架空の主人公
俺達は馬車に乗りファニーの兄貴達が居るであろうデネブ村へ向かった。
一路デネブ村に向かう一行、デネブ村までは、ランバー国王都を離れ約20キロ近く離れた地にある。漸く半分くらいの距離を走らせた辺りで馬車から降り、近くの川辺で一旦休憩を挟むようだ。
全力で馬車を走らせているので馬に配慮しての休憩も含まれているのは言うまでもない。
「リーン。リーダーのオレを差し置いて無理矢理メンバーを連れて行こうってんだから分かっているだろうな?」
「全くだぜ!オイラはリーダーと違って暇じゃねーかんな」
「本当ですわ。わたくしもリーダーほど暇ではありませんわ」
「吾輩もである」
「オマエらな……」
「はいはい分かってるわよ。今夜の夕食は私の奢りよ。それでいいでしょ!」
「「「よし!(ですわ)(そうこなくては)」」」
「それならメシでも酒でも今回の件が終わり次第、好きなだけ俺が奢ってやるよ」
「「マジか!」」
「「本当に!?(ですの)」」
「アスラ君、大丈夫であるか?吾輩を含めここに居るメンバー全員、大酒飲みである」
「大丈夫大丈夫。どのみちこの依頼じゃ間違いなくタダ働きだからな好きなだけメシでも酒でも奢ってやるよ」
「アスラって気前がいいわねー。そーゆーあなたもタダ働き同然じゃないの、それこそ馬車まで用意してーお金は大丈夫なの?」
「それなりに蓄えはあるんでな。それに馬車って言っても荷馬車だしな箱馬車に比べれば安いもんさ」
ほとんど金なんか使わないから貯まる一方だっつーの!それに帰りは大人数になるかもしれないしな。
「ところでアスラ君、さっきから一体なにをしておるのであるか?吾輩すごく気になるのである」
「あ〜コレか?せっかく休憩するんだから飲み物を用意してるのさ」
俺はその喋り方のほうがスッゲー気になるのである。なんつって!
アスラはコーシーセットを取り出しメンバー全員分のコーシーを用意していた。
コーシーの美味さは徐々に広まり拡大しつつあるのだが、未だランバー国には広まっていないようだ。
焙煎したコーシー豆もアスラが用意している機材も初めて見る者には何をしているのか不思議であるようだ。
「なんと!コレは美味である!」
「「メチャうめー!」」
「本当に美味しいですわ」
「なにこれ!本当に美味しい飲み物なんだけど?」
メンバー全員、初めて飲むコーシーみたいだけど、けっこー喜んでるな。初めは爺さんみたいに黒い液体だって怪訝な顔してたのにさ。
「あーコレはコーシーって飲み物さ。ヴァルトリアでは、そこそこ広まってる飲み物なんだ。そのうちランバー国にも広まるんと違うか?」
「と言う事は、あなたはヴァルトリア出身なの?」
「あー一応はヴァルトリアに家はある。ちょっと所用でコッチへ来てた訳さ」
「どうりでここいらで見かけない顔なのね」
「なるほどである」
「しかしよーいくら所用って言ってもヴァルトリアからここまでスンゲー距離があるんだぜ?いってーどんな用事なん?」
「ハンズ、人それぞれ色々事情がある。オレも気になるが詮索しないのが礼儀だ」
「そうですわ。リーダーも偶には良い事も言うんですわね、わたくし感心しましたわ」
「エイミーおまえ……」
ここのパーティーリーダーもファルコンみたいに、雑な扱いだこと!
「しかし吾輩、アスラ君に初めて会った気がしないのは吾輩の気のせいであろうか?」
「そうですわね、わたくしも初めてお会いした気がしませんわ。何処かで一度お会いしたかしら?」
「気のせいだろ?」
ヤッベー、俺がイナリだと勘付かれるぅ!デコとエイミーは勘がイイな。他の3人は気づいていないようだけど。
「そうよ、こんなクソ生意気なDランクなんてそうそう居ないわ」
「クソ生意気で悪かったな!」
リーンはいちいち俺に突っかかるな。イナリの時と全然態度が違うじゃん。普通おまえがイナリだと勘付くだろ。
「アスラ君、良ければもう一杯欲しいのである」
「あっ!オイラも」
「わたくしも」
「私もー!」
「じゃあオレも」
「あいよ」
コーシーの旨さにハマった顔だな。
「そう言えばさぁー。ゴブリンだけを専門に狩る奴って居ないのか?」
「そんな酔狂な奴は見た事も聞いた事もないが……皆んなは知っているか?」
「そんな物好き居ねーよ」
「そうですわね〜〜居ませんわ!」
「ゴブリン退治を専門であるか?吾輩の記憶では居ないのである」
「あなたも面白いこと聞くわねー?普通どう考えても居ないでしょ」
「そうか……」
異世界なら師匠のような人が居ると期待したけど、やっぱ架空の主人公なんだね。
小休憩も終わり再び馬車でデネブ村に向かった。馬車を走らせる前に馬達には念話で無茶さすけど頑張って走ってくれよと話、ヒーリングで疲れを癒してやった。念話での言葉が伝わったのか、任せろと言わんばかりに「ヒヒィ〜ン」と鳴いていた。
そしてあっという間にデネブ村へ到着した。
到着して早々、ゴブリン討伐の依頼主である村長に会いに行き、昨日ゴブリン討伐で五人のパーティーメンバーが来ていないのか確認したところ――
「昨日冒険者の方が来られまして、ゴブリンを退治してくると出かけたまま未だ帰って来ないのです」
と、返事が返ってきた。俺達は村長にどの辺りでゴブリンを目撃したのかを確認した。やはりゴブリンは山間で目撃したようだ。そして、その目撃をした先には今は使われていない廃坑がある。
村長に今現在、村に被害が出ていないかも確認したところゴブリンでの被害かどうか分からないが数週間前から家畜の被害と村の娘が二人ほど行方不明らしい。
そんな曖昧な村長の返答に“ん?”っと疑問符的(?)な顔をしていたら、そういう事は獣での被害で稀にあるとか、それでもこれ以上の被害の拡大を防ぐ為に冒険者ギルドに依頼をした村長は間違っていない。
村での情報もある程度得たので俺達はゴブリンが目撃された場所ではなく、その先の廃坑へ直接行くことに決めた。
現地までの案内に村長に同行してもらい、村長は馬車と一緒に村へ帰ってもらった。そのまま廃坑前で待たしている間に村長と馬車が襲われたらシャレにならないからね。
「さてと、今から廃坑に潜るけど準備はいいか?」
「あなたねー私達を誰だと思っているの?」
「はいはい泣く子も黙る紅蓮隊だろ?」
「あなたねー!もういいわサッサと潜るわよ。あなたは一番弱いんだから私達の後を付いて来なさい!」
「へいへい」
アスラの憎まれ口に呆れたリーンが一歩廃坑に足を踏み入れた。
「ちょっと待てっ!」
「もう!今度はなによ!」
「オマエら、よ〜く足元を見てみろ」
メンバー全員がアスラに指摘され足元を良く見てみると無数の小さな足跡がある。
「コレは!?」
「サイズ的に子供サイズの足跡ですわね」
「やっぱりこの奥にゴブリンが潜んでいるんか?」
「こちらは何かを追いかけたような足跡までありますな」
「あなた良く気づいたわねー」
「普通気づくだろ?オマエら自分の強さに驕ってたら終いに足元すくわれるぞ」
「面目ないのである。今から気を引き締めるのである」
「そうですわね」
本当にコイツら大丈夫か?一応はコイツらの実力を知ってるけど、コイツらにとってゴブリンなんて雑魚同然だから気が緩んでるのと違うか?
ホント足を引っ張られる前に色々先手を打った方が良さそうだな。
そんなことを思いアスラは千里眼と透視を同時に発動し廃坑を凝視した。
「オマエらマジで慎重に行動しろ。間違いなく居るぞ!そこらじゅうに潜んでいる」
「えっ!?あなた何故そんな事が分かるのよ?」
「アスラっちは気配感知のスキル持ちなん?」
「まぁ……そんなもんだ」
アスラっちって何だよ。調子狂うな
「それでアスラ、どれくらいの数が潜伏しているか分かるか?」
「いや数までは分からない」
分からないっつーか、数えるのが面倒くさい。だって相当な数が居るからな。俺も気を引き締め直すか、とりあえずの目的はファニーの兄貴達の捜索だからな。
アスラの指摘により、先ほどまでの気の緩みを捨て、気を引き締め直すリーン達、紅蓮の熱き誓いのメンバー。陣形もリーダー、デコを先頭に中衛はハンズ、リーン、後衛はエイミー、アスラの順で廃坑へ潜って行く。
俺はリーン達に気づかれないよう、ちょっと細工を――
坑道へ入る際、エイミーが自身の武器を掲げ何やら魔法の呪文を唱えた直後「ホーリーライト!」ロッドの先端に埋め込まれている水晶が淡い光を放った。
どうやらエイミーは光魔法が使えるようだ。
「コレで視覚は大丈夫ですわ」
と、ニッコリ微笑んでいる。灯りが確保でき坑道へ進んで行けば、待ち伏せてましたと言わんばかりにゴブリン供が襲ってきた!
デコが上手く盾でゴブリンを引き付けている間にリーダーが自身の大剣ではなく、俺の指摘どおり予備装備のショートソードでゴブリン達を突き刺し薙斬りし、小煩いリーンが投擲武器を使い敵を牽制、怯んだ隙にハンズが青龍刀みたいな武器を二刀流で巧みに使いこなしゴブリン達を細切れに斬り刻み葬って行く。
エイミーは俺と一緒に後方で控えている。
魔法での援護射撃がメインなんだろう。但し坑道内での魔法攻撃は時と場合による。だって狭い空間で魔法ぶっ放されたら危ないじゃん!
立ち回りは流石一流プレーヤーじゃなく、一流パーティーだなと感心したが、それは目に見える敵に対してだ。岩陰に身を潜めているゴブリンにまで注意がいってないようだ。
コイツらの厭らしいところは暗闇に潜み相手の隙を見つけ襲って来るところだ。
俺達が通り過ぎるのを確認し背後から襲って来る!
「ギギィッ!」“ガンッ!”
グシャリ
「ひゃんっ!」
俺は既に気づいていたので躊躇なくメリケンサックを握った裏拳でゴブリンの顔面を一撃で粉砕した。
エイミーは気づいていなかったようでビックリして可愛らしい悲鳴を上げていた。
「奴らは闇に潜むのが得意だから、目視できる敵以外にも注意な」
「ありがとうございますですわ」
「あなたやるわねー。一撃でゴブリンを倒すなんて、本当にDランクなの?」
「アスラっちは変わった武器を使うんすね」
「吾輩も一撃で倒せるのであるがゲンコツ一発で倒すのは感心なのである」
「ほらほら彼にいいとこ持って行かれるぞ。俺達も気を引き締め直すぞ!」
しかしデコが言ったように本当に凄いな、ランクはDだが恐らく実力はもっと上だろう。
俺達はファニーの兄貴達の手掛かりがないか更に先に進んだ。
迷路のような坑道を進んで行けば、少し開けた場所に出た。そこでは激しい戦闘があったのか壁や床、そこらじゅうに乾ききっていない血糊がベッタリとこびり付いている。
「ここで戦闘があったようだな」
「まさかここでファニーのお兄さんが……」
「クソ!ちょっと遅かったんか……」
「よもや手遅れであるか」
「もっと早くわたくし達が到着していれば……」
リーン達は戦闘が行われたこの場所でガックリ肩を落とし落胆した様子だ。恐らく全滅したものと思っているのだろう。
俺は壁に付着した血糊を触りサイコメトリーを使い、その時の状況を調べた。
確かに激しい戦闘が繰り広げられたようだが、この場では誰も死んでいない。
「まだ希望を棄てるには早いぞ。この血糊はゴブリン供の血糊だ」
「そうなのかっ!?」
「どうしてあなたにそんな事が分かるのよー?」
「んー臭いだ!人の血と違ってこの血は臭い」
つい誤魔化してしまったけど誤魔化せれるかな?
「ホントだ!オイラも少しだけ鼻が効くからよく嗅いでみたら、確かに臭い!」
「では彼等の生存は希望があるのですね」
「それを今から確認するのである」
「確かにゴブリンは臭い生き物だ。アスラとハンズがそう言うのなら間違いなさそうだな。よし!このまま捜索を再開しよう」
良かったぁ〜なんとか誤魔化せれたよ。咄嗟に臭いって言って正解だね。
しかし師匠はよく、こんな臭い血を身体中に塗りたくれるな……奴らに気づかれないようにする為と言っても俺には無理だ!絶対無理!だから、コイツらにも敢えて勧めない。ゴブリン供めー来るなら来い!片っ端から葬ってやる。
久しぶりに感想も頂き、ブックマークも徐々に増えて、感謝の一言しかありません。
ありがとうございます!