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濃い一日の終わり

 はぁ…あのバカ(デリック)のお陰で、俺の正体がイナリだとバレちゃったじゃん。

 うやむやに誤魔化そうにもキッチリ、イナリの名前から俺の名前を言い直すし、はぁ…もうどーでもいーやって気分だよ。ため息しかでないや


「本当にアスラ君がイナリ殿であるのか?」

「あーそーだぜ。本当は隠せるものなら隠し通したかったけどな」

「マジなんか?アスラっちがイナリっちなんか!?」

「マジマジ」

 アスラっちとかイナリっちとかホント調子くるうな


「いや〜さっきは冗談で言ったけど、まさか本当だったとは……でもデリック王子もしっかりアスラの事をイナリって呼んでたし……」

「本当ですわね。しかもデリック王子様とお知り合いなんて流石英雄イナリさん。素敵ですわ」

「アスラさん、いえ英雄イナリ殿!お会いできて光栄です」

「ハハ…ファミーユさん英雄はやめほしいな、俺はそんなんじゃないから普通にアスラで良いよ。イナリは偽名だからさ。他のみんなも今まで通り俺の事はアスラって呼んでくれ」


 俺がイナリだと分かった瞬間は、驚きの顔をしてたのに、今はみなさん目がキラキラしてる。若干一名はプルプル震えながら顔を伏せたままだ。


「あ!そうだ。リーン」

 ビクッ!「はひィ!」

「どうしたんだリーン?声が裏返ってるぜ」ニヤニヤ

「なっ何れもないれすゥ」

「そうそう、リーンに謝らないといけないんだ」

 リーンのヤツ呂律ろれつも回ってないじゃん

「はへっ!?」

「無神経で傲慢な上に粗暴な態度で。ホントごめんな」

「あっ!えっ!うっ!すみませんすみません!そんなつもりで言ったつもりじゃないれすー!」

「へ〜じゃあどんなつもりで言ったんだ?」

 人の揚げ足を取るのって楽しい〜。リーダー達なんて、腹を抱えて笑いを堪えるの必死だし。俺ってこんなんだから無神経とか色々言われるのかな?


「そーいやさーアスラっち」

「どうしたハンズ?」

「アスラっちは本物のイナリっちやん、何であの場で、バートルとダリアの回復しなかったん?」


 リーンがハンズのその一言で、ハッ!となる。


「そっ、そうよ。あなた本当に正真正銘イナリなの?王族の方と親しいからって彼に、なりすましてるのじゃないの!」

 まだあなたが本物かどうか信用できないわ。うん、そうよ。


「まーだそんな事を言ってるのか?ホンット疑り深いな〜。俺がイナリって公にしたくなかったから、王都へ帰ってこっそりバートルとダリアの治療をしてやろうと思ったけど……バートル、ダリアこっちへ来てくれるか?」

 なりすましって!詐欺師みたいな言い方するなよ。ったく!

「「はい!」」

「えっ!あなた本当に治療するの!?」

「当たり前じゃん。じゃないとリーンは俺が本物か信用しないんだろ?偽イナリ事件の時なんてさー、リーンとエイミーは、猫の仮面を着けたのに俺が本物だって言ってたじゃん、今は信用ないからな」

「えっ!えっ!えっ!どうしてそれを!?」

 え───────っ!目の前の彼は本物!!


 バートルとダリアがすごく期待するような眼差しを向けてるよ。ハイハイいま治してやるから、そんなに見つめないで。もう、なんちゃって詠唱も面倒だし、ちゃっちゃと治しそう。(ヒーリング)


 アスラがバートルとダリアにヒーリングをかけた途端、徐々にではあるが、バートルとダリアの失われた腕と指が目に見える速さでムクムク、モコモコと再生しだす。


「わわわわ!指が指が生えてきたしたよ!」

「えっえぇーっ!うっ、腕が腕が!俺の腕も生えてキタァー!ファミーユさん!見てますか俺の腕見てますかっ!」

「見てるぞバートル!すっ凄い!」

「コレがイナリの回復魔法か。間近で見ると凄いな」

「ひゃースゲーな、アスラっち」

「本当に凄いのである。しかも無詠唱であるとは吾輩、恐れいったのである」

「本当に凄いですわね。惚れ惚れしますわ!正真正銘アスラさんは本物のイナリさんですわね。あの時の事もしっかり覚えていらっしゃいますし」

「バートルさん、オイラ…オイラ…グスン。本当に良かったです。グスン」

「バートル、ダリア良かったな。ほらグロウ泣くなって。仕方ない奴だなぁ」


「どうだリーン?これで信じてくれたか?」

「あわわわわ!ごっ、ごめんなさいごめんなさい!疑ってごめんなさい!」


 この世界に来て初めて土下座を見たよ。しかも目の前で土下座してるのが女の子だから少し引くわ〜。ちょっと可哀想だから、冷やかすのはヤメとこ。女の子を土下座させたって、変な噂がたつのもヤダからね。


「リーン、もう謝らなくていいぞ。疑いが晴れたならそれでイイからさ、全然怒ってないからさ」

 俺はそう言葉をかけ、リーンんに手を差し伸べてやった。出会った時は勝気なリーンだったけど今は半泣き状態だ。もう、からかうのはヤメとこ。


「はひィ、許して頂けてありがとうございます。イナリさん本当にごめんなさい」

「もういいって。それにイナリさんはやめてくれ。さっきも言ったけど、みんなも俺の事を絶対!イナリって呼ぶなよ」

「吾輩、心得たのである。アスラ君がイナリ殿とバレれば大事に成るのは間違いないのである」

「そうだなデコの言う通りだ、了解したぜアスラ」

「任せなアスラっち!男と男の約束だかんな」

「わたくしも了解しましたわアスラさん!」

「私も了解しました。お前達も消して他言しないように」

「「「「ハイ!」」」」

「もっ、もちろん私も心得たわ!」


「じゃあ早く帰ろうか。ファニーも心配してるだろうしな。バートル、怪我をしたとか余計なことを妹に言うなよ」

「ハイ!分かりました」


 思わぬ事態でとんだ道草を食ったけど、俺達は馬車を走らせ無事に王都へ到着した。そしてその足で冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドへ入るなり、朝の一件を知っている奴らは、ジロジロ視線を向けて、小声でヒソヒソと話していたけど、俺はそんなの気にしないし、紅蓮隊も居るからね、おそらく紅蓮隊が解決したものと思ってるんだろうな。多分


「ファニー!」

「あっ!お兄ちゃん」

「ごめんファニー心配かけて」

「あたしね、とっても心配したんだよ〜」


 見てて微笑ましい光景だこと。俺は一応依頼が達成したから受付にっと。


「キャッシーさん。終わらせてきたぜ」

「お帰り。無事に見つけてきたんだね」

「まぁ〜な、でもファミーユ達が受けた依頼の内容がちょっと違ったようだぜ?」

「ゴブリン数匹じゃないのかい?」

「あー。まぁコレを見てくれ」

 俺は町で購入したリュックをカウンターの上に乗せ、キャッシーさんに中身を見せた。


「あんたコレは!?」

「もちろん狩って来たゴブリンの片耳だ」

 デコとハンズと一緒に残党の始末をしながらゴブリンの片耳も切り取りリュックに入れ回収した。証拠の品としてな。


「それが本当なら大変な事だよ。ギルドマスターに至急報告しないとだね」

「あー、それはもう大丈夫だぜ。紅蓮の熱き誓いのメンバーとファミーユさんが今頃ギルマスに掛け合ってるはずだから。一応コレは証拠の品で渡しておくよ」

「はいよ。しかし大変だったね、あんた怪我はないかい?」

「ハハ大丈夫。紅蓮のメンバーが強かったからな。それより、ファニーの面倒を見てくれてありがとう」

「大丈夫さね。大人しく兄の帰りを待っててくれたからね。手間はかかってないよ」


 キャッシーさんに依頼達成の報酬をもらい、明日はどんな依頼が貼り出されるのかな〜と考えていたら。


「おにいさん。お兄ちゃんを捜してくれてありがとう」

「おっ!ファニーか。お兄ちゃんが無事に見つかって良かったな」

「うん!」ニコ

「アスラさん本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」ペコ

「いいって、俺は依頼を受けただけだからな。それよりも妹を大事にしてやれよ」

「はい!」


 そんな会話を仲の良い兄妹と話ていたらリーダー達がギルマスと話を終えて帰って来た。


「アスラ待たせたな」

「アスラさん、お待たせしましたわ」

「アスラっち、お待たー」

「アスラ君、お待たせしたのである」

「アスラさん、お待たせしたわ」

「じゃあ約束どおり飯でも食べに行こうか。ここらで美味い飯屋を知らないから、場所はリーダーに任せるよ」

「そうだな…じゃあオレ達の馴染みの店に行こうか」

「そうであるな。あそこなら落ち着いて食事もできるのである」

「「「賛成!(ですわ)」」」

「じゃあ早速行こう」


「アスラさん、今日は大変お世話になりました。私どもはこれにて失礼します」

「ファミーユさん達も一緒に飯行く?今日は俺の奢りだから遠慮しなくて良いから」

「いえ、ですが今日は色々と迷惑をお掛けしたのに食事まで奢ってもらうなど……」

「遠慮は要らないって。ファニーもお腹空いただろ?一緒にご飯を食べようか?」

「うん!」

「あっ!ファニー勝手に返事して!アスラさんすいません」

「いいっていいって。それに今日の一番の功労者はファニーだからな。リーダー、人数増えるけど構わないか?」

「おう全然大丈夫だ」


 半ばファニーをダシに強引にファミーユパーティーも誘って紅蓮隊の馴染みの店に向かった。

 ファミーユさんは凄く遠慮してたけど他のメンバーは結構喜んでるようだ。ここで知り合ったのも何かの縁だし冒険者と親睦つーか、交流を深めるのも異世界ならではだからね。




 リーダーに連れられ紅蓮隊の馴染みの店内に入ればどこか居酒屋風の佇まいだ。昔、親父に連れられて入ったことがある居酒屋に雰囲気が似ている。

 あの時は、酒が飲める年齢じゃなかったから、俺は食事だけだったけど、居酒屋のメニューって、普段家では食べない料理が多いから結構ガッツリ食べた記憶がある。親父なんか飲み過ぎて母さんに怒られてたし。

 あの時は楽しかったなぁ〜などと感傷に浸りながら、席に着き、コレでもかというくらい料理を注文した。


「ファニーも好きなだけ食べていいからな」

「うん」


 リーダーの乾杯の音頭のあと続々と運ばれてくる料理をつまみながら賑やかな食事タイムが始まった。

 デコが言っていたように紅蓮隊は酒豪ばかりだ。エールを一気に飲み干しお代わりを何杯も何杯も追加注文をしている。

 なんとも恐ろしい、コイツらこの店の酒樽全部飲み干すのと違うのっていうペースの飲みっぷりだね。


「そーいやさーアスラっちって、城の人と仲がいいやん。もしかして例の噂を聞きつけてやってきたん?」


 ハンズの質問で俺への視線がすごい。例の噂を知らない者は“なんのこと”と、隣の人に聞いている。


「例の噂って王様のことか?」

「そうそう」

「ここだけの話だけど、既に解決済みだ。今後、例の噂も流れなくなると思うぞ?」

「「スゲー」」


「アスラさん、わたくしも質問してよろしいですか?」

「俺が答えれる範囲なら構わないぞ」

「アスラさんは、あの出来事の後もランバー国に滞在されたのですか?」

「あの出来事って偽イナリの事か?」

「そうですわ」

「あの後、直ぐにこの国を発ったぞ。所用でこっちに来たって言っただろ?それで久々にこの国に来てみると、変な法が作られてるじゃん。そんなの知らないから城の牢屋に入れられて大変だったよ」

「「えー!牢屋に!?」」

「まぁ直ぐに疑いが晴れて釈放してもらったけどな」

「いやはや波乱万丈であるな」


「そー言えばさー、リーンとエイミー覚えているか?俺の横に居た赤い仮面を着けていた奴のことを」

「覚えているわ。あの正義感の強そうな人でしょ?」

「もちろんですわ。わたくし達が偽物ともめている時ですわね?」

「あれな、アルフ王子だぞ知ってたか?」

「「えーっ!」」


 驚いてる驚いてる。っと、あまりこういうこも言わない方が良かったのかな?まぁイイや


 俺への質問が色々多いから今度は俺が質問してみよう。デコの喋り方も気になるけど、エイミーの喋り方も気になるんだよな〜。


「エイミーってさー、普段からそんな話し方をしてるのか?」

「そうですわ」

「どっかのお嬢様?」

「エイミーは、こう見えてれっきとしたお嬢様だぜ」

「リーダー!こう見えては酷いですわ」

「あ、悪い悪い」

「お転婆お嬢様やん」

「ハンズまで、やめて下さい」

「エイミーは、元貴族なのである」

「ほ〜貴族なのか」

「アスラさん、気になるようね。政略結婚、つまり相手の方が嫌で逃げ出して冒険者になったのよ」

「そうですわ。家の為とは言え好きでもない方と婚姻を結ぶなんて、わたくしどうにも我慢できなかったのですわ」

「気持ちは分かるけど、それは貴族としてはダメじゃん」

「テヘ。ですわ」


 テヘじゃねーよ。まぁ人それぞれ事情があるから仕方ないのかな?


「アスラさん。私もひとつ質問して良いですか?」

「なにかなファミーユさん?」

「アスラさんは、その…なんと言いますか…例の力を使って、お金儲けなどはしないのですか?」

「あ〜それね。お金は〜あるに越した事はないけど、ぶっちゃけ力を使ってまで金儲けに走るつもりは無いよ」

「それは何か理由があるのですか?」


 ファミーユさんの質問で全員が興味津々な目でこちらを見てる。何かを期待するような……

「ん〜理由ねー…理由と言うか…期待を裏切るようだけど、ただ単に面倒くさいじゃん」

「「「えーっ!」」」


 全員が漫画でいうズッコケの仕草をしたよ。


「だってさ、その都度、ケガ人や病人のトコまで足を運ばないといけないなんて面倒じゃん、みんなが俺の事をどう思っているか知らないけど、俺は聖人じゃないし。まぁ一番の理由は目立つとトラブルに巻き込まれるしな」


「なるほど、そうであるな。アスラ君の力は強大過ぎるゆえ、色々と火種を巻き込む恐れがあるのである」

「だから、仮面を着け名前も変えてたのさ」


 みなさんなるほどウンウンと、納得という顔をしてる。


 このあとも更に盛り上がり楽しい時間は過ぎて行き、ファニーが船を漕ぎだした辺りでお開きになった。兄の帰りを心配しながら待っていたから精神的にも疲れていたんだろう。


 みんなと別れたあとに、今日は結構濃い一日だったなと、思う。

「明日はお願いだから平穏な一日であってほしいな」



 そんな事を呟きながら宿屋へ帰路に就くアスラであった。

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