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【紅蓮の熱き誓い】

今話は少し短めです。

「なぁ、その依頼、俺が受けようか?」


 そう呟く男にギルド内に居る全員が注目した。

 兄捜索の依頼を受けると聞いた女の子はパァーっと笑顔になる。


「あなた見かけない顔ね。ねーあなたはこの子の知り合いなの?」

「いや今日初めて会う子だけど」

「ふ〜ん。どう言った魂胆なのかしら?この子が持っているお金が……目当てでもなさそうだし、何が目的なの?」


 突然見知らぬ子に、どう考えてもメリットらしいものが無いはずな依頼に助け船を出すアスラに対し怪訝な表情になるリーン。


「魂胆も何もそんなのねーよ。その子が困ってるから助けようかって言ってるんだよ。それとも何か?アンタがその子の願いを叶えてあげるのか?」

「うっ!それは……あなたならこの子を助けられるの?」

「それはやってみないと分からねーよ」


 捜し出せれる当ても根拠のない様子のアスラにますます疑問が浮かぶリーン。


「ところであなた、このギルドでは見かけない顔だけどランクは相当上なのよね?じゃないと軽はずみに助けるとか簡単に言わないはずだし……」

「あん?俺のランクか?今の俺のランクはDだ!なんか文句あるか?」


 アスラが堂々と自分のランクを言った瞬間、ギルド内がザワザワしだし、中には“バカだコイツ”などと中傷する者まで居る。リーンはアスラのランクを聞き呆れ半分である。


「あなたねーよくそのランクで偉そうに助けるとか言うわねー。確かにゴブリン程度ならDランクでも倒せるかもしれないけど、仮に捜索中に10匹以上出没したらどうするのよ!あなた死にたいの?」

「別に舐めてかかってる訳じゃあねーけど何とかなるだろ?」

「ハァ…もういいわ。私も付いて行ってあげる」

「へ〜」

 なんだ結局行くのかよ。じゃあこの子に説得せずに最初から“お兄さんを捜してあげる”って言えばいいのに。ツンデレか?


 リーンがアスラに付いて行くと聞いた他の冒険者達が更にザワザワしだした。


「なによその目は!あなたみたいな訳の分からない人に任せたら、この子の依頼が達成しないからよ!この子の為よ!」

「へいへい」

 やっぱツンデレなのか?

「あなた達も上で見てないで降りて来なさい!どうせ暇なんでしょ一緒に行くわよ」


 中二階でリーンとアスラの遣り取りを見ていた数名がリーンの呼びかけに呆れた態度で降りて来た。


「全くリーンはしょうがないのである」

「全くですわ」

「ったく。リーダーはオレなんだけど、なんでリーンが仕切るんだ?」

「だってそりゃあ影のリーダーだからじゃね?リーダーの威厳も()()以来崩壊したから仕方ねーよ」


 ぶつくさ言いながら降りて来たメンバーはリーンのパーティーメンバーのようだ。リーンのパーティーメンバーが動き出したことにギルド内は更に(どよめ)く。


 中二階から降りて来たメンバーを見たアスラは、またまた“おや?コイツらは”と思ったようだ。


「紹介するわ!私のパーティーメンバー達よ。私の名前はリーン」

「オレはこのパーティー【紅蓮の熱き誓い】のリーダーを務めているリップス」

「吾輩はデコである」

「オイラはハンズ」

「わたくしはエイミーですわ」


 なんだこのパーティー名は!めちゃくちゃ痛すぎるぞ!毎回思うんだけど、この世界の奴らって厨二病ばかりなのか?


「ちょっとー!私達のパーティー名を聞いて恐縮するのは分かるけど、あなたも自分の名前を言いなさいよ?」

「えっ!?あー、俺はアスラだ」

 どんだけ有名なのかは知らねーけど恐縮どころか呆れてるんです!


【紅蓮の熱き誓い】はランバー国王都支部冒険者ギルドでは1・2を争う強者(つわもの)パーティーである。但しアスラの認識では厨二病の集まりで痛い子のパーティーであるようだ。更にアマゾーン国でスカム一行を護衛していたのを先ほど思い出したようで、男性陣に対しては、アマゾネスの子種提供で女性陣に白い目で見られた本当に残念な奴らとの認識らしい。


「勝手に付いて来るのは構わないけど、俺の足を引っ張るなよ」

「「「「オマエが言うな!(ですわ)」」」」


「あなたねー私達の実力を知っているの?」

「はいはい分かりました」

 一応は知ってるよ。ただ残念な奴らだから念を押しただけだって。


 本当に分かっているの?とジト目をするリーン。


「と言う事でキャッシーさん、この子の依頼を改めて正式に受けるよ」

「本当にアンタは困った人だね」

 アンタの眼を一目見て分かっていたよ。困っている人を見たらほっとけないんだね。


 急遽捜索依頼をキャッシーに作成してもらい報酬金額は、なんと小銅貨一枚であるようだ。

 ギルド内に居る全員が呆れ果てて“やっぱりコイツ、バカだ”と囁き始めた。

 そんな囁きもアスラの耳には入っていたが、いつものようにフル無視を決めている。


「ところで君のお名前は?」

「あたしファニー!おにいさんがお兄ちゃんを捜してくれるの?」

「見つかるかどうかは分からないけど頑張って捜してくるよ。だからファニーは、お兄ちゃんが無事に見つかるよう祈っててくれ」

「うん!“ぐぅ〜〜”あっ!」


 アスラが兄を捜してれると言った言葉に安心したのか、緊張が解れお腹の虫が鳴ったようだ。


「ファニー。ご飯を食べてないのか?」

「う、うん。お兄ちゃんが帰ってこないから……」


 今にも泣き出しそうなファニーに、これ以上の質問はしまいと、瞬時にテレパシー使うアスラ。

 アスラがテレパシーを使いファニーの心を瞬時に読み取れば両親は既に居なく(他界)、現在兄と二人暮らしのようだ。それを察したアスラはファニーに問いかける。


「ファニー、お昼にはちょっと早いけど一緒にご飯を食べようか?お金の心配はしなくていいからさ」

「いいの?」

「もちろん構わないよ。食べるか?」

「うん!」


 ギルド内でも食事はできるので、遠慮せず好きなだけ食べて良いと勧めるアスラ。

 ファニーに食事を食べさせている間にアスラは、ある程度の情報を集めだす。


「キャッシーさん、ファニーの兄貴が討伐に行った先って、どんなトコ?」

「そうさねーちょっとお待ちよ」


 依頼の発注書を確認するキャッシーがアスラに伝える。


「デネブ村だね。依頼内容はデネブ村の山間で数匹のゴブリン目撃事例があるね。恐らくこの村の村長の依頼だろうね」

「ふ〜ん、そうなのか。なぁリーンこの村ってどんなトコ?」

「ん?今はただの村よ」

 アンタそんな事も知らないの?やっぱり余所者なのね。

「なんだそれ?説明になってない!」

「リーンは説明下手だからの。で、あるからして吾輩が説明しんぜよう。現在のデネブ村は広大な土地を利用した農村地帯なのである。主に小麦の生産を主流にしておる」

「ただの農村地帯か……いや待てよ。今、“今は”とか“現在の”とか言ってなかったか?前は何だったんだ?」

「十数年前までは山間部で鉱山が盛んだったのである」

「エッ!?現在その鉱山は?」

「既に廃坑である」


「おいおい、それって……」

 マジかよ!俺の予想通りなら結構ヤバイんじゃねーの?


「ねーアスラ。一体どうしたの?」

「一体どうしたのじゃねーよ!オマエら本当に強者(つわもの)パーティーなのか?」

「ハァー?いきなり何を言ってるの!あなたねー私達にケンカ売ってるの!」

「そうですわ!聞き捨てなりませんわ」

「そうだぞ!Dランクの分際で何言ってやがる!泣く子も黙る【紅蓮の熱き誓い】を舐めてんか!」

「オレもエイミーに同意だ!」

「アスラ君と言ったかな?吾輩達に分かりやすく説明してほしいのである」

「別にケンカを売ってる訳じゃねーけどな。ただオマエらゴブリンの習性とか生態を知ってるのかって言ってるんだよ!」

 俺は師匠(○スレイヤー)から教わった。いや読んだ。


「生態?なによそれ?私達より弱いってコト?」

「雑魚だよな?雑魚」

「子供サイズですわ」

「習性?知能が低い唯の雑魚?」

「吾輩なら一撃で倒せるのである」


 ダアァ───────ッ!コイツら全然話にならねー!肝心な事を見落としたままだ!今までゴブリンなんて雑魚を相手する間も無くトントン拍子で実力もランクも上がっていたんだな。


「いいか良く聞けよ?奴らは陽の光がある日中にはあまり出没しない!ほとんどが夜行性だ!洞窟や廃坑なんか見つけた日にはそこを根城にして、繁殖率が高い事をいい事に人の目に気づかれないよう女を攫いジワジワと数を(孕ませ)増やして行くんだぜ!しかも雑食だから人なんか奴らにとって唯のエサだって言ってんだよ」

 奴らはシロアリみたいな奴らだからな、近くに巣があり一匹見つけたら100匹は居ると思えだ!


「あなた詳しいわねー」

「博識であるな」


 アスラの説明でギルド内に居る他の冒険者は「お前知ってたか?」「聞いたことあるような無いような?」「私は初めて聞いたわ」「夜行性なのか?」「繁殖率が高いのは知ってたぞ」などと冒険者間でヒソヒソと話をしだした。


「いや普通常識だろ?だからその常識を知らないパーティーが奴らを追いかけて、奴らのテリトリー(廃坑)に誘き寄せられたらどうなるかって言ってんだよ。最悪な事態が無いことを祈っているけどな」

 ○スレイヤーさんが言っていた。奴らは()()だけど間抜けじゃないと。


「「「ハッ!」」」


「分かったようだな?追い詰めた先がいきなり暗がりになり、さっきまで振り回していた武器も暗く狭い空間の中じゃあ振り回す事も立ち回りも難しくなる。運良く数匹程度なら良いが暗がりから集団で襲われたらどうなるかアンタらなら分かるだろ?」

「今、あなたが言った事が起こり得る可能性があるのなら返す言葉もないわ」

「全くである」

「じゃあ急いで行くぞ!」

 俺はファニーの事を忘れて、ちょっとムキになって大声を張り上げてしまったが……良かった〜聞かれていない。お腹がいっぱいになったのかフォークを握ったまま眠ってる。


「安心おし、あたしが責任持ってこの子を預かるよ。だから急いでお行き」

「キャッシーさんありがとう!」


 俺は少しでも急いでファニーの兄貴達パーティーを見つけてやるため、ギルドの貸し出し用馬車(有料)を利用する事に決めた。馬車の操作とデネブ村の所在地が分からないので、デコが御者を買って出てくれた。「吾輩に任せるのである」ってな調子で。


 俺の思い過ごしなら良いけど、最悪な事態も予想する方がいいだろう。

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