悪霊退治その1
翌日、朝食を食べたあとにマナミと一緒に王様のところへ向かった。
王様に朝の挨拶をしたあと、本題に入ろうと思った時に、アルフたちがやって来た。
思わず心の中で(呼んでないのに来るなよ〜)っと思ったけど口には出さない。
王様と二人だけなら全ての事情を話そうと思ったけど、アルフたちが参加したら話がぶっちゃけややこしくなりそうな気がしたので、とりあえずスカムは悪霊に取り憑かれている事だけ話をした。
王様もアルフたちも、はじめはビックリしていたが、俺の話をすぐに信じてくれたようだ。ウン!信用は大事だね。
「イナリ殿、してスカムに取り憑いた悪霊を払う事は出来るのだろうか?」
「あー問題ない!俺に任せろ!」
「イナリもしかしてこの三日間部屋へ篭って居たのは?」
「そーだぜ!部屋へ篭って悪霊退治の特訓をしていたのさ!」
「「「「おおー!」」」」
なんてね、悪霊退治の特訓じゃあなくて王妃様を俺のカラダに降ろす訓練なんだけどね。
「今からスカムのヤローのところへ行きたいんだがイイか?」
「うむ、もちろんじゃ構わぬ。余も同行しても良いかの?」
「俺も行くぜ!」
「俺も同行する!」
「もちろん俺もだ!」
「俺も一緒に行くぜ!」
ですよねー。絶対付いて来ると思ったんだよ、やっぱ王妃様の事は今は伏せておこう。いつも以上にコイツらテンション上がって騒ぎ出しそうだから。
「付いて来るのは構わないけど、俺のやることに手出し口出し一切不要、何が起きても騒ぎ出すなよ。約束できるか?」
「うむ」
「おう!約束する。お前たちも分かったな?」
「「「おう!」」」
「ホントか〜?絶対俺の邪魔をするなよ?」
「おう任せろって相棒!」
はぁ〜〜なにが相棒だよー心配で心配で仕方ないんだけど。王妃様が出現した途端、スカムのヤローよりコイツらが騒ぎ出すような気がする……。
そして今回、悪霊退治の任務には助手としてマナミを参加さす事に決めた。
昨夜悪霊退治をどう遂行すればイイのか悩んだ結果だ。王妃様が言っていたようにサイコセラピーが上手く効くかどうか俺的には不安なんだよね。
その為の秘策だ。上手くいくかは今の俺にも分からない。
いつものように一か八かの当たって砕けろ作戦だ!
早速スカム(悪霊)の待つ塔へ向かい部屋の前で待機している騎士の方には申し訳ないのだけど一旦塔の下へ降りて待機(避難)してもらう事に決めた。
二次災害と余計な騒ぎを避けるためだ……だけど、どこで話を聞きつけたのか知らないけど、クレイグさんとランズさんまで付いて来ちゃった!?もう好きにしてくれ!何かあった場合は自己責任でお願いします。
王妃様は塔に着く前に既に俺の中へ降りている。傍目には俺しか見えないだろうけど霊感がある人から俺を見れば王妃様が映って見えるだろう。多分!
今のところ悪霊に弾かれる事なく俺の中に静かに手を合わし出番が来るのを待っているようだ。
じゃあ早速行動に移りますか!
「貴様ぁー何をしに来た!」
「お前に用があって来たんだよ。俺が来て何か不都合でもあるのか?」
もう取り繕って丁寧な言葉使いはヤメだ。ボイスチェンジャーも装着しない、イナリだとバレても関係ないからね。
「何だとー!私に向かって何だその無礼な口の利き方は!!」
「そんなのどうでもイイだろ?」
「貴様ぁー!私は貴様には用が無い!帰れ!」
「お前に用がなくても俺には用があるって言ってんだろ?今日も亡くなられた王妃様のありがたい言葉を伝えに来たんだよ」
「なっ!母上からの言葉だと!?」
「そうだぜ」
「フハッハッハ!性懲りもなくそんな戯言を言いに来たのか!」
ホ〜今まで薄ぼんやりとしか見えなかった影が、コイツが笑いだした途端、はっきりクッキリと見えるようになってきたよ。
イナリ殿が息子スカムに悪霊が取り憑いていると余に話をした時には俄かに信じがたい話だと思ったのじゃが余の信頼するイナリ殿がそんな嘘を吐く訳がない!どうかスカムを救い出してやってくれ。
まさかスカムに悪霊が取り憑いているとは!最初こそ話を聞いた時には唖然としてしまったがイナリに限って嘘や冗談で、そんな事を言うはずがない。
今から起こる事をジッと我慢して見るのは辛いが、任せたぜ相棒!弟たちも今から始まる悪霊退治に騒がず固唾を飲んで見守っているぜ。
さぁー始めてくれイナリ!
陛下の許しを得てこの場にランズと共に居合わせて頂いた。
決して野次馬根性では無い!私もランズもあの頃のスカム王子に戻っていただきたいのだ!イナリ殿、なにとぞスカム王子をよろしくお願い致します!
正直言って私はスカム王子が嫌いでした。
母親である王妃様の死を受け入れる事なく日に日に変わられるお姿を見る毎日……。
ですが!その元凶が悪霊ですと!?容易に信じられない事ですがイナリ殿の霊とも話が出来る真実を目の当たりにしている私には信じられます!
でも!私は覚えています。人が変わる前のスカム王子のお姿を!何事においても素直で勉強熱心で……あの頃の王子を!イナリ殿スカム王子を救って下さい。
英雄イナリの真の力で悪霊を退けて下さい!貴方の勇姿をこのランズの目に焼き付いて下さい!
「王妃様の言葉を告げる前に、ひとつ確認したい事があるけどイイか?」
「貴様のようなペテン師に私は用など無い!早々にこの場から立ち去れ!」
「まだ言ってんのか?まぁイイや。勝手に喋らしてもらうけど、いま喋っているのはどっちだ?」
「フハ?何を分けの分からぬ事を!いま喋っているのは貴様ではないか」
「ハァ〜〜なに話を逸らしてんの?お前はスカムか?それともスカムに取り憑いている悪霊か?」
「なっ!?」
お〜動揺してる。まさか自分の正体がバレてると思ってなかったようだな焦ってるよ。
「さぁーどっちなんだ?」
「なにを言うかと思えば、私はスカムだ!悪霊などではない」
「あくまでしらを切るの?元伯爵様は?」
「なっ!?」
コイツは一体何者なのだ?本物の霊能者なのか?
「もっと詳しく話そうか?デモネ元伯爵、100年前の怨みを晴らそうとかバカじゃあねーの?―――」
この後も淡々とコイツに話を続けてやった。
伯爵は自分の領地を治める優しい誰にでも慕われる領主を装っていたようだが外敵から領地、国を守る為に裏では禁忌の研究をしていた。
ネクロマンサーの研究だ……死者や霊を用いた禁忌の研究をだ。
始めるには勿論死体がいる。最初は墓を荒らして研究をしていたが、そんな事を頻繁に繰り返していては何れバレる、次に行ったのは自分が治める村や町の罪のない領民たちを定期的に殺害し鮮度の良い死体で研究……まぁ〜それも頻繁に繰り返してたら何れ足が付くからね。
流石にそんな事が国にでもバレたら爵位の剥奪と即刻処刑間違いなし。
次に目を付けたのが辺境の地にあるアマゾーン国だ……アマゾーン国に伝染病(性病)を撒き散らし死体の山が出来るのを目論んだ訳だ。
まぁその時にはランバー国のお偉さん達には伯爵の研究もそれまで行った罪も調査の結果、バレバレだったようだ。
アマゾーン国の結果を知る前に捕まり処刑が決定、処刑される直前に王家に怨みごとを言って死んだ。
そのまま死んで成仏してくれたら良かったんだけど死ぬ直前に研究段階の術を自分にかけ、悪霊として王家を呪い崩壊さそうと彷徨った訳だ。
自分にかけた術が甘かったのか悪霊に成り、何年何十年と経っても誰一人王族を呪い殺す事が出来ず焦っていたところへ格好の餌食、そう心を乱した幼少のスカムに目を付け、取り憑くことに成功した。
スカムを操り自分を殺した王家を滅ぼそうと目論んだようだ。
はっきり言って逆怨みじゃあねーの?
余談だが成人したスカムの身体を使い、現在のアマゾーン国がどうなっているのか気になり自ら調査に赴いたんだけど、スカムなのか伯爵なのか分からないけど現女帝を見て心を奪われ自分のモノにしようと思った。
その後の展開は王様もアルフたちも知っているから省いても大丈夫そうだね。
まぁ〜スカムの身体を使って色々やってくれるぜ。コレでしらを切ったら笑うしかないね。
螺旋階段を上がりながら元伯爵の思考を読んだけど、ネクロマンサーの研究とはね、死体を使っての研究とか、亡くなられた人への冒涜だから、いくら領地や国を守る為とはいえ禁忌に手を出したらダメだよな。
その事実を知り正当な裁きをくだした王家は立派だけど、それを逆怨みするコイツはダメダメじゃん。
思考を読む限り当時の伯爵の研究成果は成功してないし、単なる殺人鬼じゃん。死霊の研究でアタマのネジが飛んだんだろーね。
しかし100年前のアマゾーン国の悲劇が、この元伯爵の仕業だったとは、それも二度も……簡単には成仏させねー!