王妃様のお願い
その日の夜、就寝前に俺は目を閉じ考え事をしていた。
あの親子の仲を元の状態に戻す方法は……やっぱりスカムの捻れた性格を直すのが手っ取り早いんだよなぁ〜もともと王様もアルフたちもスカムに対して邪険に思っている訳じゃあないんだから。
さて、どうしたもんかね。ヒーリングじゃあ傷や病気を治せても性格までは直せないしなぁ〜サイコセラピーならどうだろ?
一応は心の傷なんだろうけど効くのかな?お袋さんが死んだことに対しての心に受けた傷は少しは癒せそうな気もするけど……捻じ曲がった性格まで直せるだろうか?無理なような気がする。
一度身についた性格って、人の手で直るもんじゃあないしな。それこそ無理くり洗脳でもしない限り人格なんてそう簡単に変わらないだろう。
ん〜〜眠い!昨夜遅くまで起きてたから少し眠くなってきたよ……寝よう…Z z…z――――――――――
――――――――――――――――――Z z z
『アスラ様……』
Z z z
『アスラ様…』
Z …ん?誰か俺を呼んだ……?
『アスラ様』
「えっ!?」
『アスラ様、私です』
「えっ!どうして……?」
寝ぼけまなこで目の前を見てみると、守護霊の王妃様が居る!どうして?アストラル.コントロールを発動した覚えがないんだけど?
もしかして俺のLvが上がってヒーリング能力が向上したようにアストラル.コントロールも知らないうちに向上して、発動しなくても霊が見えたり霊の声が聞こえたりするのかな?
それとも夢なのか?
『あの子に、スカムに私の言葉が伝わったのか気になりまして……どうしても聞きたくご迷惑だと思ったのですが……』
「あ〜それね。伝言は、ちゃんと伝えたんだけど聞く耳を持ってくれないんだ。すまん!って近くで見てたのじゃあないの?」
夢じゃあないみたい。
『はい、私もアスラ様がお側に居られるのらばスカムのもとへ到達できると思ったのですが、やはり阻害され近く事がままならなかったのです』
「エッ?」
エッ!どーゆーこと?阻害されたってなんなの?
『アスラ様も既に気づいて居られると思いますが、あの子に取り憑いている悪霊の凄まじ邪気に力無き只の霊となった私には近く事も出来ません』
「エエッ!?なにそれ?アイツ悪霊に取り憑かれてるの!!」
もしかしてアイツが急に笑いだした時にヤツの背後に黒い影が一瞬揺らいで見えたのがそうだったのか?
『アスラ様はご存知ありませんでした?』
「まったく」
つーか、そーゆーことは事前に言ってよ!
『それは大変失礼致しました』
とりあえず王妃様の話を聞けば、スカムのヤローに取り憑いている悪霊は王家に対して怨みをもつ貴族の霊らしい。なんでも死ぬ間際に王族を呪い殺してやると言って死んでいったとか……怖!
スカムのヤローが幼少の頃、侍女たちから聞いた母親の死に動揺し精神が不安定な状態に陥った時に、つまり心の隙間をつかれ取り憑かれたとか。
王妃様もスカムの守護霊として悪霊に抵抗したが悪霊の凄まじい強さに弾き飛ばされスカムに近く事が一切できなくなったようだ。
悪霊に取り憑かれたスカムは日を追うごとに人格が変わっていったらしい。
なるほどね、どんな怨みかは知らないけど死んでまで怨み続けるとは、呪いの怨念って怖すぎでしょ!それでスカムのカラダを乗っ取り王家を滅ぼそうと企んだのか?
だから王妃様の最後の意味不明なメッセージが『――諦めず負けないで』なんだな。
『アスラ様!あの子を救って下さい。あの子は今も悪霊に取り込まれないよう必死に抵抗し闘っています』
「そうなの?」
『ハイ。私は、そう信じております』
えっ!それって都合の良い思い込みじゃん………
「でも、そう簡単にいくのかな?アイツって王妃様の言葉を一切信じなかったし、はっきり言って人に取り憑いている悪霊なんか俺は本業じゃあないから除霊みたいなコトした事ないんだよな〜」
『それは大丈夫だと思われます。アスラ様が城内に彷徨う霊を鎮めているのを拝見しました』ニコニコ
「エッ!アレって悪霊にも効くの?」
マジか?てか、あの霊たちにも効いてたんだね。
『この世に未練が残り供養もされず成仏もできなくただ彷徨うだけの霊たちが、ある者は涙を流し、そしてある者は微笑みながら消えて行ったのですから、スカムに取り憑いた霊が悪霊とは言え霊には変わりありません。おそらく有効です』
そうなのか?
アストラル体の時って俺の使える能力に制限があるから、そこで使えるサイコセラピーを冗談でかけただけなんだけど本当に成仏しちゃったんだね。てっきり俺に興味なくしてどっかに行ったのかと思ったよ。南無〜
「でもさっきも言ったようにアイツはホント人の話を聞かないし悪霊が取り憑いているとはいえ、本音はどうなんだろ?全部が全部 悪霊が言わしてるのかな?俺一人の力で悪霊退治とかできるのか?」
『そこでアスラ様にお願いがあります』
「お願い?」
『ハイ。私をスカムのもとへ連れて行って下さい。私が直接本人に問いかけます』
「エッ?さっき悪霊の邪気で近くことができないって言ってなかった?」
『ハイ。通常の手段では近く事は出来ません』
「まさか!?」
『ハイそのまさかです。さすがアスラ様、私の考えをお見通しなのですね』ニコ
「イヤイヤイヤ!それはダメでしょー。そんなの俺やった事ねーし無理だって!」
『無理を承知でお願い致します。是非なにとぞ』ペコ
幽霊の王妃様に深々と頭を下げられて断れない俺がいる……霊が俺の肉体に憑依するって大丈夫なのか?
そもそも霊に憑依されて俺の自我はどうなるんだろう?王妃様が俺のカラダを乗っ取るわけないと思うけど……どれくらいの精神的負担がかかるんだろうか?
王妃様は、なにとぞお願い致しますと、お辞儀して静かに消えて行った―――――――――――――――
♢ ♢ ♢
「もうやめてくれー!私のカラダから出て行ってくれー!」
「フハッハッハーッ!それは出来ぬ相談だ!」
「あの霊能者が私の為に母上からの言葉を伝えてくれたのに!あんな事を私に言わせて!どういうつもりだ!」
「貴様は私が言わせたと言っておるが、アレは貴様の本心ではないのか?私には聞こえるぞ貴様の心の声が!誰も信じられない誰も信じたくないと!」
「ウソだー!誰か私を助けてくれ!父上兄上!誰かーうぅ」
「仮にあの男が本物の霊能者だったとしても、王妃の真の言葉をいくら伝えようが無駄だ!今の貴様には王妃の心の声など届かないだろうからなフハッハッハ!」
貴様を守護していた王妃は近く事すら出来ないのだからなフハッハッハーッ!
♢ ♢ ♢
翌日から霊を俺の肉体に降ろす訓練が始まった。アルフたちには暫く部屋に籠るから絶対に部屋には入って来ないよう伝えマナミを扉の前で待機させ見張り役をしてもらっている。
もちろんマナミには何をするかちゃんと事前に話はしている。が、王様とアルフたちには事情を話していない。
ぶっちゃけ ややこしくなるだろうし面倒だからだ。
1日目、初めて自分のカラダに霊が入った瞬間!拒絶反応を起こしぶっ倒れましたー!気分の悪さに部屋を出て外の空気を吸いに行った時、アルフたちにバッタリ会い『顔色が悪いぞ』って心配されてしまった。
2日目、初日の教訓を踏まえて気力を振り絞り、なんとか霊をカラダに降ろすのに成功した。
しかーし気力を保つのに必死でカラダを動かす事が出来ず王妃様がカラダから離れた瞬間!嘔吐を催し急いで洗面所へ行きゲロゲロ……またそこでアルフたちに見つかり『大丈夫か?』と心配されたよ。
3日目、何度かカラダに霊を降ろすのを繰り返して、自由にカラダを動かせる事もでき、気分も悪くない。慣れって怖いねー
次に試みたものは実際に声を出しての会話だ。はじめは喋るだけでゲロゲロだったので常にテレパシーによる念話で王妃様と会話だったからね。
そして実際王妃様が俺のカラダを使い発声練習!
なんと不思議な事に俺の男の声ではなく、王妃様の女性の声になっていた。
ボイスチェンジャーは装着してないんだけど声が変換されている。面白い!
ついつい面白というか不思議な体験なので王妃様と長話をしてしまったよ。不思議としか言いようがない。異世界だからだろうか?
♢ ♢ ♢
「おまえたち、どこへ行っていたんだ?」
「え〜とイナリのところへ……」
「ハァ?イナリから暫く部屋へには近づかないように言われてなかったか?」
「いやだってよーカルロス兄貴、昨日も一昨日もイナリのヤツ部屋から出て来たと思ったらスゲー真っ青な顔してただろ?それで心配になってクラーク兄貴と一緒に様子を見に行ってたんだ」
「まったくしょうがないヤツらだな。で今日のイナリの様子は、どうだったんだ?」
「それがマナミに "ダメ"って言われて中に入れてくれなかったんだ」
「そうそうマナミのヤツ強情だったな "絶対ダメ"って念を押されたよ」
「しかし一体イナリのヤツは部屋へ篭って何をしているんだ?」
「さーな分からん」
イナリの事だから何かスカムにお袋の伝言を上手く伝える策でも練っているんだろう……
「それでな兄貴、イナリのヤツ……女を連れ込んでないか?」
「「ハァ?」」
「そうそう様子を見に行った時にマナミに部屋へは入れてもらえなかったが扉越しにイナリが女性と話す声が聞こえたんだ」
内容までは聞き取れなかったが女性の声だ。
「いやそんな報告は一切聞いてないぞ、それに外部から許可もなく城内に女を連れ込むのは不可能だぞ。おまえたちの聞き違いじゃあないのか?」
侍女に手をだすようなヤツでもないし、近くには妹も居る。
「そうだなおまえたちの聞き違いだろ?それに妹を見張りにして女と密室で……イナリに限ってそんな事は絶対にあり得ん!」
「いや絶対に女の声だった……」
「俺たちの聞き違いか?」
だけど……どこか懐かしい声だった様な気もする……?
「分かった分かった。俺が後で城内に居る者たちに、それとなく聞いて確認してみる。おまえたちは騒がず大人しくしているんだぞ」
「あー」
「分かったぜ!」
イナリが会話をしていた相手の女性が誰であったのかアルフたちが知り得るのは翌日には明るみになるようだ。