捻れた性格
亡くなられた先代王の伝言とアルフたちのお袋さんの伝言を王様とアルフたちに、とりあえず伝えた。
俺はただのメッセンジャーなので、この後どうするかは王様とアルフたちバカ兄弟の問題なので、丸投げだ。
「いやはや驚きました」ボソ
「そうですねー。イナリ殿は凄い凄いとは思っていましたけど魔剣との契約、そしてアノような能力までお持ちになられるとは。クレイグ、ここへ呼んでくれて本当に感謝します」ペコ
「いやいや陛下が気を利かせて下さったのですよ」
本当にイナリ殿はランズの言うとおり凄い方だ。癒しの能力だけでも私たちからすれば神がかっているにもかかわらず、他にも様々な能力をお持ちだ。
「ところでイナリ殿」
「ランズさんどうかした?」
「少し気になった事があるので、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ん?気になった事?」
「先代様と王妃様の事です。既にお亡くなりになられたお二人ですが……陛下と王子たちを前にしてこの様な事をお聞きしても良いのかと考えたのですが無礼を承知でお聞きします。先代様と王妃様はこの世に未練がお有りで、この城内を彷徨って居られるのですか?」
今のランズの一言で一斉に注目を集めるイナリ
「ハハ、それね。まぁ多少は未練はあると思うよ。だけど俺の認識じゃあ心のこりであって未練じゃあないし、彷徨っている訳でもないよ。」
まぁ心のこりも未練も言い方が違うだけで同じ意味だと思うけどね。
「と、言いますと?」
「守護霊として王様には先代王が、そしてアルフたちには王妃様が常にずーっと温かく見守っていると表現した方がイイかな?」
「守護霊ですか……」
「正直言って俺も霊の事は、そんなに詳しくはないから何とも言えないけどね。さっきは勢いよく霊能力がある!って言ったけど、それを生業としてるわけじゃあないからねハハ……」
……アレレ?アルフたち泣いてるの?王様まで……?
「どうしたんだアルフ、おまえもしかして泣いてるのか?」
コレが俗に言う酔っ払いの泣き上戸ってやつか?
「バッバカやろー!」ウゥ
「兄貴の気持ちは俺には良く分かる。分かるぜ!」ウゥ
「お袋が、お袋が俺たち兄弟をいつも見守ってくれている」ウゥ
「しかも俺たち兄弟を温かく応援してくれている」ウゥ
「イナリ殿、本当にありがとうなのじゃ。今では聞けぬ親父殿とオードリーの気持ちを伝えてくれて」ポロ
「いや……それほどでも」
感動して泣いているのかよ!急にみんな泣きだすからビックリしたじゃん。って、クレイグさんとランズさんまで貰い泣きしてるし!!
「イナリ!ありがとーよ。ここに居る者たちを代表として感謝する」ペコ
「いやもうイイよ、俺はただのメッセンジャーだから」
さて、問題はアレだよな?……皆んなが泣きやむのを待って切りだすかな。
さてと……みなさんソロソロ落ち着いた頃かな?どのタイミングで切りだそうか悩むな……。
「イナリ殿、こんな事を聞いて良いのか分からぬがオードリーはスカムの事は何も話さなんだかの?」
おっと!俺が話を切りだす前に王様の方から尋ねられたよ。
「その事なんだけど一応あのヤローの事も王妃様から言付かってるぜ」
っと、王様たちを前にしてあのヤローって言っちゃったよ!怒られるかな?大丈夫だよね?
「そうであるか……」
「それで、あのヤローじゃあなくてスカムは少しは反省しているのか?」
「その事なのじゃが……」
「親父!イナリに言いにくいなら俺が代わりに言ってやる。スカムは全く反省していない!それどころか未だに"自分は無実だ嵌められたのだと"言う始末なんだ……」
「そうなのか?」
あんにゃローあれだけのことをして、まだ無実だって言ってるのかよ。どんだけ性格がねじ曲がってるんだっつーの?
「庇いようがない弟だ」
「少しでも反省する素ぶりでも見せてくれたら良いのだが……」
「全くだ。口を開けば"私は何も悪くないイナリという輩に嵌められたのだ"の一点張りなんだ」
そんな状態で王妃様の伝言だと言っても信じないだろうし聞く耳さえもたないだろうな。
さて、どうしたもんかね、困った奴だな。
「なぁ〜スカムのヤローは何であんなに性格が歪んでるんだ?母親を早くに亡くして母親の愛情がないから性格が歪んだのか?」
「アイツは……スカムは子供の頃、とても素直で何事に対しても真摯に受け止める良くできた自慢の弟だったんだ……」
長男であるアルフが辛そうな表情で弟スカムの事を語りだした。それによれば幼少期のスカムは今では考えられんくらい良くできた弟だったとか?ホントか?
じゃあ現在は何故あんなに捻くれたのかと言うと、奴が10歳くらいの頃、城に仕える侍女たちの立ち話を偶然耳にしたのが原因らしい。
城に仕えて日の浅い若い侍女が先輩侍女に何故王妃様が亡くなられたのか問いかけ、それは大変な出産で王妃様はスカムを出産後、スカムを抱く事も無く亡くなったと話す。もちろん侍女たちはスカムが近くで聞いている事は知らない。
そしてその時に偶然にもその立ち話を聞いていたのはスカムだけではなくクレイグさんも近くを通るさい侍女たちが話をしているのを耳にし"無駄話はやめて職務に移りなさい"と叱ったようだが、もちろんその時にスカムが別の場所で立ち話を聞いているとはクレイグさんも気づかなかった。
ただその直後スカムが走り去る後ろ姿を見たとか……ドラマとかでよくあるシーンだね。
そしてお約束どおり自分の命と引き換えに母親の命を犠牲にして殺したのは自分。
この後の展開は俺の予想していたとおり、家族である父親と兄たちは面にさえださないが母親を殺した自分を憎んでいるものと!王様もアルフたちも本当は自分が憎くて仕方ないのだろうと何度か言われた事があるようだ。
そこから捻くれ人生真っしぐらってことだね、まぁーよくある展開すぎて呆れるしかねーな。
なんつーかB級ドラマかよ!
「なるほどね〜呆れてものも言えねーわ」
「私が全て悪いのです。あの時に侍女たちの会話がただの世間話だと勘違いし、内容を確認しなかったからです」
「もう良い、クレイグは何も悪くないのじゃ。物心つく頃に母親の死を正直に打ち明けず、母親は闘病中と偽った余が全て悪いのじゃ……」
なるほどね〜しかしよく10年も嘘を通せたなぁ〜逆にスゲーな。
まぁそれまでは母親が生きているもと思い、病気で母親に会えないと思っていたんだな、それが侍女たちの会話で母親は既に他界したと知ったのか。母親の死と王様の嘘でダブルパンチ。
まぁ理由はどうあれ捻くれすぎなんじゃあないか?
あんにゃローのせいで場の空気が一気に重くなったじゃん。結果的に俺がスカムの事を聞いたせいだけど、コレはソロソロお開きをした方が良さげな雰囲気だね。
「なぁ〜ソロソロお開きにしない?俺すこし疲れたから眠くなってきたよ。スカムの件は明日改めて話をすると言う事でイイかな?」
「それがよろしいですね。イナリ殿も色々あってお疲れでしょうから、私が以前イナリ殿が滞在されていた部屋まで、ご案内いたしましょう」
「じゃあお願いしますクレイグさん」
さっきの話は後日と言う事でお開きになった。既に眠っているマナミを抱き抱えクレイグさんの案内のもと以前俺が客人として寝泊まりしていた部屋へ向かった。
「イナリ殿、先程のスカム王子の話なのですが、スカム王子をイナリ殿のお力で昔の王子の様に素直で優しい王子に戻せないでしょうか」
「そー言われても俺の力で性格は直せないよ。まぁ〜とりあえず明日、王様たちにスカムに会えるか許可を取って王妃様の伝言を伝えてみるよ」
部屋を案内されクレイグさんと別れた。クレイグさんの後ろ姿は少し寂しげだった……。
理由はどうあれ城の皆んなを心配させて、勝手に被害妄想しやがって!王様たちも悪事を働いたスカムを幽閉したとはいえ以前から色々と心に傷を抱えていたんだね。
ん〜〜さっきも言ったように俺には性格を直す超能力は無いんだよな〜あったら欲しいよ。