人間のクズ
翌日事態が急転する事など誰が予想出来ただろうか、勿論俺にも予想は出来ないかったのだけど…。
しっかり睡眠を取り体調も万全な状態で朝のストレッチをしていると ”コンコン” ノックの音がする朝早くから誰だろう?
”ガチャ” ドアを開けて見れば少し慌てた様子のクレアさんがいる、どうしたんだ?
「お早うクレアさん」
「おはようございますアスラ殿」
「朝早くから、どうかしたのか?少し慌てた様子だけど?」
「はい実は、薬の調達の為 使いに出した一団が帰って来たのです」
「あ〜素材の調達に出ていた者達だな…アレ?帰って来るの早くね?セシリアの話じゃ森を抜けるのに1カ月程掛かるって言っていたような気がするんだけど?」
「はい、アスラ殿が仰られる通りです」
「じゃあ病気か怪我で引き返して来たとか?魔物に襲われたのか?」
「いえ違います、実は――――」
クレアさんの話を詳しく聞けば、素材の調達の為 使いに出ていた一団が森を移動中、謎の集団に出会したそうだ。
その集団は敵意は無く、アマゾーン国へ向かう他国の使者だと使いのアマゾネス達に告げた様子…そして その他国の一団が使いのアマゾネス達に逆に何方へ向かわれるのか聞き、今現在国に謎の伝染病が蔓延している事を話 この場から立ち去るよう言い、自分達は薬の調達に出掛ける最中だと話す。
そして都合のいい事に その他国の一団には医術師、薬術師もおり、薬草なども大量に所持してる事を使いのアマゾネス達に告げ、アマゾーン国の危機に手助けしたいと進言する、このまま野放しにも出来ず他国一団を連れ一緒に帰って来たらしい…
「それってアレだろ、ランバー国だろ?どうせクズ王子も一緒にいてるとか?」
「アスラ殿の仰る通りです」
「それで今は?」
「この国の現状を何も知らず客間で寛いでいます」
「そうか!じゃあそのまま寛いでいてもらおう、今直ぐエロイナの所へ行くが構わないか?」
「フフ、エロイーナ様もアスラ殿の事をお待ちですよ」
「よし!早速行こう!面白くなってきたぞ」
◇ ◇ ◇
エロイの待っている部屋へ向かい、ランバー国の使者達をどうするか色々話し合う事に決めた。
「待っておったぞアスラ!」
「大体の話はクレアさんから聞いた」
「アスラ、奴らの目的は何だと思うかえ?」
「そりゃ目的は一つだろ?エロイナを自分のモノにしたいから、恩を売ろうとしているに決まっているだろ?」
「私もアスラ殿と同意見です。この国の民達を蝕む病気を治し、エロイーナ様を手に入れる腹積りだと思いますね」
「何とバカな奴らのじゃのぉ」
ほとほと呆れるのぅ
「面白いじゃないか、どんな出方をするか、その馬鹿面を見ようじゃないか」
「アスラ殿、どんな手筈で進めましょうか?」
「そうだなぁ〜エロイナには名演技をしてもらわないとな…クレアさんには他のアマゾネス達に今回の作戦の伝達を そして―――――――――――――」
そして、各自行動をどのように するかも綿密に打ち合わせを行った。
謁見には冒険者の護衛以外のみで行う予定、俺は一応エロイの後方で控えて様子でも伺いますかね。
決行は謁見からスタートだ!
◇ ◇ ◇
妾の目の前にランバー国のバカ共達がいるのぉ その中で一番のバカ面を不愉快極まりない者も紛れ込んどるのぉ アスラの考えた作戦を決行しようかえ。
「その方達 面を上げい」
何じゃ?つまらなそうな顔の者達よのぉ
「お久しぶりです、女帝エロイーナ殿」
「誰じゃお主は?」
「私ですよ、ランバー国の王子!スカムですよ!」
おー!二年振りに お会いする麗しき愛しき君!美しさに磨きがかかって私は幸せです!
キモ!バカじゃないのこいつ。
それにしてもクズ王子以外しれっとしてるね…何だろ?思考を読んで確かめるかな、何々ウンウン ホーホー成る程ね〜だからしれっとしてるのかエロイにも、コッソリ教えてやろう。
作戦変更もしないとな。
「して、ランバー国の王子とやら、妾の国に何用じゃ?」
「ハイ!何でもこの国に良からぬ病が蔓延していると聞き、エロイーナ殿をこの国の民達を救いに馳せ参じました!」
「なに!お主が妾の民達を助けてくれると申すかえ?」
「ハイ!私どもの一行に医術師も薬術師も、そして運が良い事に あらゆる薬草の数々を所持しております!存分にお使い下さい!」
さぁー愛しき君!私の胸の中へ飛び込んでおいで〜!
「なんと!お主は妾の元へ参った救世主!運命の人なのじゃな!」
「ハイ!その通りです!」
「…とでも言うと思ったかえ?バカバカしい」
「はへ?」
「妾の国には病人など一人もおらぬ」
「エッ?」
ザワザワ ザワザワ
「聞こえぬかえ?私の国には病人など一人もおらぬ!良からぬ病なども蔓延などしておらぬと言っておるのじゃ」
「ですが、この国へ案内をしてくれたアマゾネス達が感染病が蔓延していると」
「その者達は勘違いしておるのじゃ、良からぬ病が蔓延しないよう事前に薬に成る薬草を調達せよと、言う事をじゃ」
「そんなバカな……」
これでは私の計画が台無しじゃないか!あの下民め失敗したのかクソ!
いや そんな事は無い!あの使いの女どもは確かに病が蔓延しているとハッキリ言っていた、エロイーナの強がりだ!男に媚びない強がりだ!そうだ確かめなくては!
「バカは、お主じゃろう?用がないなら早々に立ち去れ!」
「エロイーナ殿!お待ち下さい!病人がいないと言う証拠を見せて下さい!」
「何を寝呆けた事を言うとるんじゃお主は?お主の周りを見てみるが良い、病気が蔓延して困っている顔をしておるかえ?」
「!…」
周りを見ればアマゾネスの兵士達は首を横に振り病人など居ないと言っている…嘘だ!絶対嘘だ!感染が広がらないよう何処かへ隔離しているに違いない!
おや?エロイーナの後ろで面をしている者が居る…こんな場所で面を?…もしや感染者、然も重要なポストだから側に居る…あの病気は肌に触れなければ感染らないからなフハハハハ!バレバレだよ愛しき君!
「エロイーナ殿!」
「何じゃ?」
「貴女の後ろで控えている仮面の主は何なのですか?もしや病気の感染者では?」
「仮面の主?バカな事をこの者は感染者などではないのじゃ」
「では証拠に仮面を外して姿を見せて下さい」
「それは出来ぬ相談じゃ」
「ではやはり感染者なのですね?必要以上に肌の出ないローブを纏い仮面の上からフードまでしている!」
「お主も諄いのぉ!この者は妾の国の大事な医術師じゃ」
「い、医術師?」
確かにそう言われれば白いローブを着用している…ははぁ〜仮面で医術師か〜こいつ病人を診ていて感染をしたな!それで仮面を着用しているんだな。
「イナリ!主の肌を見たいそうじゃ!見せてやれ!」
「はへ?」
肌を見せてやれ?か、感染者ではないのか?ローブを脱ぎだした!中に着ている服まで脱ぎだしている!まさか感染していないのか!
アレ?仮面の主…胸が無い!…まさかまさか!おとこ
「貴様!男だな!何故男がこの国の医術師をしている!どう言う事ですかエロイーナ殿!?」
「先程からギャーギャー煩い男よのぉ、この国の医術師が男で悪いと誰が決めたのかえ?」
「そ、それはアマゾネスが古くから伝わる仕来りじゃ…?」
クソ!仮面の男め、私のエロイーナを医術師と言う名目で近付いているのだな!
恐らくコイツが病の感染を防いでエロイーナに近づき恩を売ろうとして自分のモノにしようと企んでいるのに違い無い!
(それはお前だろ)
「しかしアマゾネスは古くからの仕来りを遵守していると聞きます!子を作る以外に男をこの国に、しかも医術師などと重要なポストに就けるなど!」
「古の風習などバカバカしい…いや確かに仕来りは大事よのぉ」
「そうでしょう」
「じゃがのぉ その仕来りで、この者は妾と決闘し女帝にしか無い古の仕来り、妾に触れる事が出来る仕来りを既に獲得しておるのぉ」
「なっ!バカな!嘘だ貴女はこの国最強の戦士!それを打ち負かす者など いる筈が無い!」
嘘だ!絶対嘘だ!どう見ても弱そうなコノ男にアマゾネス最強の戦士が負ける筈が無い!以前は油断した私でもこんな弱そうな男、私でも勝てる!
「嘘かどうかもう一度周りを見て見るが良いのぉ」
エロイーナが言うように周りのアマゾネス達を見る…な、何!全員が頷いているだと!嘘だ!絶対嘘だ!アマゾネス達と口裏を合わせているだけだ!
「嘘だ!」
「諄いのぉ 嘘かどうかコレを見るが良い!イナリ、妾の元へ」
「…はい」
エロイに言われ近づくと行き成り濃厚なキスをされましたよ!しかもベロチューだし……変に抵抗したらバレるので諦めよう、と言うか台本にない事するなよな!
ユーリアごめんなさい浮気じゃないです!これはあくまで演技です!
「なっ 貴様!私のエロイーナ殿に何をしているー!」
「妾がいつ お主のモノに成った?妾は既にイナリのモノじゃ」
「そんなの私が認めない!私がコノ仮面の男に勝てるならエロイーナ殿は私の妃に成って貰おう!」
「お主はバカなのかえ?」
「エロイナちょっといいか?」
「イナリどうかしたかえ?」
「コイツの話を聞いていたらドンドン話が逸れて行くんだ」
このクズ王子、病の治療に来たとか調子良い事を言ってたのに、今はエロイが欲しいと本音まで出てるし…どんだけバカなんだ?後ろで控えている家臣達もシラけて一切口を出す者もいないし、まぁそうだよな本当はコイツの家臣じゃないんだから。
「貴様!ランバー国王子の私にコイツとは、無礼だぞ!」
「そんなのどうでもいいんだよクズ王子、お前この国に一体何をしに来たんだ?病人の治療か?それとも女帝を自分のモノにしに来たのか?」
ハッ!「そ、それは!」
「お前との勝負位受けてやってもいいけど、その前に お前に見せたいモノがある」
「勝負を受けるのか!?それに見せたいモノとは?」
「クレアさん例のモノを!」
「イナリ殿承知しました」
例のモノとはブラッドの事。ブラッドを前にしてクズ王子がどんな反応をするか楽しみだね、それにしてもブラッド…相当ボコられたな、あの後 男達に謝罪を込めて自分から殴ってくれと言った見たいだけど…まぁそのかわり男達との蟠りも解れたようだけど…後でヒールしてやろう。
「おい!クズ王子」
「誰がクズ王子だ!私の名はスカム王子だ!」
何だ?拷問されたかのような者を連れてきて…?
「コイツの顔に見覚えがあるか?」
俯いているブラッドに顔を上げるよう指示しクズ王子に見せる。
「あっ!」
コ、コイツは病気を運ばせた下民の兵士
「コイツに見覚えあるだろ?」
「私は知らん」プイ
「おいブラッド、このクズ王子はお前の事を知らんらしいぞ?」
「そ、そんな…スカム王子!私ですブラッドです!」
「知らん知らん!こんな奴初めて見た、コイツが私と何の関係があるんだ?」
ヤバい!コイツとの関係がバレたら私の企てたモノがバレてしまう、あくまでシラを切り通してしまわなくては…
「じゃあ クズ王子、コイツとの約束はしていないのか?何でも身体の不自由な妹の治療費を出すとか」
「そんな約束などした覚えも無い!この男が一体何だと言うんだ!?」
「そう言う事だブラッド」
「そんな…妹の治療費を出して下さると言われたから、こんな嫌な命令も受けたのに…」
「因みにブラッド、その嫌な命令とは何だ?」
「はい、その命令とは、スカム王子の指示でこの国に入りこの国の民に病気を感染せとの命令です」
「なに!それは真かブラッドとやら!?妾の国に病気を撒き散らす指示を出したのじゃとー!」
「知らん!私は知らん!その男も知らん!そんな指示も出していない!」
「往生際の悪い奴だな…ハッキリ言ってここに居る全員が全てお前が企てた犯行だと解っているんだぜ」
「知らん!私は知らん!私は、この国に蔓延している病気を治しに来たんだ!」
ヤバいヤバい!このままでは!
「じゃからそんなモノもう無いと言うてるのにのぉ諄い奴じゃ!そのような感染病などイナリの手に掛かれば5日程で全て完治出来るのぉ、お主の連れて来た医術師、薬術師が如何に優れていようと5日で千人もの患者を治せるかえ?」
「えっ 5日で…千人…?」
ザワ ザワ ザワ
5日で千人とは、そんなバカな…
感染病が5日でしかも千人とな?
あのイナリとか言う男…
ザワ ザワ ザワ
「嘘だ!あの感染病が5日で然も千人もの人数を治せる者など神でも有るまいし無理に決まっている!現に我が国の優秀な医術師、薬術師も疑っているじゃ無いか!」
「疑り深い男じゃのぉ…仕方無い、クレア剣を!」
「ハ!」
エロイーナ様、剣をどうされるのですか?
「今からこの剣で妾の腕を切る!それをお主の優秀な医術師に治してもらうかのぉ」
「なっ!」
ザワ ザワ ザワ
「姫様!エロイーナ様!それはお止め下さい!自らの身体に傷を付ける事など!」
「しかしのぉクレア、このバカ者が幾ら言ってものぉ中々真実を言わぬし本当の真実を信じようとしないでのぉ」
「そこのクズ王子!早く真実を言いなさい!このままではエロイーナ様が本当に自分の身体に剣を突き立てしまわれる!早く真実を言いなさい!」
「知らん!真実もなにも私は知らん!そっちこそ5日で千人など嘘を言ってるじゃないか!」
「埒が明かないのぉ…仕方無いフン!」
我が愛しき君はそう言って一振りの剣で自らの腕を切った……ああああ!斬り落としたああああああああ!
キャー姫様!早く早く姫様に治療を!
キャー キャー エロイーナ様!
誰か!早く治療を!ザワ ザワ
「腕が落ちた位で騒ぐでない!!!」
「エロイーナ殿何て事を!今直ぐ医術師に治療させます!おい!早く回復魔法をエロイーナ殿に!」
っ!「はいっ!今直ぐに!」
「待て!その前にクレア!!!」
「ハッ!エロイーナ様!」
「落ちた妾の腕を燃やし尽くせ!!!」
「しっ、しかし!」
「構わぬ!やれっ!!!」
「ハッ!ファイアボール!」ボワッ!
な、何て事だ!我が愛しき君の腕が炎の中で燃え尽きてしまううううううううう!
「ス、スカム王子!あれでは傷は塞がりますが腕までは……!」
「さぁお主の国の優秀な医術師に妾を治療する事許そう…ハァハァ…早く治して欲しいのぉ…ハァハァ…でなければ妾は血が流れ落ちて死ぬのぉ…ハァハァ…」
「早く治療しなさい!貴方の医術師は優秀なのでしょう!早くエロイーナ様を!」
「スカム王子!私には無理です!無くなった腕事治す事など無理です!」
「無理かどうか早くしろ!このままではエロイーナ殿が出血死してしまわれる!」
やいのやいの ワーワー キャーキャー
「無理です!」
「やれ!」
「無理です!」
「やれ!」
「お前らいい加減にしろ!!!」
「貴様!仮面の男、貴様の嘘の成で貴様の嘘を庇ってエロイーナ殿が腕を無くされたのだぞ!」
「うっさいなぁ!お前もういいや!誰かコイツ縛り上げといて!ついでに口もふさいでくれ!」
さてと、うっさいクズは縛り上げられましたね、家臣達は大人しくそれを見ている。
しかし、エロイナ暴走し過ぎだって!こっそり止血程度にヒールはしたけど斬り落とした腕まで燃やしちゃうとか!ひくわ〜ホント女帝の血筋なのかね。
「エロイナ大丈夫か?無茶し過ぎじゃね?」
フラつくエロイナを抱えるように支えてやる…う〜わ〜血で白いローブが真っ赤じゃん!ひくわ〜マジひくわ〜
「誰よりも妾が信じる其方の事を否定されるのは癪なのじゃ」
「はいはい今直ぐ治してやるから次からは無茶するなよ」(ヒーリング)
私はランバー国 王家に仕える医術師、本当は王の命で無ければスカム王子などに仕えてアマゾーン国など来る筈ではなかったのだけど……。
いやそんな事は今はどうでもいい!私の目の前で起きている光景は真実なのだろうか?これがもし真実ならば……奇跡!?それとも神の所業……いや神がワザワザ悪戯を見せる為に降臨されたのか……そんなバカな……でも目の前で起きている事は事実だ!
女帝が乱心し自らの腕を斬り落としたと思っていたが彼、イナリと言う男を信頼してやった事なのだな。
しかし素晴らしい光景だ彼が彼女に触れた途端、無詠唱で見る見る腕が再生されていく…彼は一体何者なんだ?
「英雄イナリ…」




