバート・クエインの本があり、いくつかのレビューが書かれていました。奈菜の記憶によれば、そうなのです。ハーバート・クエインは現実の作家として存在していたのです。しかし今ではそれらはなく、ハーバート・クエインは架空の作家として存在しているようです。

 どうなっているのでしょう? これは破綻でしょうか? それともトリックでしょうか? いえ、これは小説です。

付録


 ハーバート・クエインの小説に『エイプリル・マーチ(原題:April March)』というものがある。この小説はホルヘ・ルイス・ボルヘスの『ハーバート・クエインの作品の検討(原題:Examen de la obra de Herbert Quain)』という短編小説の中に出てくるものであり、ハーバート・クエインは架空の作家であり、よって『エイプリル・マーチ』も架空の小説である。当然ながら、私は読んだことがない。それでも『ハーバート・クエインの作品の検討』を読めば、『エイプリル・マーチ』の概要はわかる。それは次のようなものである。


『エイプリル・マーチ』は逆行・派生する小説であり、全13章で構成されている。

 第1章は、面識のない二人のプラットホームでの曖昧な会話である。

 第2章は、第1章の前日の出来事である。

 第3章も、第1章の前日の出来事であるが、第2章とは別の前日の出来事である。

 第4章も、第1章の前日の出来事であるが、第2章や第3章とは別の前日の出来事である。

 つまり、第1章の前日の出来事は、三つの前日に派生することになる。

 そして、それらの三つの前日は、第5章から第13章において、それぞれ三つの前日に派生し、全部で九つの物語が出来上がる。つまり「本日・前日・前々日」という物語が九つ出来るのである。(本日はすべて共通であり、前日は三パターンあり、前々日は九パターンある)


 以上が『エイプリル・マーチ』の概要である。

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