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イナリ物件

 一夜明け俺は冒険者ギルドに向かった。


 ギルドへ入るなり少し視線が気になるが、まぁ時間も経てば俺に向けられる視線も無くなるだろう。


 少し寝坊してしまったのもあり既に掲示板には様々な依頼が貼り出されている。ちょっと調子に乗りすぎて昨夜は騒ぎすぎたかな?紅蓮隊とファミーユパーティーの姿は見えないな……

 まぁファミーユパーティーは、そんなに酔っ払ってなかったけど……紅蓮隊はかなりの勢いで出来上がっていたからね〜今日は二日酔いでダウンしてるだろうな。多分


 さてと、俺のランクに見合った依頼はと――


「ちょいとあんた」

「ん?」

 聞き覚えのある声に振り返ればキャッシーさんが俺のことを呼んでいる?


「あ、キャッシーさんおはよー」

「はい、おはようさん。あんたを待ってたんだよ」

「俺を?」

 一瞬、はて?何のことだろうと考えていたら。

「わたしの後を付いといで」

「はぁ…?」

 キャッシーさんにそう言われ付いて行けば、二階にあるギルマスの部屋まで案内された。


「じゃあね、わたしは業務に戻るから、あとはマスターに詳しく聞いておくれ」


 そう言い残しキャッシーさんは受付の業務に戻ってしまい、俺はギルマスの部屋に一人残された。


「立ち話も何だから席にかけたまえ」

「はぁ…」

「紹介が遅れたね、私はランバー国王都支部冒険者ギルドを任されているグレイ。君はDランク冒険者のアスラ君だね、それともイナリ君と呼べば良いのかな?」

「えっ!?」

 何故それを?って、犯人はリーダー達、紅蓮隊しか見当たらない!ファミーユさんは何となくだけど口が固そうだから


「心配しなくても、リップス達もファミーユ達も、君がイナリ君だと誰一人喋っていないよ」

「えっ!?」

 じゃあ誰が喋ったんだ?アルフ達?いやそれはないだろう。


「昨日のくだんを彼等に詳しく聞いていたところ、本人は気付かず君が治療をした経緯をポロッと口にしてね。まあ私個人の推測だよ。で、君は()のDランク冒険者アスラ君かい?それとも」

「いやもういいよ。いずれバレるのも時間の問題だし、アンタが言うようにイナリで間違いない。アンタもどうせ俺がイナリだと確信してるんだろ?」

 誰だ?口が軽いのは……

「フフそれは良かった。私の推測通りだ」

「……」

 何が良かったんだ?結局俺を呼びつけた理由は何だ。思考を読むか?いやヤメとこ、直接聞こ。


「で、俺に何の用だ?昨日の一件の事情聴取か?昨日の件は紅蓮隊とファミーユさんが説明してるはずだぜ?証拠の品もギルドに預けてるはずだし」

「ふむ、昨日の件はある程度リップスに聞いて納得しているよ。彼等が嘘を吐く理由もないからね」

「じゃあ何で俺が呼び出されたんだ?」

「ふむ、君は確かランクを上げる為に依頼を受けていると聞いてね」

「まぁ確かに紅蓮のメンバーにはそう話したけど」

 そーいえばそんなこと帰りの馬車で質問されたからリーダーに話したな


「そこでだ。リップスの証言もあり、昨日の君の活躍に応えて、君のランクを上げようと呼び出した訳だ。それで納得してくれたかい?」

「ほ〜ランクをねー。それは凄く有り難い……」

「そうだろう」

「で、本音は何だ?ただ単にゴブリンの群れを潰したくらいでランクを上げるなんて、虫が良すぎるだろ?」

「フフ、流石イナリ君、察しがいいね」

「あのな、イナリはやめてくれ」

「これは失礼した。折り入ってアスラ君に相談……依頼を頼みたくてね、ここへ来てもらったのだよ」

「依頼?Dランクの俺に?いや違うな」

 どうせイナリ物件だな

「フフ、本当に君は察しがいいね。アスラ君にお願いしたい依頼とは、ある人物の治療をしてもらいたいのだよ」

「ある人物の治療?」

 イナリ物件の治療じゃあ恐らく何らかの病とか四肢の欠損かな?


「私のね古くからの知人の息女、彼女の治療を頼みたいのだよ」

「知人の息女?で、その息女の今の症状はどんな具合なんだ?」

「私も知人から“奇病”とだけしか聞かされていないのだよ――」


 ギルマスの話では、前回の偽イナリとの回復勝負をその知人がのちに聞き付け、イナリを捜していただという。まぁあのあと直ぐにランバー国を発ったから捜しても見つからなかったようだけど。

 ギルマスも見つかり次第その知人に俺を連れて来るように頼まれたんだな。


 しかし奇病って何だ?難病とか不治の病じゃないの?んー…めちゃ気になるんだけど、俺にその奇病が治せるのか?少し不安になるって!しかし気になるなぁ〜どんな奇病なんだろ?


「まぁ事情は大体分かった」

「では依頼を受けてくれるのだね?」

「まぁ受けてもいいけど……はっきり言って治せるかどうかは今の状況じゃ判断できないし保証もできないぜ?それでも良いなら構わないけど」

「ふむ、それは私から直接知人に説明しておこう。ところでアスラ君、今日の予定はどうなんだい?」

「別に下での依頼を受けてないから空いてるぜ」

「では今から私と同行願えるかな?」

「ん〜まぁ構わないぜ」


 ギルマスからの依頼を承諾し、その知人とやらの所へギルマスと一緒に行く事になった。

 ギルマスと一緒に部屋から出て来るもんだから、他の冒険者達からの更なる視線とヒソヒソ話の対象になる羽目に……俺は普通に依頼をこなしてランクを上げたいだけなのに!はぁ…今日もため息しか出ねーや。


 そしてもうひとつ考えが甘かった。知人とやらの所が徒歩で行けるような場所にあると思ったら、アラまーなんと!馬車に乗せられ走ること半日(多分)……着いた先は、どこぞの貴族の大邸宅だった。

 しかも門らしき所からこの邸宅に来るまで何十分馬車に揺られてたのやら……そんなの聞いてねーよ。


 馬車から降りれば目の前にズラーッと執事らしい人とメイドさんが整列して出迎えてくれている。


「グレイ様お待ちしておりました」

「バトラー久しいな」


 えっ!?あの執事さんの名前って、お約束ではセバス=チャンじゃないの?しかもバトラーって!執事だけにバトラーって、ダジャレ?異世界だから?


「グレイ様、其方のお方は?」

「ああ、()()()だよ。ようやく見つける事が出来たので同行を願ったのだよ」

「左様でございますか。これで旦那様も奥方様もお喜びになられます」


 一礼されたので、思わず俺もお辞儀をして

「ども、イナリです」

 本物の執事さんの所作がスゲー!これが一流の執事の立ち振る舞いなんだと感心しちゃったよ。しかも全く隙が無い。この執事さん、そーとーな手練れなんじゃ……俺なんてさ、イナリに扮する為に仮面まで着けてるのに全然微動だにされないし、普通素顔を隠すような奴なら怪しむだろうに、まぁギルマスと一緒に居るからだろうけど。


 俺とギルマスは執事バトラーさんの案内で依頼主である伯爵の元へ向かった。応接間らしい部屋に案内され待つこと数分で例の依頼主である伯爵が現れた。


「おお!グレイ!待っておったぞ」

「フフ相変わらず騒がしい奴だな」

「グレイ、そちらの方が英雄イナリ殿か?」

「ああ」

「初めましてイナリです」ペコ

 英雄は勘弁してくれ


「おお!そうであるか。貴殿のことを待ちわびておった」

「あと、丁寧な言葉使いを持ち合わせていけど問題ないか?」

 最初に断っておかないとな、なんせ相手は貴族様だからね。無礼者!とか急に怒りだされるのも面倒だし


「うむ、イナリ殿はワシが招いた客人。普通通りに接してくれて構わぬ」

「ヘンリー早速だが本題に移ろう」

「うむ、そうだな」

「私が聞いて不都合があるようなら退室するが?」

「グレイもこの場で聞いてくれて構わぬ。だが話を聞いて他言だけはしないでほしい」

「分かった。話を聞く前にヘンリーに伝えておきたいことがある。クリスの病がどの様な状態なのか今の段階では分からない。場合によってはイナリ君にも確実に治せるどうか判断しかねるようだ。それだけ頭に入れてほしい」

「うむ、では話そう。娘の奇病なのだが……今現在、病気なのかワシにも未だ分からんのだ。クリスティーナのステータスを確認するも、常に状態異常の表記しか出ぬのが現状なのだ」

「状態異常だと?では呪いと言う事か?」

「やはりグレイもそう判断するのだな。ワシもそう考えて、そのような処置を施したが呪いの類でもないのだ」

「呪いではないのか?」


「あの〜いいかな?ぶっちゃけ今の説明じゃ俺にはサッパリ意味不明なんだけど?その奇病以外では娘さんは健康なのか?」

 呪いじゃないって言ってもホントかな?仮に呪いの類だと俺のヒーリングは対応してないからね。残念な事に専門外ですよ


「身体そのものは健康状態で間違い無い。奇病によるクリスティーナの症状なのだが……人の考える事が手に取るように分かるようなのだ」

「人の考えが分かるだと!?」

「へっ!?」

 それってテレパスじゃねーの?そしてステータスに状態異常?……それってテレパスの扱いが分からなくて、解放状態つーか、暴走状態になってるんじゃ?


「なぁそれって何らかのスキルとかじゃないの?」

「イナリ殿の言わんとすることは分かる……仮にその奇病がスキルのものだったとしても、使用者の魔力を一切消費してないのだ」

「えっ?」

 固有スキルも魔力を使うの!?マジで?全然知らなかったよ。でも俺の超能力自体魔力を使わないから、やっぱ娘さんの奇病ってテレパスだよね。


「イナリ君も存じているだろうが、どのようなスキルであろうと魔力を使わないスキルは存在しない。ヘンリーが言うように、私も奇病だと判断せざるを得ない」

「仮にだぜ、その奇病がスキルだとして、そんな人の考えが分かるようなものって、貴族にとって超〜有り難い代物じゃないのか?」

「イナリ殿、分かってくれ。ワシは娘に()()()()はさせたくないのだ……」

「うむ、なまじ人の考えが分かるスキルを持っている事が世に知れればクリスを身の危険に晒すだけだからな」

「なるほど」


 まぁ本人が望んだスキルじゃないだろうし、それが知れれば、攫われたりヘタしたら殺される危険性もあるしな。


 俺は確認する為に当たり障りのない程度に質問を投げかけるように話を聞いた。

 クリスティーナ…クリス(短縮しよ)のテレパスが発動した時期は一年ほど前、風邪の症状で三日間、高熱に浮かされた後に、その症状が発症したらしい。初めこそ誰もが、勘が鋭いと勘違いしていたようだが、そうじゃなかったみたいだ。

 まぁその後の展開(最悪な)は容易に想像できる。


「ひと通り話も聞いたし一度、その子に会ってもいいかな?」

「イナリ殿、貴殿のお力でクリスティーナは治るのですか?どうか娘を、クリスティーナを救ってほしい」

「まぁ一度会って診断してみるよ。話はそれからだよ」

「私からもお願いする。イナリ君、クリスを宜しく頼む」

「あ〜それと、もし治らなかった場合、さっき聞いたことを俺が他言しないと約束できるけど――」

 俺はそう話しながら狐面を外した。そして本当の名前も依頼主であるヘンリー伯爵に伝え、ギルマスも俺が話すことは真実だと伯爵に告げた。

 もちろん信用してもらう為だけどね。じゃあクリスに会いに行きますか!




 執事のバトラーさんにクリスの部屋まで案内してもらうことになった。

 案の定テレパス発動後、クリスは自室に引き篭もるようになり、誰とも顔を合わさないようになった。まぁ話の流れ的にはそうなるよね。


 さてと、さっきの話を要約すれば、恐らくお嬢様クリスに突発的テレパスの能力が目覚め、本人もその能力が超能力だと知らず困惑しているんだろうな。

 この世界では超能力自体の認識はなく、全て魔法が主体だからだろう。でも固有スキルで人の思考を読むようなモノも存在しないのかな?ん〜仮にあったとしてもそんな貴重なスキルを誰も口外しないか……


「イナリ様、少々お待ち下さい」

「あー」


 お嬢様クリスの部屋らしいトコで執事のバトラーさんが扉の横に取り付けてある、魔導具らしき物に手をかざしている。一体何をしてるんだろう?あの魔導具はなんだ?


「クリスティーナお嬢様、バトラーで御座います。お客様をお連れしました」

 ⦅……お客様?……どなたでしょうか?⦆


 おっと!何かと思ったらインターホン!いやドアホンか。まぁどっちでもイイや。流石貴族の邸宅、部屋にドアホンが設置されてるとか、いやこの場合は、せざるを得ない状況なんだね。


 バトラーさんとお嬢様の問答を魔導具ドアホン越しに聴いていたら、俺に会うように説得しているバトラーさんと、誰とも会いたくないと答えるお嬢様。

 説得の末、俺が王都で名の知れた英雄イナリだと説明し、お嬢様クリスも一応は王都での俺の噂を聴いていたらしく渋々ながらも面会することになったようだ。


 扉には魔導具ドアホンと連動するようにオートロックが解除され扉の鍵が開いた。魔導具スゲーな現代社会みたいだよ。まぁ金があるから出来る事だと思うけど。


 さてと、どう対処しようかな?とりあえず、お嬢様と話をしてみて対処法を検討してみよう。

本編とは関係無い余談です。

最近、プライベートで腰をいわしてしまった!この時ばかりはアスラのヒーリングで癒してほしいと、思ってしまいました。

皆さんもお身体に気をつけて下さい。

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