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名付け親

今回の話はツッコミなしで読んで頂けたら有り難いです。

 お姫様とディープなキスの現場をお姫様の姉エリーゼに見られ慌てるようにワープし逃げだした俺は宿屋の一室で溜息を吐きながら部屋を出た、そこで一階がやけに騒がし事に気づき近くに居たルチハに尋ねた。


「ーーーー女将さんが出産間近なの!」

「マジか!」

 それにしては騒がしと言うか何か喧騒な雰囲気だ?騒がしのは一階のマスター達の住まいの一室だ、部屋の外にはルチハとシャル。二人を見ればオロオロして産まれてくる赤ちゃんを待ってるようだ?今現在は客はいない。

「ルチハ、産婆さんは、もう来てるのか?」

「うん」

「そうか」

 それにしても部屋の中からマスターの声と多分産婆さんの声が何か言い争ってる風に聞こえる。


 ガチャッ!バンッ!

 あ、マスターが出て来た。

「うああああ!どうしたらいいだああ!」

 え?マスター蹲って泣いてる?

「マスター!一体どうしたんだ!」

 ガシッ「あああぁにいじゃああん、俺は俺はどっじも えらべねえぇうう」

「え?」

 どっも選べない?

「マスターどう言う事だ?おいマスター!」

「うあああああ」

 ダメだ話にならん、混乱している。

「ルチハ、シャル!マスターを頼む」

「「うん」」


 泣き崩れてるマスターをルチハ達に任せ、女将さん達が居る一室へ飛び込んだ!中へ入れば出産中?の女将さん、産婆さん、マリーさん、ポアンさん、女将さんの手を握り泣いているニーナちゃん。


「マリーさんポアンさん!何があった?女将さんは?」

「アスラ君…」

「アスラ…」

「この若いのは何者じゃマリーや?」

「そんなのどうでもいい、婆さん産婆だろ?何があった?」

「逆子じゃよ」

「逆子?」

 逆子って、アレか?胎児が逆さまになる?

「トムには、予め最初に説明してたんじゃがの、こう言う事も有り得ると、そうなった場合、無理やり赤子を引きずり出して母体を助けるか、腹を裂いて赤子を助けるか、リスクは可成りあるがのトムには言うとったんじゃよ」

 マジか!何と原始的な…と言うか素人目からしても、どっちも危険じゃないのか?


「マリンお婆ちゃん、女将さんのお腹を切りながら〜回復魔法を掛けて子供を取りだせないの〜?」

「バカもん!お前は何年アタシの助手をしとるんじゃ!そんな事も分からんのかえ!」


 産婆さんが言うのも最も、そりゃそうだ切りながら回復しても傷が塞がるだけ、余計母体に負担が掛かるし胎児を取り出せない、逆に取り出すまで切り裂くなんて、暴れないよう無理矢理母体を押さえつけて…恐らくこの世界には麻酔なんてモノは無い、痛みと出血で母体自体持たない…


「マリン さん、私は どうなっても いいから 赤ちゃんを お願い します…」

「いやだああ おがあざあああんん」


 うわぁ見てられねー考えろ考えろ俺!仮に胎児を犠牲にした場合、俺のサイコセラピーで女将さんを癒せるか?答は多分NOだ、我が子を自分が生きる為に犠牲にするなんて俺には癒せる自信が無い…じゃあどうする?どうしたらいい?考えろ考えろ考えろ考えろ俺!

「おにいじあああん!おがあざあんをあがざあんをたずげでえええうあああん」


「せめて逆子が治れば何とかなるんじゃが今更むりじゃしな…」

「え!?」

 逆子が治れば……………!!!


「婆さん!逆子が治ればいいんだな?」

「若いの、今更無理じゃよ」

「無理かどうか、やってみないとわからん!ポアンさん、マスターを呼んで!」

「アスラ?マスター呼ぶ」タタ

「ニーナちゃん泣かないで、女将さんの手を握って励ますんだ!」

「う、うん」

「ア、アスラ さ ん、おね がい 赤ちゃんを おねが い」

「女将さん大丈夫!俺が絶対二人共助けるから俺を信じて!婆さん母体を見ててくれ」


 集中しろ!これ以上時間をかけ過ぎれば母体も胎児も持たん!神経を研ぎ澄ませ!(透視)見えた!胎児の状態を確認するんだ!女将さんのお腹に優しく手を当て胎児に負担が掛からないよう、念動でユックリと転がすように回して行く静かに優しく ゆっくりと、保険で女将さんにヒーリング、そして部屋全体にストレスが発生しないようサイコセラピー!続いて産婆の思考を出産時の手順を読み取る!クッ能力多重掛けは、結構負担掛かるぜ!

 一人だけ隔離されたような周りの音が掻き消えたような気分だ……

 このまま胎児を正規の向きに治しながら、臍の緒が首に絡まないよう、優しく ゆっくりと。


「婆さん、産まれるぞ!」

「何じゃと、若いの これは!」

 ゆっくりゆっくり頭を出しながら肩を少しずつ胎児のカラダを産ませる!

「う、産まれた!」「おにーじゃあん」

「き、奇跡じゃ!」「産まれたわー」

 ワー ワー キャー うまれたー ヤッター


 あれ?あれ?

「婆さん、泣かないぞ?」

「もしや肺に羊水が?」

 肺に羊水だと?産まれた赤ん坊の足を掴み逆さまに『吐きだせ!』ゴボッゴボッゴボ 『泣け!』『泣け!』クソ呼びかけても泣いてくれない。

 こうなったら、赤ん坊の尻へ思いっきり

(ヒールシッペ)叫ぶと同時に尻を叩く!

「『泣け!』」

 パァシィ――ン!

「ふぁ ふぁ ふぎぁぁあ」

「あ、泣いた…」

「良くやった、若いの」

「婆さん、後は頼む…」

 ダメだ、これ以上は気力が持たない…能力を使い過ぎた反動か…ルチハの肩を仮り自室のベッドへ崩れるように…ダメだ意識が……





 気が動転し、どっちも選択出来ない俺は部屋を飛び出し泣き崩れていた、暫くしてポアンが急いで部屋へ戻るように言ってきた。

 まさか最悪の事態ではと思い急ぎ部屋へ入ると、いつの間にか にいちゃんがそこへ居た。ウチのカミさんの腹に手を当て何かブツブツ呟いている。ポアンに促されカミさんの手を握り励ましながら、その時の状況を見ていた。

 そう奇跡の瞬間をだ!俺は忘れていた、一度俺に俺の家族に齎してくれた奇跡を、にいちゃんなら必ず二度目の奇跡を齎してくれると信じ願っていると…産まれた…産まれたぞ、にいちゃん本当にありがとう…にいちゃん、あんたは一体…




 お兄ちゃん(伝説の賢者様)が来てくれた!ニーナは知っているもん、お兄ちゃんなら必ず、お母さんと赤ちゃんを助けてくれるって!お兄ちゃんが、お母さんの お腹に手を当てた瞬間、お兄ちゃんも お腹も光ってる!お母さんを見れば、さっきまで苦しそうにしてたのに今は笑顔で微笑んでいる、そして産まれた!ニーナの()が産まれた!お兄ちゃん(伝説の賢者様)ありがとう。




 ◇ ◇ ◇


「マリー、あの若いのは一体何者なんだい?アタシは長い事、産婆をしているが、あんなの見た事ないよ、お腹に手を添えて逆子を治し、そのまま苦もなく出産させるなんてね」

「彼はね〜アスラ君って言うの〜」

「バカもん!名前など聞いておらん、アタシは何者かと聞いておるんだよ」

「アスラはアスラ!」

「ポアンも見たじゃろ?あんなの奇跡としか言いようがないんじゃよ」

「マリンお婆ちゃん、誰にも言わないと約束してね〜彼が今噂されている、伝説の賢者なの〜本人は違うと言っているけどね〜」

「では、トムの足を治したのも…」

「そう彼よ〜でも、この事は内緒にしてね〜」

 ほう、あの子が巷で噂になってる賢者かい、面白いモノを見つけたわい。




 ◇ ◇ ◇


 目を覚まし辺りを見回す、そして記憶を辿る…産まれた後、婆さんに任せて自室に戻り、あの後気を失ったのか…昨日から続く精神的なストレスと能力の多重掛け…修行の成果なしだな…ハハ…もう一度修行のやり直しをしないとダメだな。

 薄々は気づいていたけど自分自身にサイコセラピーって効かないだな…

「グゥ〜」そうか昼から何も食べてないし今は辺りが薄暗いから夕飯時かな?

 下で飯でも食べよう、そうしよう。


 一階へ下りると昼とは違う賑やかさがある。そして何故か注目され…

「にいちゃん、やっと起きたか!にいちゃんのお陰でカミさんも赤ん坊も無事元気だぜ!ありがとうよ、ううう」

「お兄ちゃん!体は大丈夫?」

「あー、ルチハもう大丈夫だ。慣れない事をして少し疲れたんだ」

 マスター今日は泣きすぎだな…


「アスラさん、本当にありがとうございます。この子を生きて抱けるなんて、アスラさんのお陰です」

「あれ、女将さんもう起きても大丈夫なのか?」

「ええ、出産後何故か身体の調子が良くて起きても平気だったの、アスラさんが私に不思議な魔法でもかけたんでしょ?フフ」

「にいちゃん、飯もいっぱい作ってるから食べてくれ、ニーナ、嬢ちゃん達運ぶの任せたぜ」

「「「は〜い」」」

「アスラく〜ん、お疲れ様」

「アスラ席へ着く!」


 そして席へ促され、周りをよく見れば「疾風の剣」のメンバーも揃ってる。

 他には宿の客らしい人達、皆さん 女将さんの出産を喜び騒いでいるな、俺も運ばれて来た料理を食べることに専念しよう。

 今日の料理はビュッフェ形式、俺は疲れているので立食しないで椅子に座り黙々と食べる、うまいな〜と呟いているとバカとボブさんがやって来た。


「ようアスラ、久しぶりだな、あん」

「あー久しぶり」

「アスラ君、義姉さん達を助けてくれて、ありがとう」

「偶々その場に居合わせただけさ」

 少し疲れていたのでバカとボブさんには簡単な挨拶程度の話しをし終え、再度食事!暫くして今度は赤ちゃんを抱いて、女将さんがやって来た。


「アスラさん、大事な話しがあるのだけど」

「え、大事な話し?」

 何だろ能力の事かな?

「アスラさん、この子の名付け親になってもらえないかしら?」

「え、名前を?」

 女将さんの名付け親の一言で戸惑っていると、ワラワラ皆んなが俺と女将さんを囲むように集まって来た。


「にいちゃんは、この子の恩人だからな名前を付けてくれ」ニコニコ

「お兄ちゃん、早くニーナの弟に名前付けて」ニコニコ

「アシュラにぃちゃん、どんな名前つけるのー?」ワクワク

「シャル、お兄ちゃんの事だから、とてもいい名前だよ」ワクワク

「アスラ君が名付け親なのね、どんな名前かしら?楽しみだわ〜」

「アスラ、早く!名前付ける!」

「あん、まだか?」

「そうか、アスラ君は俺の甥っ子の名付け親になるんだな」


 うぁ〜皆さん好き勝手言ってくれてるよ、自慢じゃないけど、俺ってネーミングセンスないんだよな…どうしよう漫画とかアニメのキャラ名とかでもイイのかな?どんな名前にしようかな?


「お兄ちゃんと一緒の名前は?」

「ニーナちゃん流石にそれはマズイだろ…う〜ん」

「アスラさん、貴方が付ける名前です。私は、どんな名前でも文句は言いませんよフフ」

「にいちゃん頼むわ」

「女将さん、マスター…どんな名前でも文句言わないでくれよ、じゃあ」


 うわぁ〜スゲー注目されてる…


「この子の名前は!『ヤマト』ヤマトだ!」

 え、メチャ静かなんですけど、マズったのか?


「ヤマトね、いい名前だわ!アスラさんありがとうございます」

「そうか、この子はヤマトか!にいちゃん良い名前ありがとうな」

「わ〜!ニーナの弟ヤマトだ!」

「ヤマト!カックイイなまえー!」

()()()()()だよ、シャル。ヤマト君かぁイイ名前だね、お兄ちゃん」

「ヤマトか〜中々イイ響きの名前ね〜」

「ヤマト、うんイイ!」

 ヤマトか〜 いい名前ね〜

 初めて聞く名前だな〜

 男らしい名だ! 初めましてヤマトくん!


 新しい生命の誕生に、この後も皆さん大いに盛り上がり騒いでいました。

 女将さんに『ヤマト』を抱いてくれと言われたけど、いきなり新生児は抱く勇気がないので丁重にお断りしました。


 なに?いきなり足掴んで尻、叩いてただって?そんなの知りません!


 色々と皆さん、あーだこーだ言ってるけど結局のところ良い名前が全然思いつかなかったのは内緒です。








「シャル、ルチハは?」

「マスターと、ねーちゃんと一緒にあとかたずけー!」

「そうか、じゃあ先に寝るかー!」

「アシュラにぃ、一緒にねていい?」

「あーいいぞ、シャルお休み〜」

「……………アシュラにぃ、ねた?」

「ん、なんだシャル?」

「きのうより、いっぱい匂いしてるよ。アシュラにぃおやすみー!」







「………………………」

 マジか!

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