誘惑
"ガタンゴトン"
俺は今現在、馬車に揺られて次の目的地に向かっている。
俺が何故馬車に揺られて次の目的地に向かっているかというと一応は、ランバー国での出来事が全て終わったからだ。因みにマナミは俺の膝の上でスヤスヤと寝ている……いつもの調子でお約束どおりだ。
いま思うとこの短期間の間に色々な出来事があったな〜っと、しみじみ思いかえす。
風の噂で王様の容態が悪いのから始まりスカムの悪霊退治、一人の女の子の依頼で行方不明の兄の捜索。そして冒険者ギルドでギルマスの指名依頼で貴族のお嬢様に発病した謎スキル(サトリ・サトラレ)治療。
結局、クリスのスキル(サトリ・サトラレ)を治療(封印)するのに一週間ほどかかったし。
まぁ、なんとか封印に成功して安堵したんだけど……その後に厄介な出来事に巻き込まれて……。
その厄介な出来事というのが、クリスが、サトリ・サトラレ発病して以来、治療が終わるまでの間、屋敷の外へ一歩も出て居なかったことだ。
やっとの思いで外出出来る様になったんだから羽目ははずれるよな。
一応は執事のバトラーさんと付き添いの侍女さんと一緒に王都へ出掛けたんだが……バトラーさんと侍女が一瞬目を離した隙に攫われて誘拐された事件が勃発したんだよ。
急を要する事態、迅速な対応という事でバトラーさんも知人でもある冒険者ギルドのギルマスに頼ったわけ。あてもなく闇雲に動くよりギルマスに頼った方が解決の目処が早いと判断したわけだ。
まぁ時間を掛けるだけクリスの行方が分からなくなるしね。
偶々ギルマスとの雑談中に居合わせた俺にもクリス救出に駆り出されたんだけど、流石になんの手掛かりもない状態で、俺一人でクリス救出の依頼を達成出来るとは思えなかったから、ギルド内に居る冒険者達も巻き込んでやろうと思ったんだが、ギルマスから待ったがかかった。
ギルマス曰く貴族の令嬢が誘拐され、それが公になれば、その令嬢の今後の将来(縁談)などに関わるとか。
まぁ落ち着いて考えたらそうだよな。その時に何も無いと言い張っても、傷モノになってると誤解されるだろうし。まして噂ってこっちが思ってるより、おヒレが付くからね。
とりあえずクリス救出の依頼を公にしない形で受けることにした。
でもやっぱ一人じゃ限界があるのでギルマスとバトラーさんの承諾を得て、愚連隊も巻き込む事に決定!
だってさ、運良くギルドに居るんだからコイツらを使わない手はない。この件に関しては一切口外しないのを条件に。まぁエイミーも一応は貴族なので理解ははやかった。
俺たちはバトラーさんの案内のもとクリスが行方不明になった辺りの捜索から始まった。
バトラーさんと愚連隊には周辺の聞き込み調査、俺は単独でクリスが居なくなったなっ辺りの調査。
なにかクリスが身に付けていたような都合の良い物も落ちているわけはなかった。落ちてたらサイコメトリーの活躍だったんだけど、世の中そんなに甘くないのが理解できたよ。
仕方がないので周辺の、然も怪しそうな奴に近づき思考を読むことに。確か……結果的に二十人目くらいでビンゴしたような記憶が……。
まぁクリスを攫った奴の手掛かりさえ手に入れたら早いもんだぜ。
早速、散らばってるメンバーを集め、各々の役割分担を決め、誘拐犯のアジトへ潜入!!
――無事クリスを救出する事に成功!!
クリスの所在さえ分かれば助け出して暴れるだけだからね。俺の能力を使えば無傷で誘拐されたクリスを救出するのは、さほど難しくはなかった。
問題はというと、クリスを誘拐した理由だ。金品目当てで貴族の令嬢を誘拐したのかというと、そうではなかった。どこで情報が漏れていたのは分からなかったけど、クリスのスキル(サトリ・サトラレ)が誘拐目的だったようだ。もう無いけど…
クリス誘拐の実行犯であるボスの思考にそんなことがあった。この実行犯であるボスは闇ギルドに在籍しておりランバー国でのギルマス?まぁ支部のボス的な存在だ。
支部って言っても正規な組合じゃないからね。所謂悪の組織って、ゆーヤツだ。
話は戻すけどクリスを誘拐し、他国の有力者に売り渡す計画を練っていたようだが、運が良いことに、この計画は他の各支部には情報が行ってない。自らの手柄で私服を肥やそうとしたんだね。悪党って欲深いから。
なにわともあれクリス救出を優先したんだけど、こいつらのアジトには犯罪者をわんさか囲っているし、地下にもクリス以外に攫われている者も多数居たんだ。
まぁお約束どおり暴れたよ。
クリスの件も無事に終わり次に起きた出来事は、以前デネブ村でゴブリンに襲われて助けた娘達のことだ。
俺が早朝に冒険者ギルドに行き、簡単な依頼でも受けようと思っている時に彼女達が現れた。
なんでも冒険者になる為に村を出てきたとか……?
詳しく話を聞けば自分達のようにゴブリンとかの被害に遭った人達を助けたい、そして被害を増やしたくないということだ。
「なるほど……それで俺を頼って来たわけか……」
「「「「はい!」」」」
そんな感じで、その日から彼女達に修行をつけることに。別に断る理由もなかったし俺の心の中でふつふつと悪い虫が騒ぎだす……この世界初?の◯ブリン・○レイヤーを誕生させられるんじゃないかとワクワクしちゃったよ。
話を聞きつけた愚連隊のメンバーもサポートとして協力してくれたおかげで彼女達の実力も日を追うごとにメキメキとついていった。
最近やたらと俺に絡んで来る愚連隊だからさ彼女達とも知らない仲でもないし、女性だけのメンバーだからリーンとエイミーとか女性メンバーが居るのは心強い面もあったからね。
正直、愚連隊がサポートしてくれたおかげでホント助かったよ。俺も多少の実戦とか助力できるけど、冒険者としての、心構えとか常識とかはいまいち知らないからね。
ゲームでの知識や常識は、この世界で通用するものと通用しないものがあるからね。
*この時、アスラは知らなかったが、のちに彼女達はクランを設立し、主にゴブリンやオークなどを専門にした殺戮者となるのだった。
とりあえず、彼女達と幾度かギルドでの依頼などをこなしているうちに待ちに待った王様との約束(報酬)の品が揃ったようなので、王宮に行くことになった。
今回も前回同様、いやそれ以上に報酬の数が凄い!!
思わず、これって店でも開けれるんじゃないかと思うほどの数量だ。あまりにも凄い量なので、思わず幾らか払うと王様に告げたところ、お金は要らないと言われた。
その代わり俺がいま持っているコーシーをいくらか分けて欲しいとのことらしい。
以前王様にコーシーを振る舞った際、いたく感心して気に入ったみたい。いくらか王様にコーシーを渡し、次回ランバー国へ訪れた際は大量に仕入れて持って来ると約束した。
これはあれだな……一度コーシーファームに顔を出して直接仕入れる方が良いな。あのあとのコーシーファームがどうなったかも少し気になるし、ルチハとシャルも連れて一緒に行こうかな。
そんなこんなでランバー国では色々とあって、ようやく帰路へ。
と、言いたいところだけどヴァルトリアへ帰れない事情ができたんだよな。
クリスのスキル(サトリ・サトラレ)を発動しないように封印できたのは良かったんだけど……アンチ・サイの使いすぎで、俺の能力の一部にも弊害がでたんだよなこれが。
まえにもそういう事があったから、しばらくしたら元の状態にはもどると思うんだけど、いつ?もどるのやら。
つーことで、瞬間移動も使えない状態なので、一気にヴァルトリアへとべなくなっちゃったんだよ。
まぁ〜しょうがないや。
今現在使える能力は、飛行は出来ないけど簡単な念動……あとはキネシス系が少々、テレパシーは思考は読めても(範囲限定)念話が出来ない、あと……一応は瞬間移動も使えるには使えるけど目に見える範囲での移動しか出来ない。
傍から見ればスキルの縮地みたいな感じかな?
みたいと言っても今使える瞬間移動はスキルの縮地ほど劣化版じゃない。スキルの縮地は直線上での移動で移動中に突如障害物が発生した場合、それに激突する。
俺の現在使える瞬間移動は目視できれば余程強力な結界のような障壁じゃない限り擦り抜けて目的地に到着出来る高性能だ。縮地を使える人に聞かれたら怒られるから言わないけど。
まぁそれは置いといて一番助かったのはヒーリング系がアンチ・サイの影響を受けずに使えることかな。それと透視は出来なくなったけど千里眼の方は竜眼の方だけ使用可能、その他の能力は追々確認してみないと今はなんとも言えない。
まぁ〜悩んでもしょーがないや。
そして俺が向かう先は冒険者ギルドのギルマスであるグレイさんの勧め先へ。
ギルマスから冒険者ランクをギルマス権限でDランクからCランクへ引き上げてもらった時に、この話を聞いたからだ。
本当は寄り道せずに真っ直ぐルチハ達の居るヴァルトリアに帰りたかったんだけど、グレイさんの勧め先がなんと!迷宮都市らしい。
そんなの聞いたらもう行くしかないよね。だってダンジョンだよ迷宮だよ!以前潜り込んだなんちゃってダンジョンじゃないんだよ本物のダンジョンだよ。
ゴメン!ルチハ、シャルそしてヴォルフ。悪いお兄ちゃんを許してください。
お兄ちゃんはダンジョンを満喫して帰って来ます。
帰りたいのに帰れないアスラに迷宮という魅惑な誘惑が囁いたのであった。
これにて第六章は終わります。
私事の事情により投稿ができませんでした。
不定期投稿になりますが、読んで頂けたら幸いです。