一難去ってまた一難
保護をしたとはいえ一切食事に手をつけない子を何とかしようと悩んだ末、あの子の兄……イナリと名のるヤツのもとへ俺たちは向かうことにした。
そして地下牢へ向かう移動中俺は考えた。
今は亡き親友イナリの、……英雄イナリの名を汚さぬ為、俺はイナリに固執しすぎて何か間違った事をしたのではないかとフッと考えてしまう。
イナリという名前自体は滅多に聞かない名だが、世界は広い。同じ名の持ち主が他に居てもおかしくないのではないかと……そう考えれば親父が倒れたのをいいことに王である親父の許可も無く新たな法を制定したのは、いたずらに先を急ぎすきたのではないかと……。
最終的には親父も渋々納得してくれたのだが。
そんな事を考え地下牢へ近づいていると、やけに下の様子が騒がしい?
「ん?なぁ兄貴、やけに下が騒がしくないか?」
「なんだあ?」
「騒がしいな?」
「そうだな」
俺以外に弟たちも下の様子に気がついたようだ。地下牢で何かあったのか?何か胸騒ぎがする……杞憂であれば良いのだが。
足早に地下牢へ向かえば、俺たちの姿に牢番の兵士の1人が気がつき、こちらへ慌てて駆けよって来た。
「なんの騒ぎだ!?」
「ハッ!牢に異常がないか巡回していたのですが囚人の1人の様子が変だと気づき確認したところ息をしておりません!」
「なにー!?」
「囚人の1人が息をしていないだと?」
俺たちは兵士に、その息をしていない囚人のもとへ案内された―――案内された囚人を見た途端、俺たち兄弟は絶句した。
その息をしていない囚人とは、俺たちが保護をした女の子の兄ではないか!
俺たちがそいつに近づき確認しているが、そいつは静かに眠っているように横たわっている。だが現実には息もしていなければ心臓も動いていない。
もしや命に関わる何らかの持病でも患っていたのか?もしそうだとしたら俺はとんでもない過ちを犯してしまったのではないのか?
◇ ◇ ◇
王様の部屋を出てから肉体に戻る途中、フッと思い立ち止まる、どうして隻眼の賢者が死んだ事になってるの?あの後にヤツらの目を欺こうと思い死んだ事にしようと思ったのは俺の考えで、誰にも言ってなかったような気がするんだけど?
アレ?誰かに言ったのかな?
ん〜〜まぁイイや。間違った情報が流れてるみたいだけど勇者を油断させ欺けれるなら。
っと、考え事をしながら立ち止まっちゃったから、あらまー!囲まれちゃったよ。ったくコイツらってホント油断も隙もない!
ハイハイ、恨みつらみは一切受け付けませんよー!しつこくつき纏うなら強制的に成仏してもらいますよー!さぁーどいたどいた!
◇ ◇ ◇
イナリ殿が生きておると知った余は、早急にイナリ殿を牢から解放すべく牢がある地下へ向かった。
本来であれば兵士を呼び寄せ命じる事で済ませれる要件なのだが、早くイナリ殿に!本当にイナリ殿の生きている姿を確認したく地下牢へイナリ殿も面識のある医術師のクレイグを呼び出し地下牢へと―――そして地下へ差し掛かる階段へ一歩足を踏み入れたところ、下の様子が騒がしい?
「陛下、下の様子が騒がしいようですが?」
この城の医術師である私クレイグが王であらせられる陛下の護衛騎士に至急陛下の居られる部屋へ来るように呼ばれた。
もしや心身共にお窶れになられている陛下の身に何か有ったのではと!
そして急ぎ陛下のもとへ行けば確かにお窶れになって居られるのだが顔色が良い?しかもベッドから起き上がり着替えまでされている!?
どうされたのか事情を聞けば、あのイナリ殿が生きて居られると!?最初こそ冗談ではと思ったのだが、その様な冗談など陛下が仰られる訳が無い!確認しなくては!本当にあのイナリ殿が生きて居られるのを確認しなくては!
そして陛下と共に何故そのような所へイナリ殿がと疑問に思いつつ?イナリ殿が居られる地下牢へ赴けば何やら騒がしい?やはり陛下が仰られたようにイナリ殿がそこへ居られる?
「うむ、お主も気づいたか」
はやる気持ちをおさえ、護衛である騎士が余とクレイグを囲むように目的の場所である地下牢へ向かった。
「お前たち!一体ここで何をしておるのだ!?」
イナリ殿の居られる地下牢へ向かえば我が息子たちが屯ろしておる。
息子たちもイナリ殿の不思議な能力で、ココへ呼ばれたのかの?イヤそれは無い。その様な事は一切イナリ殿は申しておらなかった。では一体?
「おっ親父!?どうしてココに?身体の方は大丈夫なのか?」
何故親父がココへ?地下牢へ来ることは誰にも伝えていなかったはずだが?弟たちを見ても俺と同じように親父を見て驚いている。
「余の身体の心配などよい。どうしてお前たちがココへ居るのか聞いているのじゃ?」
息子たちの様子、そしてココへ居る者たちの様子からしてイナリ殿に会いに来たのではないようじゃ。
「その事なんだが……親父!すまん!」
「ムッ!?」
「囚人の1人を俺の過ちで死なせたのかもしれない」
「なんじゃと!?」
詳しい話を息子たちから聞いた余はチラリと、その息をしていないという囚人を見た。
ふむ、息子たちは未だ気づいていないようじゃがイナリ殿本人で間違いない。クレイグも気づいたようじゃな。
以前一度だけクレイグとランズの3人でイナリ殿の素顔を拝見させてもらったからの。今は顔に傷痕がないようじゃが間違いなくイナリ殿じゃ。
「親父!俺を処分してくれても構わん!俺の強引なやり方で罪の無い者を死なせたのかもしれない!いかなる罰則も受ける!」
「親父!俺もだ!俺も兄貴に賛同した。俺にも罰則を下してくれ!」
「親父!俺もだ!俺も兄貴の意見に同意したんだ。俺にも裁きを!」
「親父!俺もそうだ!俺もどんな罰則も受け入れる覚悟はある!」
ふむ、息子たちは反省しておるようじゃな。一時の感情で国の法など決めるものではない事を深く考え理解しなければ成らぬ。
――が、そろそろ種を明かしても良いかのイナリ殿?
「息子たちも深く反省しておるようじゃしイナリ殿の意見を聞きたいのじゃが?」
「「「「イナリ殿!?」」」」
いきなり親父はなにを言い出してるんだ?イナリは死んだ……
「そうだな〜。ってか、何度も俺を殺すなっつーの!しっかしホントお前らって相変わらず仲良しと言うかー揃いも揃ってバカだなぁ〜」ムク
《《《エ───────ッ!!!!?》》》
イナリの事情を知る事のない者たちは一斉に愕いた。先程死亡が確認された死体がいきなり起き上がり喋りだしたのだから。
「おま!おま!お前は死んだはずじゃっ!」
「何度も言わせるなって!生きてるっつーの!それよか、お前ら俺を目の前にして俺がイナリ本人だと気づいているのか?」
怪しい?コイツら絶対気づいてない。
「おっお前はイナリ本人なのか?」
まさか
「まっ、まさか!生きてたのか?」
まさか
「ウソだろ!本当に本当にイナリなのか?」
冗談じゃないよな?
「イナリ殿本人に間違いない!余が保証する。クレイグはどうじゃ?」
「ハッ!どこからどう見てもイナリ殿本人で間違い有りません!イナリ殿を見間違えるなんて、そんなバカなことがある訳が有りません!」
ガ────────ン
完全に死んだものだと思い込み経緯はどうあれ、本人を目の前にしても見間違えた事に落ち込む王子たちであった。
いつまでも地下牢で騒ぐ訳にもいけないと言う事でお互いに積もる話もあるだろうと、王の指示で場所を変える事に決まり、一同いざ移動をしようとした時!
「アルフ王子!大変です!」バタバタ!
階段を大慌てで下りてきた兵士が!?
「どうした!?」
「ハイ!王子が保護をした女の子の姿がありません!」
「なにっ!?見間違えじゃあ無いのか?」
「ハイ!女の子の世話をしているメイドの報告です!私も部屋の中を確認したのですが女の子の姿を確認できませんでした!」
「イナリ!すまん!全て保護をした俺の責任だ!」
「気にするな。別にアルフを責めてなんかいないさ」
一難去ってまた一難かよ。マナミどこへ行ったんだ?もしかして俺の事が心配になって、俺を探すため……見知らぬ城内で迷子になってるんじゃ……
「アルフ!積もる話は後だ!とりあえずマナミを保護をした部屋まで案内してくれ」
「あ、ああ」
とりあえず俺たちはマナミが保護されていた部屋へ向かうことに。何か手掛かりでも残っていれば良いが、もしくはマナミが部屋に戻っていたらイイんだけど。