テレパス(テレパシー)
扉の鍵が開いたので、お嬢様の部屋へ。
バトラーさんも一緒にお嬢様の部屋へ入ると思ったが、何卒お嬢様を宜しくお願いします。と一礼して、入室は俺だけに……淑女の部屋に俺だけを残していいのか?別に悪さはしないけど。まぁ信用されているという事にしておこう。
中に入れば広々としたリビング。その奥の方にお嬢様がこちらを伺っている。
「そこからこちらには来ないで下さい」
「えっ!?」
一歩足を踏み出そうとした瞬間、睨まれるようにそう言われた。
「……お話は離れていても十分聞き取れます」
「……」
なるほど、お嬢様と俺の距離は凡そ10メートル。お嬢様のテレパス発動範囲が半径10メートル程なんだろう。多分
「え〜初めましてイナリと申します」
とりあえず挨拶はしとかないとな。
「……私はクリスティーナ・ドゥ・ラント……お父様からどのように話を伺ったのかは知りません。ですのでこのままお引き取り下さい」
もうこれ以上誰も不快にさせたくありません。
「いやいや、そーゆー訳にもいかないじゃん。一応お嬢様の病気を親父さんから治してほしいって依頼された訳だしさ」
会っていきなり帰れかよ!ちょっと手厳しじゃねーの?せめて話くらいはしようよ
「私は病人ではありません」
私の目の前に居られる方が噂に聞く英雄イナリ。どのような傷も病も癒してしまう……そうだったとしても、私のこの苦悩を……
「あ〜ゴメンゴメン。病気でもないし病人でもなかったな。ただ人の考えが読めるだけだったかな。まぁ〜そんな事で、いちいち悩んでも仕方ないじゃん」
「なっ!貴方に私の気持ちが!私の何が分かりますか!どれほど悩み苦しみ私に関わる方を不快にさせたと思っているのか……」
その後の私に対する態度は……私に向ける奇異な眼……私を気味悪がって誰一人として……
「じゃあさ、一度俺の考えてるコトを当ててみてくれるか?別に俺はそんな事で、いちいち気味悪がらないからさ」
そう言って俺は一歩二歩とお嬢様に近づいていった。ホ〜一応そうだと思ったけど、近づくにつれて、お嬢様の念話がガンガン伝わってきてるよ。
人の思考を読み、念話まで使える。まさしくテレパシー。そりゃ皆んなに気味悪がられれよね
「やめて下さい!それ以上こちらに近づけばっ!」
やめて!どうかどうか!これ以上人の心を読み続ければ、私は、私は誰一人信じられなくなる!
「さぁ俺の思考を読んでみてくれ。感想は、その後でいいからさ」
彼はそう言って一歩二歩と私に近づき自分の思考を読めと言っている。そんなに心を覗いてほしいなら幾らでも覗いてあげるわ!
……アレ?この人の思考が流れ込んで来ない!?どうして?
「えっ…私…治ったの?」
「残念ながら未だ治ってないよ」
「えっ!でも貴方の考えている事が私には一向に伝わって来ません」
「ハハ、それはそうでしょう。お嬢様程度の力じゃあ俺の思考は読めないぜ」フフン
「えっ!?」
この方は何を言っておられるの?私程度の力とは?
「俺と少しは話をする気になったかな?」
「教えて下さい。貴方が何を知っておられるのかをっ!」
「じゃあ話すぜ。ちょっと理解し難いけどさ、まぁ落ち着いて聞いてくれ。まず、お嬢様の奇病と言われいるものは病気とか呪いの類いじゃなく、スキルだぜ」
「えっ!でもお父様がスキルでは無いと!?」
そう、お父様が言っておられたわ。どのようなスキルも魔力を使うと……でも私のコレは……
「え〜っと、お嬢様の親父さんが言ってたスキルって、魔力を消費するスキルの事だろ?信じられないかもしれないけど、このスキルは魔力を一切使わないスキルなんだ。その名も【テレパシー】ってスキルさ。簡単に説明すれば人の思考を読み、心の中で相手と念話で話せるスキル」
「魔力を一切使わないスキル?テレパシー……?でもどうしてそれを?それに貴方の考えている事が私に全く読めないのは……?」
この方は先ほどから一体何を?
「それは俺もお嬢様と一緒でテレパシーが使えるからだぜ」
「えっ!?」
「俺の思考が読めない理由は簡単な事さ。お嬢様より俺の方が能力者として上位者ってところかな?自分の保有している能力より相手の能力が上なら、負けるって理解してくれたら分かり易いかも」
ぶっちゃけ、お嬢様は俺より格下ってとこだろう。
「英雄イナリ様!!もっと詳しくお聞かせ下さい!」
さっきまで、お引き取り下さいとか、近づかないでとか言ってたのに急に態度変わって話を聞かせてくれって!まぁ別に話はするけどさぁ〜英雄イナリ様は、やめてほしいな。
なんとか英雄は、勘弁してもらい俺の呼び名がイナリ先生におさまった。イナリ先生は以前から何度も呼ばれてたから余り抵抗がない。そして逆にお嬢様からも、お嬢様はやめてほしいと頼まれたので、そのままクリスと呼ぶ事になった。
クリスにテレパシーは超能力(E・S・P)の極一部の能力であり、更に詳しくテレパシーとはどのような能力なのかを伝えた。
俺の考えでは自分の知らない未知なる能力とは、どんなものなのかを理解し、どう向き合い操作すれば制御出来るのかを伝えたかった。そうすることにより、暴走状態を回避し、自在に操れるのではないかと思ったからだ。
「クリス。今の説明で理解できたか?分からない事があれば質問してくれていいからさ」
「はい…イナリ先生の仰る事は理解出来るのですが、理解は出来ても私には未だ納得出来ません。イナリ先生が仰られたように本当に制御が出来るのか……」
「まーまーそんなに焦る事はないぜ。ちゃんと理解すれば何とかなるさ。それに超能力は念力とも言われ、心で念じる力なんだ。自分を疑わず純粋に心で強く念じる事が一番大事なのさ」
「心で念じる力……」
「試しにクリスの思考を俺が読み取ってみようか?いくら偉そうに講釈垂れても、その場しのぎの都合の良い奴と思われても仕方ないしな」
「いえ、私はイナリ先生を疑っておりません」
とは言え、本当にイナリ先生も私のように人の考えている事が分かるのでしょうか……
「疑ってないって言ってる側から疑ってるじゃん」
「ごめんなさい」
「とは言っても、今のクリスの考えている事が無意識のうちにダダ漏れだから思考を読む以前の問題だよな。ちょっと離れてみるな」
俺はクリスのテレパシー発動範囲である半径10メートルより外れ、クリスの今考えている事を当ててみることにした。
「クリスー!なんでもいいから思い描いてみてくれ」
「ハイ!」
そう仰られても急に思い描くことなど……何が良いのでしょう?ん〜私の気になった事を想像してみましょう。狐のお面を外したイナリ先生の素顔はどのような容姿をしておられるのでしょうか?
「なんだ俺の素顔が気になるのか!」
「えっ!?」
これだけ離れているにも関わらず私の考えている事が!本当に私以外にも人の思考が読める方が居られるのですね。
「多分他にも居るんじゃないか?」
俺はクリスに近づき狐面を外してそう言った。
「えっ!えっ!イナリ先生!!お面を外しても良いのですか!?」
「イイよ面倒だし。やっぱ人と話をする時は相手の目を見て話をする方が良いしな」
「イナリ先生が良いのでしたら……」
イナリ先生の素顔。精悍な顔立ち…思った以上にお若いのですね。
「クリス」
「あっハイ!」
「ちょっとステータスを覗くな」
「ハイどうぞ。ご覧になって下さい」
イナリ先生は鑑定も出来るのですね
さてと、顔合わせした時にシレッとステータスをみた時とテレパシーを理解した現状のクリスのステータスはと再度確認。
【名前】*クリスティーナ・ドゥ・ラント
【年齢】*14歳
【種族】*人族
【レベル】*9
【体力】*230
【魔力】*1600
【スキル】*火属性魔法中位・風属性魔法下位・水属性魔法中位・木属性魔法下位・***(解放状態)・****(解放状態)
ん〜恐らく星印(*)がスキルだよね?最初に見た時は、確かに状態異常になってたけど、現在は解放状態に変化している。
しかし…スキルはテレパシーのはずなんだけど、よく見れば読み取れないスキルが二つあるよね?最初に見た時、そこまで注意深く見てなかったな…
しかし一体どーゆーコト?二つ共、解放状態って何なの?
ん〜悩んでも仕方ないよね。ここは諦めず集中して、星印(*)が何なのか読み取ってみよう。
ジー………………………サ**
ジー………………………サト*
ジー………………………サトリ
ん?読み取れたけど…サトリ?何これ?まぁイイや!もうひとつのスキルは何だろ?
ジー……………………サ***
ジー……………………サト**
ジー……………………サトラ*
ジー……………………サトラレ
んん?サトラレ!!!!!!………………コレって、もしかして……サトリとサトラレ!!
マジかよ。クリスに超能力は心で念じる力とか言ってたけど、念じる以前の問題じゃん!そりゃサトリとサトラレじゃ解放状態で間違いないっつーの!
確かにサトリとサトラレもテレパスの一種だと思うけど、どちらかというと異能系寄りだよね?
どちらかひとつのスキルでも厄介だけど、まさか両方芽生えちゃうとか、悪意を感じちゃうねコレは!
しかもサトリもサトラレも自分の意思でコントロール出来ないと言うし。
まだ救いなのはクリスの発動範囲が小さいってトコと俺のテレパスより力が弱いってコトかな、俺は両方とも拒否できるからね。
さてと、クリスになんて説明しようか?
厄介な依頼に巻き込まれたアスラ。
もちろんアスラはサトリ、サトラレの知識は漫画とドラマでしか持ち合わせていないようだ。
クリスティーナの苦悩を救う事が出来るのであろうか?次回に続く。




